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第四章第63話 森を抜けました

 ……あのマーダーウルフ、なんだかだらんとしていて、背中に翼が生えて飛んでいますね。


 えっと、どうしましょう?


 ユキとピーちゃんは……警戒していません。


 そうしている間にもマーダーウルフはどんどん近づいてきていて……あれ? あれれ?


 マーダーウルフを鳥が……じゃなくて!


「ホーちゃん!」

「ホー!」


 マーダーウルフが飛んでいたのはホーちゃんが掴んでいるからでした。


 ホーちゃん、あんなに大きなマーダーウルフを掴んでいるのによく飛べますね。すごいです。


「ホー!」


 ホーちゃんはあたしたちの前にマーダーウルフを降ろすと、片方の翼を上げて得意げに鳴きました。


「えっと、捕まえてきてくれたんですね。ありがとうございます」

「ホー」


 気にするなとでも言わんばかりにホーちゃんは返事をしました。


 えっと、すごいです。このマーダーウルフ、なんだか他のマーダーウルフよりも一回り大きい気がします。


 ということはですよ? もしかしたら、このマーダーウルフが群れのボスだったのかもしれません。


 演習のときもゴブリンのボスをやっつけてくれましたけど、もしかしてホーちゃんってこやってボスをこっそり倒すの、実は得意 ()だったんでしょうか?


 こう、なんというか、暗殺者みたいにすっとボスをやっつけてくれるじゃないですか。それにですよ? このマーダーウルフ、後頭部に一つ傷痕があるだけってことは、一撃でやっつけたってことですよね?


 やっぱりホーちゃん、すごいですよね!


◆◇◆


 それからあたしはマーダーウルフを解体し、毛皮を収納に入れました。町に行ったら冒険者ギルドに行って売ってお金にしようと思います。


 だって、そうすれば宿に泊まれますし、乗合馬車に乗って帰ることだってできるじゃないですか。


 もちろん収納に今まで稼いだお金は入っていますよ。でも、王都までどれだけお金が掛かるか分からないじゃないですか。


 何せ、今どこにいるのかさっぱり分からないんですからね。


 多分マルダキア魔法王国かカルリア公国のどちらかだとは思うんですけど、もしかしたらオーデルラーヴァやベルーシかもしれません。


 もしそうなったら、旅費がいくら掛かるか見当もつきません。


 だから念のために稼いでおいても損はないと思うんです。


「さあ、出発しましょう。えっと、こっちが南東ですかね?」

「ホー!」


 あたしが南東っぽい方向に歩きだそうとすると、ホーちゃんが止めてきました。


「え? ホーちゃん?」

「ホー!」


 ホーちゃんは片方の翼でちょっと別の方向を指し示してきました。


「えっと、ホーちゃん、道が分かるんですか?」

「ホー!」


 なんだか自信満々のようです。


「分かりました。じゃあそっちに行ってみましょう」


 こうしてあたしたちはホーちゃんの案内で森の中を歩き始めるのでした。


◆◇◆


 それから一週間歩き、ようやく森を抜けることができました。


 それまでの間、毎日ゴブリンが襲ってきて本当に大変でした。しかもですね。ゴブリンを倒すとすぐに別の魔物が襲ってくるんです。


 ゴブリンを倒したときの血の匂いを嗅ぎつけて寄ってくるのか、それとも戦っている音がおびき寄せちゃってるのかは分かりませんけど、ゴブリンさえ襲ってこなければこんな目には遭わなかったはずです。


 やっぱりゴブリンは害悪ですね。気持ち悪いですし、なんであんなのが存在しているんでしょうか?


 ゴブリンなんて絶滅……あっと、せっかく森を抜けたんですからね。もうあんな害悪のことを考えるのはやめましょう。


 それでですね。向こうに木の柵で囲まれた小さな村が見えるんです。森から村までの平地もきちんと下草が刈ってあるので、あの村はきっと人がきちんと生活している場所だと思います。


 というわけで、とりあえず、行ってみましょう。おー!


 そうして歩きだそうとすると、ピーちゃんが裾を引っ張ってあたしを止めます。


「ピピッ!」

「え? ピーちゃん、なんですか?」

「ピピッ! ピピッ!」

「えっと……」


 何かを言いたいみたいですけど……。


「ピッ! ピッ!」


 えっと、ユキのことを()でていますね。二人とも仲良しで嬉しいですけど、どういうことでしょうか?


「えっと、毛づくろい?」


 ……違うみたいです。


 するとピーちゃんがびろーんと平たくなりました。それからあたしのカムフラージュ用のバッグをつんつんとつついてきます。


 えっと、バッグ?


 ……あ! 毛皮!


 そうでした! お義父さまたちは知っていますけど、収納は一応内緒にしているんでした。


 危なかったです。今のうちに出しておかないとダメでしたね。


「ありがとうございます」


 あたしは毛皮を収納から取り出しました。するとピーちゃんがそれをひょいと担いでくれます。


「ピーちゃん、力持ちですね。いつもありがとうございます」

「ピピッ」


 毛皮の下にいるので表情は分かりませんが、きっといつものように気にするなって言ってくれているんだと思います。


「それじゃあ、行きましょう」

「ピッ」

「ミャー」

「ホー」


 こうしてあたしたちは村のほうへと向かって歩きだすのでした。


 それにしても、ピーちゃんって本当に頭がいいと思いませんか?


 なんだかときどき、あたしより賢いんじゃないかって思ったりしますから。


 もしかしたらあたしより算数ができたりして……って、そんなことないですよね。

※お忘れの方も多くいらっしゃるかと思いますが、ホーちゃんの種族名はアサシンオウルといいます。

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