第四章第82話 ピーちゃんがすごいんです
「ピッ! ピピッ!」
ピーちゃんは体の一部を伸ばし、自分自身をまるで指さすかのような形になりました。
「えっと……」
「ピピー! ピッ!」
あれ? もしかしてここを魔法で治療しろってことでしょうか?
「わかりました」
不思議な人体展で見た体の内部構造と、ラダさんの凛々しい顔をイメージして治癒魔法を掛けました。するとピーちゃんはまるでタイミングを合わせたかのようにするりと移動します。
あたしの魔法は上手く発動し、顔の傷はあっという間に元に戻りました。
「あっ! やりました!」
「ピピッ!」
しかしピーちゃんはラダさんの体の上に乗りました。
あっ! そうですよね。まだ治療は終わっていません。
ラダさんの傷は肩口から大きく斬られたものがあり、お腹にも刺し傷が三か所あります。
ピーちゃんはまずお腹の傷にくっつきました。そして同じように膿と黒く変色したものを溶かして……えっ!?
なんと周りの綺麗なところまで溶かしています。
「ピーちゃん!?」
「ピピッ!」
「あ……」
ピーちゃんはお腹の肉を溶かしきると、内蔵が露出しました。
えっと、これって腸、ですよね? 大きな傷があり、そこから変な色の液体が漏れ出ています。
まさか! ピーちゃんはこれをあたしに見せるために?
「ピーちゃん、ありがとうございます。治します!」
「ピッ!」
あたしは不思議な人体展を思い出しながら内蔵が綺麗に治るイメージで治癒魔法を掛けます。
……上手くいきました。もう傷があったなんて分からないくらい綺麗です。
「ピピッ!」
今度は肩口の傷ですね。
今度もピーちゃんが膿と腐った肉を溶かし、そこにあたしが治癒魔法を掛けます。
はい。こっちは傷が深かっただけで傷としては単純だったので簡単です。
あとは腕と足ですけど、一体どうしたら?
「ピピッ! ピピー!」
するとピーちゃんはまず右足に纏わりつきました。同じように膿と腐った肉を溶かしていきます。
「えっと……」
もしかして、足が、元に戻る、感じですかね?
あたしはそうイメージして魔法を掛けます。
ですが魔法は上手く発動しません。ピーちゃんが傷口を溶かしてしまったので血が勢いよく流れ出て、ピーちゃんが慌ててそこに飛びつきました。
「ピッ!? ピピッ! ピピー!」
ううっ。ピーちゃんが怒っています。
「ピピー!」
するとピーちゃんは右足の先にくっついたまま、にょーんと体を伸ばしてまるで骨のような形になりました。
「えっと、骨、ですよね?」
「ピッ! ピピッ!」
それからピーちゃんはもう一度体を変形させて、足の形になります。
えっと、もしかしてまず骨を生やして、そのあと足の他のところを治せってこと、でしょうか?
そんなこと、できるんでしょうか?
……いえ、やるしかないです!
「わかりました。やってみます」
「ピッ!」
ピーちゃんが飛び退いたのと同時にあたしは治癒魔法を掛けます。まずは骨の構造をしっかりイメージして、それから筋肉や血管が治るイメージです。
すると強烈な光と共にラダさんの右足が再生していき……。
しばらくするとラダさんの右足は元どおりに戻っていました。
「や、やりました。ピーちゃん、やりましたよ!」
「ピピッ!」
「あ、そ、そうでした。まだでしたね」
続いてあたしたちは左腕も右足と同じようにして治療しました。
「はぁ、はぁ、はぁ、で、できました」
もう目立つ傷はありません。これで回復してくれればいいんですけど……。
「ピピッ! ピピー!」
「え? まだあるんすか?」
なんでしょう?
ピーちゃんはラダさんの体の上に乗ってアピールしてきますが、わかりません。
ただ、ラダさんの顔色は悪いままなので、ピーちゃんの言うとおりどこかにまだ悪いところがあるはずです。
えっと、えっと……。
「ピピー」
ピーちゃんはそう言うと、治癒魔法を発動しました。ラダさんの全身を光が包み、しばらくするとラダさんの顔色が良くなってきました。
「ピッ、ピピー」
ピーちゃんはそう言うと、ぐったりとしてしまいました。
「あっ! ピーちゃん! 大丈夫ですか?」
「ピー」
かなり疲れているみたいです。
そうですよね。ピーちゃんはこんなに体が小さいんですから、MPだってきっとそんなにたくさんはないはずです。
あたしが上手くできないせいで無理させちゃいました。
「ごめんなさい、ピーちゃん」
「ピピー」
ピーちゃんは気にするなとでも言わんばかりに体の一部をフリフリと振って慰めてくれます。
「でもピーちゃん、ありがとうございます。ピーちゃんのおかげでラダさんが……」
「ピピー」
「はい! 良かったです!」
「ピピー」
あたしはピーちゃんをぎゅっと抱きしめるのでした。
次回更新は通常どおり、2024/06/29 (土) 20:00 を予定しております。





