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第四章第75話 クリステア子爵が来ました

「でも……」

「どうか! どうか!」


 そんな不毛なやり取りを続けていると、ドドドド、という地響きのような音が後ろから聞こえてきました。


「えっ?」


 何かと思って振り返ると、なんと道の向こうで土煙が上がってました。しかもその土煙はものすごい速さでこちらに近づいてきます。


 まさかゴブリン!?


 ……って、そんなわけないですね。ゴブリンはあんなに速くないですし、それにあんな風に土煙が上がることもありません。


 あれがなんだかは分からないですけど、魔物とかだったら大変です。


 あたしはとりあえず道の脇に避け、魔力弾で迎撃する準備をします。


 ……段々姿が大きくなってきました。


 って、あれ? ……騎馬隊ですね。大勢の馬に乗った兵士の人たちが、旗を掲げた一騎を先頭にものすごい速さで馬を飛ばしてこちらに向かってきています。


 あれ? あの旗の模様って……どこかで見たことがあるような?


 ううん。絶対に見たことあると思うんですけど、思い出せません。


 そうこうしているうちに、騎馬隊は門の前で止まりました。そして集団の中から一騎が前に出て名乗りを上げます。


「私はクリステア子爵ステファン! ランスカ男爵の要請を受け、国王陛下の使者でいらっしゃるマレスティカ公爵令嬢ローザ様を迎えに参った! 開門を願う!」


 えっ? あたし?


 突然名前を呼ばれてびっくりしましたが、それは門兵長さんたちも一緒のようです。


 門兵長さんたちは慌てて(ひざまず)きました。クリステア子爵を見上げつつも、ちらちらとあたしのほうに視線を送ってきます。


 えっと……。


 クリステア子爵は怪訝そうにピクリと眉を動かし、少し怒ったような口調になりました。


「なぜ門が開かれぬのだ! マレスティカ公爵令嬢を保護した、と急使を送ってきたのはランスカ男爵ではないか! よもやこの私を(たばか)ったとでも言うのか!?」


 しかし門兵長さんは焦った様子で首を横に振りながら、ちらちらとあたしに視線を送ってきます。


 ……あれ? クリステア子爵? そういえばロクサーナさんの家ってクリステア子爵家だったような?


「あの、子爵様……」

「む? なんだ! 横から話を遮るとは……え? 公爵令嬢!? 公爵令嬢ではありませんか! なぜこのような場所にお一人で!」

「えっと……」


 あたし、この人と会ったことありましたっけ?


 口ごもっていると、クリステア子爵はギロリと門兵長さんたちを(にら)みました。


「ええい! お前ら! 要請を受けて急行したこの私を足止めにするだけでなく、なぜ国王陛下の使者であるマレスティカ公爵令嬢がこのような場所にお一人でおられるのだ! 不敬にもほどがあるぞ! 国王陛下に代わり、陛下の忠臣たるこの私が引導を渡してくれる!」


 クリステア子爵はそう叫ぶと、いきなり剣を抜きました。


「わわわ、ちょっと! 待ってください!」

「ええい! お止め下さるな! これは陛下に弓を引いたも同然!」

「だ、ダメです! あたし、この人たちにはまだ何も……」

「まだ!?」


 あっ! 違います! そういう意味じゃないんです!


 すると今にも斬りかかりそうなクリステア子爵を馬に乗っているうちの一人が止めに入ります。


「ステファン様、落ち着いてください。ここにはご令嬢がいらっしゃるのですよ。よもや、ご令嬢の前で血を見せるのはおつもりですか? それは騎士道に反するのではありませんか?」

「む? むむむ、それもそうだな。公爵令嬢、申し訳ない。ご令嬢にお見苦しいものを見せてしまった」

「あ、はい。じゃなくて、いえ、その……」

「おい! 何をしている! 早くご令嬢のための馬車を用意しろ!」

「あ、それは……」

「ん? なんですかな? ご令嬢」


 クリステア子爵はあたしのほうを怪訝そうな表情で見てきました。


「えっと、クリステア子爵様は、その、もしかしてロクサーナさんと……」

「魔法学園でご令嬢と同級生のロクサーナであれば、私の娘ですな」

「あ、そうなんですね。それじゃあ、実は――」


 あたしはパドゥレ・ランスカでのことを伝え、ランスカ男爵家が信用できないので入りたくないと伝えました。


「なんと……」

「そのようなことが……」

「よくぞご無事で……」


 クリステア子爵たちは同情してくれていますが、門兵長さんたちは顔面蒼白になっています。


「相分かりました。ですが、ご令嬢には馬車が必要でしょう。ご令嬢が婚約者でもない男の馬に相乗りするというわけにもいかないでしょうし、我々としてもご令嬢を歩かせるというわけにはいきませんからな」

「それは……」

「ですからこの町で馬車を手に入れ、その(のち)に出発するということでどうでしょう?」

「えっと……」

「ご令嬢のご懸念は承知していますが、ご安心ください。我々が宿を借り切り、ランスカ男爵家の者たちはご令嬢の許しがない限り一切近づけないようにいたします。そしてこれを我がクリステア子爵家の名に懸け、保証しましょう。これでいかがですかな?」

「……わかりました。そこまで言ってくれるんでしたら」


 するとクリステア子爵は満足げな表情で(うなず)くと、再び門兵長さんたちのほうを険しい表情で睨みました。


「聞いていたな? 開門を願う!」

「も、も、もちろんです!」

 次回更新は通常どおり、2024/05/11 (土) 20:00 を予定しております。

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