第四章第12話 カルヴェラ湖に遊びに来ました
皆さんこんにちは、ローザです。あたしたちは今、カルヴェラ湖に遊びに来ています。
はい。そうです。カルヴェラ湖は、夏に遊びに来たあの湖です。
それでですね。すごいんです。
何がすごいかって、湖が全部カチコチに凍っているんです。しかも氷の上に乗っても大丈夫なんだそうで、湖の上で遊ぶことができるんだそうですよ。
夏はゴブリンに襲われて大変でしたけど、今回は騎士団の人たちが冒険者の皆さんと協力して、徹底的に山狩りをしてくれたんだそうです。
魔物は一匹たりとも残っていないと言っていましたので、さすがに今回は安心して遊べると思います。
と、いうわけでですね。早速冬の遊びであるスケートに挑戦してみようと思います。
「これで大丈夫ですよ、ローザお嬢様」
「ありがとうございます」
「さ、ローザ。手を」
「ありがとうございます、ヴィーシャさん」
メイドさんに靴底になんだかよく分からない刃がついた専用の靴を履かせてもらい、ヴィーシャさんの手を借りてなんとか立ち上がります。
……えっとですね。なんだかすごいグラグラしていて怖いです。
「そこでもう少し腰を落として」
「あ、えっと……」
「そうそう、そんな感じだよ。手を離すからゆっくりバランスを取ってみて」
「あ、あ……」
む、無理です。ヴィーシャさんはこの変な靴を履いていないから立っていられるんです。
あ、そこで手を放されたら!
「ひゃっ?」
「危ない!」
よろめいたあたしをヴィーシャさんが支えてくれました。おかげで怪我はしないで済みましたけど、なんでこんな変な靴をわざわざ履くんでしょうか?
普通の靴なら転ぶことはないのに……って、えええっ!?
なんだか、レジーナさんがすいすいと気持ちよさそうに滑っています。
えっ? リリアちゃんまで!?
ど、ど、ど、どうしてあんなことができるんでしょうか?
「ローザ、大丈夫だよ。初めはみんなそんな感じだから。慣れればきっとレジーナ様のように滑れるようになるからさ。さ、もう一回」
「……はい」
こうしてあたしはヴィーシャさんの手ほどきを受け、スケート靴で立つ練習をするのでした。
◆◇◆
気を取り直してスキーに挑戦することになりました。この長い板に乗って、雪道を歩いたり坂道を滑り降りたりするそうですよ。
えへへ、これならスケート靴と違ってちゃんと一人で立てます。
え? スケートはどうしたのか、ですか?
えっと……はい。一時間くらい頑張ってみたんですけど、まったく立てませんでした。あんな細い靴底で立つなんて、あたしには無理ですよ。
きっとですね。スケートは運動神経のいい子じゃないと無理な遊びなんだと思います。
その点、スキーはいいですよね。雪の上でもこの長いスキー板を履いているおかげで足が沈まないですから。
それに、このストックという杖みたいなのがあるので、これを支えにしていればちゃんと立てます。
「ヴィーシャさん、これならちゃんと立てますよ!」
「うん、良かったね。これなら大丈夫かな。まずは転び方と止まり方の練習をしようか。お手本を見せるから見ててよ」
ヴィーシャさんはそう言うと、器用に長い板とストックを使って少し離れます。そしてすぐにあたしのほうに戻ってきて、目の前で転びました。
「ほら、こうやって転ぶんだ。そうしたら安全だよ」
「えっと……」
「起き上がるときはこっちが斜面の高いほうだとしたら、この向きに起き上がるんだ」
「……はい」
「で、次は止まり方だけど、ローザは初心者だからこうやってスキー板をハの字にするんだ」
「えっと、こうですか?」
「そうそう。上手上手。スピードを出し過ぎないようにして、怖いと思ったらすぐに転んで」
「え……」
転んだら痛いと思うんですけど……。
「雪の上なら転んでも痛くないから大丈夫だよ。それよりもスピードを出し過ぎるほうが危ないからね」
「えっと、はい」
そういうものなんでしょうか。
「よーし、じゃあ、試しにちょっと滑ってみよう。あっちのほうはなだらかな坂道になってるからね」
「はい。えっと、こう、ですよね」
ヴィーシャさんの真似をして一歩踏み出してみました。
あ、あれ? あれれ?
なんだかどんどんスピードが上がっているような?
「ローザ! ハの字! ハの字!」
「え? ええっ!? あっ!?」
スピードがついていたせいか、雪のでこぼこのせいで空中に飛び上がってしまいました。
……ひっ? こ、怖い!
あたしは思わず身を固くしました。
……。
…………。
………………。
あれ? なんだか目の前に青空が広がっています。
えっと……?
「ローザ! 大丈夫かい?」
「あれ? ヴィーシャさん? えっと、あたし、どうなったんですか?」
「そこのでこぼこでひっくり返ったんだよ。どこか痛いところは無いかい?」
「えっと……ないです」
そう答えながら上体を起こしてみます。
あ、えっと、はい。どうやら転んで新雪の中で大の字になっていたみたいです。
「ああ、良かった」
ヴィーシャさんがほっとした表情を浮かべています。
「えっと、ごめんなさい」
「え? どうして?」
「その、心配を掛けちゃったみたいで……」
「いいって。怪我がなくて良かったよ。それより、次からは私が腰を抱えて滑るからさ」
「え? 腰を?」
「そう。ローザは小柄だからできるよ」
ヴィーシャさんがそう言うと、あたしを立ち上がらせてくれました。そしてあたしの後ろにぴったりくっついて腰を抱えました。
「ほら、これなら怖くないよね?」
「は、はい」
「じゃ、進むよ」
ヴィーシャさんはそう言ってあたしを抱えたままゆっくりと斜面を下り始めます。
「あ、すごいです。速くならないです」
「私がブレーキを掛けているからね。ほら、ローザも。膝の内側に力をちょっと入れてみて」
「えっと、こうですか?」
「あ、そうじゃなくってもっとこう、エッジを立てるように」
「え? えっじ?」
「板の角のところだよ」
「え? 角?」
「そう。膝を内側にして板の角を立てるんだ」
「えっと……」
そんな話をしているうちに、あたしは坂を下り終えてしまいました。
「えっと……」
「あはは、初心者だからしかたないよ。もう一回やってみようか」
「はい……」





