第20話 あいつが追いかけてきました!
2020/12/14 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「シャーッ」
「ゲギャギャギャ」
ユキの威嚇する声と害悪のあの不快な声が同時に聞こえてきました。
どうやらついにあたし達のマイホームがゴブリンに見つかってしまったようです。
しかも数が多い!
パッと見ただけでも五匹います。
やはりゴブリンを見ると恐怖ですくみ上りそうになりますが、もう同じ失敗はできません。
あたしは勇気を振り絞ると狙いを定めます。
「魔力弾! 魔力弾! 魔力弾!」
近いやつから順に頭を撃ち抜いてやりました。あたしの弾の命中した奴らはそのまま地面に倒れて動かなくなります。
「お前らなんかにあたしは負けませんっ!」
そう宣言してあたしは自分を奮い立たせます。しかし、ゴブリンたちは怯んだ様子もありません。
がさり。
茂みの奥からさらに七匹のゴブリンが姿を現しました。
近づかれたらなすすべのないあたしはすぐに魔力弾を撃って片っ端からゴブリンの頭を撃ち抜いて行きます。
あたしは自分を鑑定して残りの MP を確認します。
────
HP:37/37
MP:62/123
────
大丈夫。まだまだ余裕はあります。ゴブリンの数があまり多くなければ良いんですけど。
がさり。
また茂みの奥からゴブリンがやってきます。
今度は五匹です。またすぐに魔力弾で頭を撃ち抜いてやります。
しつこいです。
しかし、その後茂みから現れたのは予想外のやつでした。
体が二回りくらい大きくて、なんかちょっと立派な棍棒を持っていて、ボスっぽい感じのあいつです。
そう、あれはあの洞窟で部下に刺されたはずの親玉ゴブリンに間違いありません。
その親玉ゴブリンが三匹の部下のゴブリンを連れてあたしの前に姿を現したのです。
「ゲギャー」
そして親玉ゴブリンが大声で何かを叫ぶと部下のゴブリンたちは散開してあたしの方に駆けだしました。
あ、ちょっと。そんなに動いたら当たらない!
「シャーッ」
ユキが威嚇をしながら飛び出して行くと一匹のゴブリンがその動きにつられて足を止めました。そこをあたしは魔力弾で撃ち抜きます。
まず一匹!
「ピ、ピキー!」
ピーちゃんが小さい体から手を伸ばして体を大きく見せて威嚇すると、もう一匹のゴブリンが足を止めました。あたしはすかさず魔力弾で撃ち抜きます。
これで二匹目!
そしてあたしの正面から向かってきていたゴブリンをギリギリの距離から魔力弾で撃ち抜きます。
あとは親玉ゴブリンだけ!
そう思ったとき、突然あたし達のマイホームが大きな音とともに破壊されました。
「え?」
思わず唖然としてしまいました。あたし達の大切なマイホームがどうして?
その答えはすぐに明らかになりました。親玉ゴブリンです。そう、あいつが瓦礫の向こうからぬっと現れたんです。
あたしがショックで一瞬思考がフリーズしてしまった隙を突かれ、一気に距離を詰めてきた親玉ゴブリンにあたしは組み伏せられてしまいました。
「ゲギャギャギャ」
あたしを抑え込んだ親玉ゴブリンはイヤらしい笑みを浮かべると乱暴にあたしの服を引き裂きました。
ああ! もうイヤ! せっかく逃げたのにどうしてこんな目に!
「フシャーッ」
ユキが飛びかかりますが親玉ゴブリンに片手で叩き落とされるとそのままぐったりと動かななくなってしまいます。
「ピキー」
ピーちゃんが腕を伸ばしてあたしから親玉ゴブリンを引き離そうとしてくれますが、気付かれてすらいないのか完全に無視されています。
あたしも逃れようと必死でもがきますが力の差は歴然で、親玉ゴブリンはビクともしません。
もう、ここまでかもしれません。あたしはこのままこの親玉ゴブリンに……。
あまりの力の差に絶望し、諦めと共にあたしの目から涙が零れ落ちます。
丁度その時でした。ホーちゃんが音もなく空から親玉ゴブリンに襲い掛かり、顔面にその爪を突き立てたのです。
「ゲギャーッ! ギャギャ」
思わずのけ反った親玉ゴブリンはあたしから両手を離すとホーちゃんを引き離そうとその翼に手をかけます。
ですが、あたしはその隙を見逃しません。
「うあああああぁぁぁぁぁ」
あたしは目の前の汚らわしいこいつに対して無我夢中で魔力弾を何発も、何発も撃ち込みました。そして気が付けばあたしに蜂の巣にされた親玉ゴブリンは全身から血を噴き出してその場に倒れたのでした。
「ユキ! ピーちゃん! ホーちゃん!」
あたしは親玉ゴブリンの下から何とかはい出ると大事なみんなの名前を呼びます。
「ミャー」
「ピピッ」
「ホー」
親玉ゴブリンに叩き落とされたユキが一番重症ですが、前にゴブリンにやられた時よりは症状が軽そうです。
ホーちゃんも翼を掴まれはしたものの飛んでいるので大けがはしていないようです。
ピーちゃんは……無視されたおかげで無傷なようです。ピーちゃんは戦いには向いていなそうなので無理してほしくないですが、でもあたしのために危険を顧みずに頑張ってくれたことはすごく嬉しく思います。
みんなの状態を確認してあたしはようやくホッと胸をなでおろしました。
そこではたと思い出しました。あたし、ホーちゃんにお願いしたいことがあったんでした。
「ねえ、ホーちゃん?」
「ホー?」
「助けてくれてありがとうございます」
「ホー」
「あの、もしよかったら、これからもずっとお友達として一緒にいてくれませんか?」
ホーちゃんは片方の翼を広げて了解の意を示してくれます。
「約束ですよ?」
「ホー」
あたしがホーちゃんの頭を撫でると、ユキやピーちゃんの時と同じ事が起きました。ホーちゃんが淡く光って、あたしの体からどんどんと魔力が抜けていきます。
「えへへ。ホーちゃん、これからもよろしくお願いいたします」
「ホー」
こうしてあたしはホーちゃんとも友達になったのでした。