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第四章第26話 色々と決まったみたいです

 それから一週間ほどしたある日の夕方、料理研究会の活動を終えて帰ってきたあたしはアリアドナさんに呼び止められました。


「ローザさん」

「あ! アリアドナさん、ただいま戻りました」

「ええ、おかえりなさい。マレスティカ公爵家からお手紙が届いていますよ」

「お手紙ですか? ありがとうございます」


 あたしはアリアドナさんから手紙を受け取り、部屋に戻りました。荷物をいつもの場所に置いて、早速読んでみます。


 えっと……あたしが養女になることを公表する日程が来週末に決まったみたいです。それと、論文はその次の日に公表されるんだそうです。


 あれ? お引っ越しするんですか? 


 そういえば貴族の人って別のフロアでしたね。あたしはこのままヴィーシャさんと同じお部屋でいいんですけど……。


 あ、でもちゃんと部屋を移らないとダメって書いてありますね。警備上の理由らしいですけど、そもそも生徒は自由に出歩けるんですからあんまり変わらない気がします。


 えっと、あとは……お披露目パーティーをするみたいです。ひええ、お城でやるみたいです。


 なんだか不安になってきました。礼儀作法、大丈夫でしょうか? 間違えたら怒られたりしないですかね?


 ううっ、心配です。でも、頑張らなくっちゃ。ここで逃げ出すわけにはいかないですもん。


 手紙を読みながら決意を新たにしていると、部屋のドアが開きました。


「あ! ヴィーシャさん、おかえりなさい」

「お嬢様、ただいま戻りました」


 ヴィーシャさんはそう言ってあたしの前で(ひざまず)きました。


「あ、はい。おかえりなさい」


 このところ毎日これをされているので、なんだかもう慣れてきちゃいました。


 ……あれ? 今日はなんだかちょっと疲れているような?


「ヴィーシャさん、今日は何かあったんですか?」

「え?」

「えっと、なんだかいつもより疲れていそうだなって思ったんですけど……」

「すごいなぁ。バレてないつもりだったんだけど」


 そう言いながらヴィーシャさんは恥ずかしそうに頬をかきました。


「ラダさんって覚えてる?」

「え? えっと……カルヴェラ湖に遊びに行ったときの騎士さんですか?」

「そうそう。そのラダさん」

「ラダさんがどうかしたんですか?」

「なんとね。ラダさんが剣術部の臨時講師として来てくれたんだ」

「えっ?」

「それで剣術部のみんながちょっと張り切っちゃってさ。それでいつもより練習がハードだったんだ」

「そうなんですね。やっぱり違うんですか?」

「うん。全然違うね。三年生の先輩たちも軽くいなされてたもん。アドバイスも的確だったし……さすがマレスティカ公爵家の護衛騎士だよね。それにさ。部長と手合わせしたときなんか――」


 ヴィーシャさんは目をキラキラと輝かせ、いかにラダさんがすごいかを熱弁してくれます。剣術のことは知らないのでヴィーシャさんが何を言っているのかよく分かりませんが、勉強になったらしいということだけは理解できました。


「ヴィーシャさん、良かったですね」

「うん!」


 ヴィーシャさんは嬉しそうにそう答えたのでした。


◆◇◆


 ここは神聖ルクシア王国の聖都レムルス。聖ルクシア教会の総本山であるルクシア大聖堂を擁する聖ルクシア教会の中心地である。そんな大聖堂の一室に聖ルクシア教会の幹部たちが集まっていた。


「アルノー枢機卿、報告があるそうじゃな?」


 そう口を開いたのは、列席しているものの中でももっとも豪華な服を身に纏った老人だ。


「はい、教皇猊下。ついにハプルッセン帝国の皇帝が邪教を捨て、神に帰依すると申し出て参りました」


 でっぷりと太った中年の男が答えると、教皇は目を細めた。


「そうかそうか。オーデルラーヴァの件といい、よくやったのう」

「はっ。ありがたき幸せにございます」

「うむ。それで今後の計画はどうなっておるのじゃ?」

「はい。まずはベルーシ、マルダキアの両国とオーデルラーヴァの国交を樹立することを目指します。現在彼らとの交流はすべて断絶しておりますので、かの地に住む信徒たちは迫害の危機に瀕しております」

「ふむ。迫害、か。邪教徒どもには困ったものじゃのう」

「ええ、教皇猊下の仰るとおりでございます」

「アルノー枢機卿、迫害の危機があるならば国交の樹立などと悠長なことを言っている場合ではないのではないか?」


 そう言って話に首を突っ込んできたのは褐色の大男だ。聖職者らしいゆったりとしたローブでもその鍛え上げられた肉体は隠しきれておらず、他の者たちとは放つ雰囲気が一線を画している。


「パオロ枢機卿、どういうことですかな?」

「ハプルッセンは神に帰依したのでしょう? であればこれまで邪教を信奉していた罪を償うためにも、オーデルラーヴァと共に両国を征伐すべきでしょう。それがハプルッセン帝国のためというものです」

「パオロ枢機卿、いかに皇帝が神に帰依したとはいえ、ハプルッセン帝国には未だに邪教が蔓延っております。今急いでそのようなことをすれば帝国内に大きな問題を抱えることになるでしょう」

「アルノー枢機卿、手ぬるいですな。そのようなことをしておるからこれほどまでに時間がかかるのです」

「ではパオロ枢機卿はどうしろと?」

「決まっております。ハプルッセン帝国に住む邪教徒どもを皆殺しにすればよいのです」

「何をおっしゃるのですか。そのようなことをすればいかにハプルッセン帝国とはいえ、国がもちませんぞ」

「であればそのような国は神に存在を許されなかっただけ。神の前に人間の国など些細なことでしょう」

「なんということ……」

「教皇猊下! ハプルッセン帝国に蔓延る邪教徒どもを今すぐ皆殺しにすべきです!」

「パオロ枢機卿!」


 二人の口論がヒートアップしたところで教皇が止めに入る。


「ふむ。両枢機卿の意見はわかった。まずはハプルッセン帝国の皇帝に命じ、邪教を追放するように命じるとしよう。邪教徒たちの中には騙されておる者が多数おる。そんな哀れな子羊たちの目を覚まさせてやるのも我々の使命じゃ。それと、北の各国については今しばらく様子を見ることにしよう。かの地に住む哀れなる子羊たちに自ら懺悔し、神に帰依する機会を与えてやるのが良いじゃろう」

「教皇猊下の仰せのままに」

「……仰せのままに」


 アルノーは満足げにそう(うなず)いたが、パオロは不満げな様子でそう答えた。


「ふむ。次の議題は――」


 こうして会議は次の議題へと移っていくのだった。

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