第24話 すごい推理でした
2020/12/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/12/30 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
あたし達を乗せた馬車は町を通り抜け、立派な建物に入りました。エントランスも立派で、大きな丸い柱が等間隔に立ち並んでいて圧倒されます。
「ローザ。ここが私たち騎士団の本部だ。事務所から訓練場、そして寮に至るまで全てが揃っている。これから君は女子寮にしばらくの間住んでもらう事になるが、その前に手続きをしなくてはならないのでな。事務所に一緒について来てもらおう」
「はい」
そうしてオフェリアさんに導かれて建物の中に入ります。すると、何だかとても意地悪そうな金髪の男がニヤニヤしながらオフェリアさんに声をかけてきました。
「おや? これはこれは第七隊のオフェリア様ではありませんか。随分とお早いお帰りで」
「これはレオシュ殿。出迎えご苦労」
オフェリアさんはそのまま前を通り過ぎようとするがレオシュという男は尚も不躾な視線を浴びせてくる。
「おやおや。随分と鎧がきれいですな。まさか何もせずに帰ってきた、などと言うことはありませんよね?」
「任務は果たした。貴殿に何かを言われる覚えはないが?」
「おやおや。それだけですか? 村から音沙汰がないという事はそういうことですよねぇ? まさか誇り高き騎士ともあろう者が村の娘たちを見捨てたと?」
「貴殿は何が言いたいのだ?」
「いえ。村娘の一人くらいは助けてくると上は期待していたと思うのですがねぇ?」
「……見ての通り子供を保護している。それでは不足だというのか?」
「いえいえ。ですが、ねぇ?」
「下らん。そんなことで呼び止めるくらいなら少しでも民を守れるように修練を積むことだな。失礼する」
そうぴしゃりと言い放ったオフェリアさんはあたしの手を引いて建物の中へと歩いて行きます。
「チッ。女のくせに図に乗りやがって」
レオシュはそう不機嫌そうに呟いたのでした。
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「ローザ。楽にしていい」
「はい」
恐らくオフェリアさんの執務室と思われる部屋に通された私は応接スペースと思われる場所にあるソファーに座っています。
さっきメイドさんの格好をした人があたしとオフェリアさんに紅茶を出してくれました。そのカップから暖かそうな湯気がふわふわと立ちのぼっているのですが、あたしは緊張でそれどころではありません。
オフェリアさんは一口を紅茶を飲むと口を開きます。
「さて、ローザ。まずは情報提供を感謝する。君の話ではゴブリンはあの先の村におり、その数は数百と言っていたが、間違いないな?」
「はい」
「よし。まずはその情報を前提に威力偵察を行う予定だ。いずれは君の村からゴブリンは追い出されることだろう」
完全に勘違いされていますけど、別にあたしはミツェ村の村人じゃないんですよね。でも、本当の事を言ったらラポリスクに送り返されちゃったりするんでしょうか?
あたしの不安が顔に出ていたのか、オフェリアさんは小さく笑います。
「心配するな。騎士団は精強だ。たとえ千匹いたとしてもゴブリンの群れは駆逐してやるさ」
あ、ええと。そういう不安じゃないんですが。
「それでな。この部屋は誰かが盗み聞きなどはできない様になっているから安心して話して欲しい。もちろん、ここで話したことは私とシルヴィエの胸のうちに留めておくことを約束しよう」
「え?」
「さて、君はミツェの村の村娘だ。いいな?」
「え、えっと?」
オフェリアさんが何を言っているのかよく分かりません。
「そこははいと言うのだ」
「えっと、はい?」
「全く」
オフェリアさんはやれやれといった感じで困ったような呆れたような表情を浮かべています。そしてすぐに真剣な表情になりました。
「ではここからが本題だ。君は一体どこから来たんだ? どうしてゴブリンたちに追われていたのだ?」
「え……」
どうして、バレたんでしょうか?
「まず、君のその髪や肌があまりにきれいすぎるところはあまりにも不自然だ。そこまで美しく磨き上げられた髪と肌はとてもではないが村娘のものではない」
あ、それは……ピーちゃんのおかげですね。
「だが、それにしては髪が切り揃えられておらず不自然だ。つまり、君はハサミは使えぬが石鹸や香油などは手に入り髪と肌を整えられるという極めて特殊な状況に置かれていたという事を意味している」
えっと。はい。ハサミは使えませんでしたね。短剣しか持っていなかったですし。
「それに、あの毛並みの良い白猫といいミミズクといい、一般庶民が手を出せるレベルのペットではない」
それは従魔だからですね。あ、そういえばホーちゃんの種族って何なんでしょうね?
「そしてもう一つは十一だというのに既に洗礼を済ませている点だ」
「え?」
あ、しまった。今の反応は完全に知らなかったことがバレてしまいます。
オフェリアさんはしたり顔で話を続けてきます。
「ここオーデルラーヴァでは、洗礼は十二月に行われるのだ。だからまだ七月だというのに洗礼を受けた子供がいるはずがない。この時点で洗礼が終わっている国はこの辺りだと西のベルーシ王国と北東のマルダキア魔法王国、あとは更に北のカルリア公国だけだ」
「う……」
「これらの事を総合的に考えると、君は貴族か大店などの裕福な家の娘で、何らかの事情で追われる身となりあの森に逃げ込んだ。そしてお付きの侍女も一緒だったがゴブリンに襲われてしまい、その侍女が犠牲になっている間に逃げ出して私達のところにたどり着いた、といったところだろう。そして、その年齢でスライムをテイムしているところを見ると、出身はマルダキアの貴族階級ではないか?」
あ、えっと、はい。全然違います。
あたしが何と答えたら良いのか分からずに困っていると、オフェリアさんは満足げな表情を浮かべてあたしの頭をそっと撫でてきました。
「我が国は自由都市だ。君のような者も受け入れるから安心するといい」
その声色はとても優しくて、口調はぶっきらぼうですけどあたしを安心させようとしている想いが伝わってきます。
「今日から君はミツェ村の生き残りのローザだ。それと、二度洗礼を受けたところで何かが起きるわけではないからな。十二月にもう一度洗礼を受けるように」
「え? じゃあ?」
「ああ。そうだ。君を売り渡す様な真似はしない」
「あ、ありがとうございます!」
こうして何だかよくわかりませんが壮絶な勘違いの末にあたしは滅んだ村の唯一の生き残りという事になったのでした。