第22話 助けられてしまいました
2020/12/15 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/12/30 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
どうもおはようございます。ローザです。昨日の夕食は本当に最高でした。お塩は世界を救うかもしれません。
はい。それでですね。森を抜け出すかは決めていないんですが、とりあえずこの洞窟からは移動しようと思います。
このあたりには水場がないのでちょっと生活するのは難しそうなんですよね。あと、狭くて暗い洞窟の中はちょっと危ないかもって思いました。
あ、狭いのは掘削すれば良いかもしれないんですけど、割と岩塩がたくさんあるみたいで捨てちゃうのはもったいない気もしたんです。
なので、まずは水場を探して、それから新しいマイホームを建てるのに良い場所を探そうと思います。
それでは行ってきます!
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「うわぁ。何と言うか。最悪な光景ですね」
「ミャー」
あたしは今、草むらの中に隠れています。そしてそこから眺めている先には村があります。しかし、そこはただの村じゃありません。ゴブリンの村です。
ゴブリン達がそれはもうじゃうじゃいて、鳥肌が立ってきてしまいます。
もちろん、あたしはゴブリンの村を探していたわけではなくて森の中にある水場を探して歩いていたら偶然見つけてしまったんです。
最悪な光景ではありますけど、ある意味あいつらに見つかる前にあたしが先に見つけられたのは運が良かったのかもしれません。
ということで、この辺りは危険ですからさっさと逃げ出そうと思います。こんなゴブリンの村があるならもうこの森にもいない方が良いですね。
あたしは回れ右して見つかる前に立ち去ることにしました。
え? 滅ぼさないのか、ですか?
無理に決まってるじゃないですか。あんなにうじゃうじゃいたらあたしの魔力が先に尽きちゃいます。
それにですね? あたしまだゴブリンを見ると怖いんです。あの時の事を思い出してはどうしても足がすくみ上りそうになってしまうんです。
襲われた時はもう絶対に躊躇せずに撃ち殺すつもりですが、そうじゃない状況であれだけ数のゴブリンに自分から関わるのはちょっと無理です。
というわけで、こっそり、こっそり。
あたしは音を立てない様に慎重に歩いて行きます。
その時でした。
パキン。
あたしの足元から枝が折れる音がしました。
「ギギャッ?」
遠くの方からゴブリンの声が聞こえ、そして振り返ったあたしとそのゴブリンの目が合います。遠くてあたしにはそいつの表情が見えないはずなのに何故かニタリと気持ち悪い笑みを浮かべたように見えました。
「ひっ」
怖くなったあたしは全速力で走り出します。やっぱり怖いものは怖いんです。そんなあたしをゴブリンたちがいつもの気持ち悪い叫び声をあげながら追いかけてきます。
あたしは必死に逃げました。勇気を振り絞って立ち向かえば何匹かは倒せると思います。でも、あんなにうじゃうじゃいるんだから、いずれ捕まってしまうはずです。
足がパンパンになって口から心臓が出そうになるくらい頑張って走って、走って、それからさらに走って。
そしてついに追いつかれてしまいました。
大体三十匹くらいでしょうか?
しかもこいつら、普通の体格のゴブリンのくせに全員短剣を装備しています。あのゴブリンたちは村を作るくらいなので、もしかしたら発展しているのかもしれません。
それとも、人間を殺して奪ったものでしょうか?
怖いですけど、やっぱり覚悟を決めるしかなさそうです。もう、あたしが無事でいるためにはこいつらを撃ち殺して逃げるしかありません。
と、その時でした。
「突撃!」
凛とした女性の声が聞こえたかと思うと十人ほどの白い鎧に身を包んだ人達がゴブリンに向かって突撃していきました。
見たところ、どうやら全員女性のようです。そしてものすごく強いです。
あっという間にゴブリンたちを切り伏せ、ものの数分で片づけてしまいました。
「君。大丈夫か?」
先ほど突撃と命じた声が今度はあたしに優しく声をかけてくれます。背が高くて、ポニーテールの金髪に青い瞳で少しきつい印象の目元が印象的な女性です。
「あ、あ、え、えと……」
この人は大丈夫なんでしょうか?
ゴブリンから助けてくれたことは嬉しいですが、オーナー様に引き渡されたりしないでしょうか?
「ああ、これは怯えさせてしまったな。私の名はオフェリア・ピャスク。オーデルラーヴァの騎士団第七隊の隊長だ。悪いゴブリンは我々が退治したからもう怖がることはないぞ。ミツェ村が壊滅したと聞いたがよく生き残っていてくれた」
あれ? ええっと? この人は一体何を言っているんでしょう? オーデルラーヴァ?
「君、名は何という?」
「え? えっと、ローザです」
あ、いけない! つい素直に答えちゃった。
「そうか。ローザ。よく頑張ったな。森で生き延びるのは大変だったろう」
そう言ってあたしの頭をぎこちなく撫でてくれました。
「お友達の白猫とミミズク、それにそのスライムは君の従魔か? その幼さでスライムといえども従えるのはすごいじゃないか。大丈夫。全員ちゃんと保護してやるからな」
そうしてあたしの返事を待たずにひょいと抱き上げられました。
「さあ、まずはオーデルラーヴァに連れ行ってあげよう。あまり汚れてはいないようだが、風呂に入ってゆっくりすると良い」
あ、あれ? ええと?
「お前たち。後始末は終わったか?」
「はっ。討伐証明部位は切り取り終えました。三十二匹でした」
「そうか。では焼却処分をしておけ」
「はっ」
そして部下の騎士さんが一ヵ所に集められたゴブリンの死体に火を点けて燃やしました。それからあたしはオフェリアさんに有無を言わさずに抱えられ、そのまま森を後にしたのでした。