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第四章第27話 動き出す陰謀

 会議を終え、自身の執務室へと戻ってきたアルノーの部屋をアレックが訪れていた。


「ふむ。君はアレックというのか。邪教のはびこるマルダキアでよく信仰を守ったな。大変だっただろう」


 アルノーは聖職者らしく慈しみに満ちた表情で優しく声をかけた。


「は、はい! ありがとうございます!」

「うむ。話は聞いているが、詳しく教えてくれるかね?」

「は、はい。実は――」


 アレックは魔法学園で出会ったローザのことを詳しく話した。


「ふむ、なるほど。何もされていないのに常に【危機察知】が警告してくるとは、興味深いな」

「はい。でも、ローザさんは僕のことを気にかけてくれていたんです。それなのに……」

「ふむ。君は恐れているわりにそのローザとやらに好意的なように見えるな」

「う……その、ロ、ローザさんは、すごくかわいいんです。それでなんだか見ているとドキドキして……」


 恥ずかしそうにそう返事をし、(うつむ)いたアレックを見てアルノーは一瞬馬鹿にしたような表情を浮かべた。


「……他に知っていることはあるかね?」

「は、はい。ローザさんはですね。その、詠唱しないで魔術が使えるすごい人なんです。それに光属性だけじゃなくて火属性にも適性があってですね。あ、その、オーデルラーヴァから留学生なんですけど一人で頑張ってて……でも、やっぱりその、従魔がいるのは怖くて……」

「そうかそうか。他にはあるかね?」

「は、はい。それから――」


 それからもアルノーは根掘り葉掘りローザに関することをアレックに質問し、アレックもそれに必死で答える。


 そうしているうちにやがてアレックに話すことがなくなり、そこでアルノーは話を打ち切る。


「うむ。アレック、そのような恐ろしい目に()いながらもよく試練に耐えたな。神は君の頑張りをきっと見守ってくれていたことだろう」

「アルノー様……ありがとうございます」

「さて、清めの儀をして欲しいのだったな?」

「は、はい」

「ふむ」


 アルノーはそう言うと、じっと考え込むような仕草をした。アレックはアルノーが口を開くのをじっと待っている。


「……アレック、君は後悔しているのではないかね?」

「えっ?」


 アレックは図星を刺されたらしく、悔し気に(うつむ)いた。


「魔法学園を中退したことだ。もっと頑張れば良かった、と思っているのではないかね?」

「……はい」

「そうかそうか。残念だが、魔法学園にもう一度入れてやることはできない」

「はい」


 アレックは俯いたまま答えた。


「だが、君が変わることの後押しならしてやれるぞ?」

「えっ?」

「第二の洗礼は知っているな?」


 するとアレックはハッとした表情でアルノーの顔を見る。


「も、もちろんです!」

「うむ。神の前で心からの懺悔しなさい。その祈りが届けば君はこれまでの弱い自分を乗り越え、神に祝福された新たなる自分へと生まれ変わることができるだろう。どうかね? 第二の洗礼を受けてみたいかね?」

「ほ、本当に僕に第二の洗礼をしてくださるのですか?」

「うむ。君は十分に頑張った。【危機察知】が反応し続ける相手と同じ空間にいるなど、並大抵のことではない。そんな君ならば第二の洗礼を受けるに値するだろう」

「アルノー様……」

「ただ、第二の洗礼では【危機察知】が強く反応するだろう」

「えっ?」

「もし神がお認めになれば、君は神の力を受け入れることになる。資格のない者がこれを受ければ気が触れてしまう可能性もある。それほど危険な儀式なのだから、君の【危機察知】が反応するのは当然だろう?」

「あ……そうですね」

「だから第二の洗礼を受けずに清めの儀をして帰ったとしても、誰一人として君を責める者はいないだろう」

「や、やります! お願いします! 第二の洗礼を受けさせてください! 僕はこんな弱い自分が嫌いなんです!」

「そうか。分かった。では私が直々に、君の第二の洗礼の儀を執り行ってやろう」

「あ、ありがとうございます!」


 アレックは深々と頭を下げ、その様子を見たアルノーはニヤリと笑ったのだった。


◆◇◆


 アレックを見送ったアルノーは一人で椅子に腰かけ、じっと考え込んでいた。


「……常に【危機察知】が反応し続ける。にもかかわらず女として好意を抱いているという状況は一体なんだ?」


 アルノーはじっと虚空を見つめる。


「発育が良く、見た目が整っているのであればあのくらいの少年が熱を上げるのは理解できるが……」


 アルノーは微動だにせず、じっと考えている様子だ。


「光属性は……関係ないだろうな。それはマレスティカ公爵が後ろ盾となった理由のはずだ。あとは……詠唱をせずに魔術を発動する、か」


 アルノーは腕組みをした。


「やはり魔法か? だが魔法は魔物……ん? そう言えば従魔がいると言っていたな。たしか、スライムとネコとフクロウだったな。まったく、聖女が従魔を持つなど……」


 アルノーは険しい表情になり、何かをぶつぶつと(つぶや)いていたが、やがてハッとした表情を浮かべた。


「そうか! そういうことか。どこかで汚らわしい淫魔の血が混ざったな? くくく、素晴らしい。なんとしてでも手に入れねばな。そいつさえ手に入れば次の教皇は……」


 アルノーはニタリと醜悪な笑みを浮かべるのだった。

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