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第四章第74話 門兵長が出てきました

「お嬢様、うちの町から迎えの者が行ったはずなんですけど、そいつらと会いませんでしたか? っていうか、なんで一人で来てるんですか!?」

「えっと、その、色々あったんです」

「えっ!? 色々? 色々ってどういうことですか?」

「えっと……あ! じゃ、じゃあ、冒険者ギルドに行ったらすぐに出ていきますから」

「はあっ!? 意味がわかんないんすけど? ちょっと!」


 ど、怒鳴られちゃいました。


「……じゃ、じゃあ冒険者カードを返してください。入らないで出ていきますから」

「はあっ!?」

「あ、その……」


 こうして問答をしていると、門の向こうからぞろぞろと兵士の人たちが出てきました。その中で一番偉そうな感じのおじさんが話し掛けてきます。


「おい! 何があった? お嬢さん、事情を教えてくれますか?」

「えっと、こ、この人があたしの冒険者カードを返してくれないんです」

「はぁ!? ちょっと! 何言ってんですか! 門兵長の前でおかしなこと言わないでください!」

「だったら返してください。お願いします。出ていきますから」

「待て待て待て、とりあえずトランは落ち着け。その制服を着ているってことは、そこのお嬢様は魔法学園の生徒さんだ。ってことは、多分貴族だぞ?」

「そうっすよ! だって、あのマレスティカ公爵家のお嬢様――」

「はぁ!? 馬鹿野郎! そうと分かっているならなんで言い争いなんかしてんだ! この馬鹿野郎!」

「いてっ!」


 門兵長さんは門番の人の頭をポカリと叩くと、門兵長さんはあたしの前に(ひざまず)きました。


「お嬢様、うちの者が大変な無礼を働き申し訳ございません。この馬鹿、実はまだ新人でして、お嬢様のように高貴なお方と話すこと自体が初めてなのです。ランスカ男爵の又従兄弟であるこのヴァシルがきちんと言ってきかせますので、どうか広い心でお許しください」

「え? ランスカ男爵?」

「えっ?」


 あ! しまった。心の中で(つぶや)いたつもりだったんですが、口から出ちゃってました。


「と、とにかく! 冒険者カードを返してください! そうしたら出ていきますから! 村にも入りません!」


 すると門兵長さんは顔が真っ青になり、慌てた様子で謝罪をしてきます。


「お嬢様! 大変申し訳ございません! 心より謝罪いたしますので、何があったのかご教示いただけませんでしょうか? ランスカ男爵もランスカ男爵領の民も、お嬢様とマレスティカ公爵家に敵対する意思はございません!」


 それから門兵長さんはちらりと周りの兵士たちを見て、小声で命令をします。


「お前らもさっさと跪け。いつまでマレスティカ公爵令嬢に無礼を働き続けるつもりだ」

「す、すみません!」


 すると兵士の人たちと門番さんは一斉に跪きました。


「えっと……そうじゃなくて冒険者カードを返してくれれば……」

「おい! トラン! 早く冒険者カードを!」

「は、はい!」


 門番さんは門兵長さんに冒険者カードを手渡し、門兵長さんはそれを両手の平に乗せてあたしに差し出してきました。


 あたしはおずおずとそれを受け取り、カムフラージュ用のバッグにしまうふりをして収納に入れます。


「じゃあ、あたしはこれで――」

「お待ちください!」


 立ち去ろうとしたのですが、門兵長さんに呼び止められます。


「このままお嬢様を町に入れなかったとなればランスカ男爵家の名折れです。どうか! どうか一日だけでも構いませんので、ご滞在いただけないでしょうか? ランスカ男爵家が総力を挙げて歓迎いたします」

「え? い、嫌です」

「な、なぜでしょうか?」

「だって、どうせ変な人たちが来るんですよね?」

「はい? それは一体……」

「え? だって、『偉大なるランスカ男爵』なんですよね? 悪いですけど、ひどい目に遭うって分かっているのに、関わり合いになんてなりたくないです」


 すると門兵長さんはポカンとした表情になり、それからすぐに顔が真っ赤になりました。


 そして――


「あああああ! ディミトリエか! あの馬鹿者がぁぁぁぁ!」

「ひゃっ!?」


 び、びっくりしました。まさかいきなりこんな大声で怒鳴るなんて……。


「申し訳ございません! どうせあのディミトリエの馬鹿がおかしなことを言ってご迷惑をおかけしたんですよね? 申し訳ありません! ランスカ男爵に代わり、まずはこの私めが謝罪いたします」

「えっと……その人もそうでしたけど……」

「ヴィルヘルムもかぁぁぁぁぁ!」

「ひゃっ!?」

「あっ……も、申し訳ございません! 申し訳ございません!」

「えっと……」

「ディミトリエとヴィルヘルムは例外なのです。ランスカ男爵家のほとんどの者はあのような愚か者ではございません。あんなおかしなことを言うのはディミトリエと、英才教育されたヴィルヘルムくらいです! どうか! どうか信じてください!」

「え? えっと、言うだけじゃなくて……」

「はい!? まさか何かされたのですか?」

「えっと、その……」

「あああああ! 申し訳ございません! 申し訳ございません!」


 それから門兵長さんはひたすら謝ってきたのでした。

 次回更新は通常どおり、2024/05/04 (土) 20:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 門兵長さん、胃に穴が開くのでは。
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