表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/299

第四章第64話 パドゥレ・ランスカ村に着きました

 あたしたちは森とは反対側にある村の出入口にやってきました。森のほうにも出入口はあったんですけど、門が閉まっているうえに誰もいなかったのでこちらに回ってきたんです。


 こっちには見張りのおじさんがいて、道も伸びているのでここがメインの出入口なんだと思います。


「すみません」

「ん? ああ、どうしたんだい? お嬢ちゃん」

「えっと、冒険者です。ギルドに行きたいんですけど……」

「え? ああ、その毛皮はそういうことか。じゃあ、冒険者カードを見せてくれるかい?」

「はい」


 あたしはバッグから取り出したふりをしてから、冒険者カードを手渡します。


「ほうほう。ローザ・マレスティカちゃん、十三歳ね。ん? マレスティカ……どこかで聞いたような?」


 見張りのおじさんは小さく首を(かし)げましたが、あたしのほうをじっと見てきて……うっ、このおじさん、あたしの胸を……!


 あたしは制服のマントの前を閉めて体のラインを隠しました。するとおじさんはバツが悪そうな表情を浮かべます。


「あ、その……ごめんね。ええと、じゅ、従魔が三匹で、スライムと白猫とフクロウは……ちゃんといるね。問題なし。それじゃあ、これは返すよ。どうぞ」

「はい……」


 あたしは冒険者カードを受け取り、バッグに入れるふりをしながら収納に入れます。


「それじゃあ、ローザちゃん。パドゥレ・ランスカへようこそ」


 おじさんはそう言って道を開けてくれました。


 聞いたことのない村です。それと、村の名前がちょっと変わっていますね。パドゥレって森のって意味ですけど、もしかして森の近くにあるからそう言う名前になったんでしょうか?


「冒険者ギルドは中央広場にあるよ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 あたしはこうして村の中に入りました。

 

 村の中は……ほとんど木造の小さな家ばかりです。それに家も数えるほどしかなくて、もしかしたらあたしが今まで行ったことがある町の中で一番家の数が少ないかもしれません。


 ただ、柵の内側に畑があるので、村はかなり広いです。普通は柵の外側に畑があることが多いんですけど、やっぱりそれって魔物がよく出るってことなんでしょうか。


 あっと、そうじゃないですね。早く冒険者ギルドに行かないと。


 たしか中央広場って言っていましたよね。


 少し歩いて行くと、すぐに冒険者ギルドの看板が出ている家を見つけました。とても小さな家で、明かりもついていません。扉は開いているので多分営業中だと思うんですけど……。


「すみません……」


 あたしは恐る恐る外から声を掛けてみましたが、返事がありません。


 そーっと中を覗いてみますが、真っ暗なギルドの中には誰もいません。


 えっと、これってどういう状況なんでしょう?


 でも扉が開いているってことは、営業中ってことですよね?


 ……もしかしてお客さんも冒険者もいないからって、職員の人がサボっているんでしょうか?


 あたしが困っていると、誰かが走ってくる足音が後ろから聞こえてきました。


 振り返ってみると、泥だらけでいかにも農作業をしていたという感じのおばさんが、茶色の髪を振り乱しながらものすごい速さでこちらに向かって走ってきています。


 えっと、なんだか(もも)が地面と平行になるくらい高く上がっていて、よく分からないですけどなんだか迫力がすごいです。


「お待たせしましたー!」

「あ、えっと、はい」

「冒険者ギルド、パドゥレ・ランスカ支部へようこそ! 私はアンナと申します」


 そう言いながらおばさんは家の中に入ると慣れた手つきでランプに火を灯し、流れるような動作で受付の席に座りました。


 す、すごい! ものすごい早業です。あんなに走ってきたのに息がほとんど切れていません。


「魔法学園の生徒さんですね。今回は当ギルドにどういったご用件でしょうか?」

「あ、はい。えっと、買い取りと――」

「買い取りですね! かしこまりました! そちらの毛皮でしょうか?」

「は、はい」

「拝見しても?」

「はい」


 アンナさんは席を立ち、慣れた手つきでマーダーウルフの毛皮を確認していきます。


「これは! マーダーウルフの毛皮ですね! さすが魔法学園の生徒さんです。まだお若いのに素晴らしい腕前ですね!」

「あ、えっと、ありがとうございます……」

「冒険者カードはお持ちですか?」

「は、はい」


 あたしは冒険者カードを手渡しました。


「ありがとうございます。ローザ……マレスティカ!? ええっ!? まさかマレスティカ公爵家のお嬢様でらっしゃいますか!?」

「えっと、はい……」

「大変失礼いたしました!」


 アンナさんはものすごい機敏な動きで、一瞬のうちに(ひざまず)きました。


「え、えっと……」

「私めは冒険者ギルドの職員でもありますが、ここパドゥレ・ランスカ自治領の領主の妻でもあるのです」


 え? 自治領? 自治領ってなんでしょうか? 聞いたことがないんですけど……。


「今すぐに夫をお呼びいたしますので、どうかあちらの椅子にお掛けになってお待ちいただけませんでしょうか?」

「え? あ、はい……」


 あたしは言われた席に座りました。


「しばらくお待ちくださいませ!」


 アンナさんはそう言うと、あの迫力のあるフォームで走っていったのでした。

 次回更新は通常どおり、2024/02/24 (土) 20:00 を予定しております。


 また、本日より「陽だまりキッチン、ときどき無双」という新作の投降を開始いたしました。


 クラス召喚モノで、料理人を目指す男子高校生の主人公が魔法料理という一見地味なチート能力を手に入れ、幼馴染でクラスメイトの少女と一緒に異世界観光旅行をする作品となります。


 ぜひご一読いただき、応援いただけますと幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n4150iq/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ