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第四章第39話 レオシュの横暴

 ローザに帰国命令書が届けられてからしばらくしたある日、オーデルラーヴァの王城にある一室でレオシュは不機嫌そうに部下の兵士を詰問していた。


「おい! なぜマルダキアからあのガキが帰ってこない!」

「申し訳ございません」


 するとレオシュは頭を下げている部下に金属製の灰皿を投げつけた。灰皿は額に命中し、カンという軽い音と共に吸い殻が飛び散る。そして地面に落ちた灰皿がカランカランと軽い音を立てて床に転がった。


 軽い灰皿だったから、部下の男の額に目立った怪我は見られない。部下の男はひたすら嵐が過ぎ去るのを待っているのか、レオシュの前で頭を下げ続けている。


 だがそんな様子もレオシュの(かん)(さわ)ったようだ。


「おい! 俺はなぜ帰ってこないのかを聞いたのだ! なんとか言ったらどうだ!」

「申し訳ございません。ですがマルダキア魔法王国は我が国を認めておらず……」

「そんなことは聞いていない! 俺はあのガキを連れ戻せと言ったんだ!」

「ぼ、冒険者ギルドを経由し、たしかに帰国命令書は届けたのですが、どうやら無視されてしまったようでして……」

「なら力ずくでも連れてこい!」

「そ、そのようなことをすればマルダキア魔法王国と戦争になります!」

「ああん? あのガキは俺の物だ! 盗まれた物を奪い返すのは当然だろうが!」

「しかし……彼女はマルダキア魔法王国でマレスティカ公爵家の養女となっております。そこに手を出してしまえば戦そ――」

「やかましい! 何がマレスティカ公爵家だ! 泥棒の分際で!」

「ですが……」

「いいからなんとかしろ! さっさとあのガキを連れて来い!」

「それは……」


 部下の男は当惑した様子で口ごもる。するとそれを見たレオシュはニタァと意地の悪い笑みを浮かべた。


「ああ、そうだ。お前、たしか身重の妻がいるんだったよなぁ?」

「っ!」

「旦那が王族の命令も満足に実行できないとなると困るのではないか?」

「そ、そのようなことは……」

「だがなぁ……ああ、そうだ!」


 レオシュはさも今思いついたと言わんばかりにわざとらしくそう言うと、ポンと手を叩いた。


「お前の妻にルクシアの素晴らしさをしっかり教えてやった方がいいのではないか?」

「っ!? も! 申し訳ございません! それだけはどうか!」


 部下の男は顔面蒼白になり、レオシュに許しを乞う。


「だが、あのガキを連れ戻すことすらできないのだろう?」

「そのようなことはございません! 必ずや! 必ずや殿下のご期待に応えてみせます!」

「そうか? 分かればいいんだ」


 レオシュはそう言うと、突然般若のような表情となり、大声で怒鳴りつける。


「ならさっさと連れてこい!」

「ははっ! 失礼します!」


 そう言うと、大急ぎで部下の男は部屋から出ていった。それを見送ったレオシュは舌打ちをすると小さな声で(つぶや)く。


「そろそろあの女にも使うべきか? いや、まだ早いか……」


 レオシュは小さく(かぶり)を振り、思い立ったかのように立ち上がると、部屋を後にした。


 そしてレオシュがやってきたのはオフェリアが監禁されている部屋だった。


「おい」

「……」


 相も変わらずベッドに四肢を固定されているオフェリアに声を掛けるが、オフェリアからの返事はない。


 レオシュはニヤニヤしながらベッドサイドへ向かい、オフェリアの顔を見下ろす。


「使いに来てやったぞ」


 しかしオフェリアはそれを完全に無視した。するとレオシュは突如憤怒の表情を浮かべ、右の拳を振り上げる。


「おい! 返事くらいしろ!」


 そう叫び、レオシュはオフェリアの顔面に向かって思い切り拳を振り下ろした。しかしオフェリアは四肢が固定されているにもかかわらず器用に頭をずらして拳を避ける。


 ドンと鈍い音と共に硬いベッドの天板にレオシュの拳がめり込み、レオシュは痛みのあまり右の拳を押さえて(うずく)った。


「レオシュ、貴様はもう少し鍛練したほうがいいぞ。拳にキレが無い。それにその太った腹はなんだ? 鍛練すればその醜い体も性根も、少しはマシになるかもしれないぞ? 健全なる精神は健全なる肉体に宿る、とよくいうからな」


 オフェリアは真面目な表情でそう言った後、ふっと表情を崩し、(あざけ)るような口調で言葉を続ける。


「ああ、貴様は性根が醜すぎるから鍛えても無駄なのだったな。すまない。忘れてくれ」

「オフェリア・ピャスクぅぅぅぅぅ!」


 激怒したレオシュは立ち上がり、左手でオフェリアの頬を叩くとそのままオフェリアの上にまたがる。そしてズボンを降ろし……。


◆◇◆


「おい、レオシュ。いつまでこんな不毛なことを続けるつもりだ?」


 すっきりした表情で下半身を露出させ、ベッドから立ち上がるレオシュに対してオフェリアは冷ややかな目でそう問いかけた。するとレオシュは再び不機嫌そうな表情でオフェリアに視線を向ける。


「不毛だと?」

「ああ、そうだ。いつになっても私を孕ませることができていないではないか。ということは、貴様は不能なのだろう?」


 その言葉にレオシュの顔は般若のように歪む。


「なんだと!? オフェリア・ピャスク! 貴様! 鎖に繋がれて何もできない分際で!」

「ふ。女一人自分の力で口説けず、力ずくで抱くことしかできないくせに何を言っている? やはりゴブリン並み、いや、違うな。ゴブリンであれば今ごろ私は何匹も産まされていただろうしなぁ」

「き、貴様! 俺がゴブリン以下だと言いたいのか!」

「さぁ、どうだろうな」


 オフェリアが不敵に笑いながらそう答えると、レオシュはさらに怒りを爆発させる。


「貴様! ふざけるな!」


 顔を真っ赤にしたレオシュは意味不明な叫び声を上げ、オフェリアに飛びかかろうとした。しかしレオシュは足がもつれ、顔面をベッドフレームに強かに打ち付けてしまう。


 レオシュは顔面を押さえて蹲った。額が切れたのか、顔面を押さえる指の隙間から赤い血が流れている。一方のオフェリアは、呆れたような表情で大きくため息をついた。


「オフェリア・ピャスク! 貴様! 調子に乗りやがって! もう許さん!」


 レオシュは立ち上がるとそう言い残し、そそくさと部屋を後にするのだった。

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