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第四章第85話 責任重大です

 ガブラス伯爵のお屋敷に到着するとすぐに、クリステア子爵とガブラス伯爵がいるお部屋に通されました。


「おお! ローザ嬢、ご無事で何よりです」

「ガブラス伯爵、ありがとうございます。ご心配をおかけしました」


 あたしはガブラス伯爵に向かってカーテシーをします。


「昨日は重傷者の治療に向かわれたとお聞きしましたが……」

「はい。本当は昨日のうちにご挨拶に伺うべきでしたのに、失礼しました」

「いえいえ、その件はクリステア子爵より伺っておりましたからな。して、治療のほうは?」

「はい。おかげでなんとかなりました」

「なるほど。さすがですな。マレスティカ公爵閣下が選ばれただけある」

「えっと……恐縮です」

「うむ。さて、ではそちらにお掛けください」

「はい」


 あたしはソファーに座ります。


「まずは状況をご説明しましょう。ローザ嬢の乗った馬車を含む車列が何者かの襲撃を受けた。このことはよろしいですな?」

「は、はい」

「その結果ですが、タルヴィア子爵夫妻は残念ながら遺体となって発見されました。横転した馬車の中で首を一突きにされたものと考えられます」

「う……」

「また、使節団の人員のおよそ八割が襲撃、およびそのときに受けた傷が原因で死亡しました」

「……」

「その結果、随行していた貴族家の者全員の死亡が確認されました。もちろん、ローザ嬢はこうして生きておられますが」

「えっ? で、でもメラニアさんは……」

「コルネ男爵未亡人は使節団員ではなく、ローザ嬢の侍女でしょう」

「それは、そうですけど……」

「ともかく、使節団の貴族はローザ嬢のみとなりました。ですのでこれからはローザ嬢が団長となります。よろしいですな?」

「は、はい」

「よろしい。では、続けましょう。続いて、襲撃者たちについてです」

「はい。一体誰が、どうして……」

「背後関係は不明ですが、聖ルクシア教会と関係のある者たちによる襲撃である可能性が高いと考えています」

「えっ?」

「こちらをご覧ください」


 そう言ってガブラス伯爵は布袋を取り出し、中身をテーブルの上に出しました。


「えっと、これは……」


 チェーンの先にちょっと気味の悪い目玉のようなものが付いているんですが、はっきり言ってものすごく不気味です。


「これは聖ルクシア教会が信奉する光の神ルクシアを(かたど)ったシンボルです」

「……」


 こんなのが神様だなんて……。


「もちろん、そのように見せかけるために準備したという可能性もあります。ですが討ち取った者たちは全員これを持っていたことに加え、捕らえられた者はルクシアを(たた)える祈りを叫んでから自害しました。これらのことを考えると、今回の襲撃は聖ルクシア教会となんらかの関係があると見て間違いないでしょう。つまり……」


 そう言って、ガブラス伯爵はあたしのほうを見てきました。


「あたし……ですよね?」

「はい。ローザ嬢は光属性に適性をお持ちの女性です。聖ルクシア教会ではそのような女性を聖女と称し、様々な方法で集めています。その中には今回のように、強引な手法も含まれるのは有名な話です」

「は、はい」

「そのうえ、ローザ嬢は聖ルクシア教会が絶対悪と定める魔物を従えている。聖ルクシア教会が教義と矛盾する存在をそのままにしておくとは考えられません」


 そうだって教わりはしましたけど、まさか本当にそれだけのためにイヴァンナさんとタルヴィア子爵を、使節団の皆さんを?


「それに、ローザ嬢を狙ったという証拠もあります」

「え? あ……」

「おや? 何かありましたか?」

「い、いえ。そういえばあのとき、変な奴らが来てターゲットだって言われて、一緒に来いって言われました」

「それは……差し支えなければ、その連中が今どうなっているか

を教えていただけますかな?」

「は、はい。その、多分、ギガントスノーベアに食べられてお腹の中に……」

「……よくぞご無事で」

「は、はい……」


 ガブラス伯爵はふうっと大きく息をつき、再び真剣な表情に戻りました。


「ではこちら側で確認した内容を説明しましょう。襲撃の際、連中は何かを探しているようだったそうです。そして馬車の中をくまなく調べていったそうで、毎回外れだ、と話していたそうです」

「……」

「しかもすべての馬車を調べ、ローザ嬢の乗る暴走した馬車をわざわざ追いかけていったそうです。魔の森の中に向かっているにも(かか)わらず」

「え? それって?」

「普通に考えれば、いかにご令嬢がテイマーであり魔法使いであるとはいえ、魔の森に入れば待っているのは死のみです。ということはつまり、連中の目的はローザ嬢を誘拐することだったということでしょう。だから、ローザ嬢に追いついた連中はローザ嬢のことを『ターゲット』と呼んでいたのでしょう」

「はい」

「また、襲撃もかなり計画的に準備された物でした。その証拠に、真っ先に狙われたのがタルヴィア子爵夫妻の馬車でした」

「え?」

「だが外れ、と言われてタルヴィア子爵夫妻は殺された。そのあとも執拗に馬車を狙い、次々と破壊しながら次々と侍女たちを殺していきました。外れ、と言いながら」


 こ、怖い……。どうしてあたしが狙われなきゃいけないんですか?


 あたしは聖ルクシア教会に何もしてないのに!


「ローザ嬢、お気持ちは分かります。ですがローザ嬢もマレスティカ公爵家の一員となられたのです。マレスティカ公爵家のご令嬢として、マルダキア魔法王国貴族の一員として、何より国王陛下の使者としての責務を果たしていただきたい」

「う……は、はい。でも、どうしたら……」

「おっと、そうでしたな。ローザ嬢はまだ学生で、しかも年齢的にはまだ外には出ていないはずなのでしたな。これは失礼しました。まずは国王陛下に報告書をお書きください。それを急使に持たせ、トレスカにおられる陛下にお届けするのです。書き方はお教えしましょう」

「は、はい」

「では……」


 こうしてあたしはガブラス伯爵に教えられながら、報告書を書き始めるのでした。

 次回更新は通常どおり、2024/07/20 (土) 20:00 を予定しております。

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