第16話 食事を横取りされました
2020/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/12/23 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「ほら、ユキ。薬草ですよ」
マイホームに帰ってきたあたしはユキを急いで毛皮の上に寝かせました。そして途中で見つけた薬草を急いですり潰すとユキに舐めさせてあげます。
「ミャー」
弱々しい鳴き声で答えたユキはペロペロと薬草を舐めますが、半分ほど舐めたところでユキの力が突然ガクッと抜けてしまいました。
「ユキ! しっかりして!」
これしかしてあげられないのが悔しいです。
あたしは毛皮の上で浅い息をしながら苦しそうに眠るユキの頭を優しく撫でました。その手にはしっかりとユキのぬくもりが伝わってきますが、その苦しそうな表情があたしの胸を締めつけます。
これ、全部あたしのせいですよね。
だって、あたし達があのゴブリンに気付いた時、あいつはまだ遠くにいたんです。だから、あたしが怖がらないで最初から魔力弾でちゃんと倒せていればこんなことにはならなかったはずです。
「ごめん、なさい……」
この感情の行き場が無くて、どうしたらいいか分からなくて。気が付けば目の前が滲んで、そしてあたしは嗚咽を漏らしていました。
「ピピ~」
ピーちゃんが心配そうな声をあげると腕のようなものであたしの頭をポンポンとやさしく叩いてくれます。
「う、うわぁぁぁぁぁん。ユキがっ! ピーちゃん! ユキがっ!」
あたしはピーちゃんに抱きついてわんわんと泣いてしまったのでした。
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気付けばすっかり日が傾いてきてしまいました。ユキは相変わらずの状態ですが、浅い呼吸が少しだけ深くなっているようですのでもしかしたら快方に向かっているのかもしれません。
少しだけホッとしたところであたしのお腹が大きな音を立てました。
そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけませんね。
って、しまった。今日狩った鹿の血抜きをちゃんとしていませんでした。
あたしはピーちゃんにユキの看病をお願いすると、慌てて川沿いのいつも血抜きをしている場所まで行って急いで血抜きをします。ただ、もしかすると時間が経ちすぎていてもう美味しくは食べられないかもしれません。
だからといって捨てるなんて贅沢なことはしませんけどね。
川の上にシカ肉を吊るしたまま少し待ちます。それにしてもこんなことができるのも【収納】のおかげです。だって、あたしの力じゃ木の上になんて持ち上げられないですからね。
【収納】スキルで収納した物を取り出す時は、思った場所に思ったように出現させる事ができるんですよ。もちろん、あんまり遠かったりすると無理ですけどね。
でもそのおかげで、吊るすのも回収するのも毎回収納経由でやれば力のないあたしでも簡単にこういった力仕事ができるんです。
そうしてしばらく待っている間にいつもの作戦で川魚を二匹捕まえたあたしは血抜きの終わった鹿を回収してマイホームへと戻ったのでした。
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マイホームに戻ったあたしはまず最初にユキの様子を確認します。
「ああ、よかった」
あたしが出掛けた時と変わらない様子です。容態が急変していたりしなくて本当に良かったです。
すっかり暗くなったマイホームの前でたき火の明かりを頼りに先ほど血抜きした鹿肉を解体しては焼いていきます。収納で保存しないといけませんからね。
「あ、ピーちゃん。毛皮をきれいにしてください」
「ピピッ」
ピーちゃんはマイホームから出てくると地面に置いてた毛皮に纏わりついています。きっと余計な油とかも食べてくれるでしょうから、あたしが頑張って川の水で洗うよりもきっと上手くいくに違いありません。
あっと、お魚もあったんでした。
あたしは体内で魔力を練り上げると指先に小さな魔力のナイフを作り出します。そしてそのナイフで鱗を剥ぎ、そしてお魚のお腹を切って内臓を取り出します。かなりの集中力が必要になりますが、自分のことながら随分と器用なことができるようになった物だと思います。
さて、これであとは適当な枝に刺してたき火の近くに刺しておけばそのうち焼けるはずです。これもあまり火に近づけすぎないのがポイントですね。
しばらく待っているとお魚から油がポタポタと地面に零れ落ちます。そろそろひっくり返し時ですね。
お魚の串をひっくり返して反対側を焼いていきます。ついでにお肉もひっくり返しておきましょう。お肉からも肉汁が零れ落ち、火に落ちてジューっという食欲をそそる音がします。
そうしてじっとお魚とお肉を見つめて空腹を我慢しているとお魚が焼き上がりました。
あたしはお祈りをするとお魚にかぶりつきます。
うん。美味しい! お肉も良いですけどお魚も美味しいですね。
孤児院ではお魚も出ましたが塩漬けばかりで、新鮮なお魚なんてほとんど食べられませんでした。やっぱりサバイバル生活のおかげでグルメになっている気がします。欲を言えばお塩が欲しいところですけど。
あとはみんなの分もあげなきゃいけませんね。ピーちゃんは残った骨と、それから鹿を少しでいいですね。
「はい、ピーちゃんどうぞ」
「ピピッ」
それからユキは……まだ寝ているから明日にした方が良さそうですね。
それじゃあ、このお魚は収納にしまって明日食べさせてあげることにしましょう。
そう思って収納しようすると、突然音もなく目の前を影が過ぎり、そしてユキの分のお魚をつかんで飛び去って行きました。
「え? 今のは……鳥?」
あたしはあまりの急な出来事に呆然として飛び去った影を見送ったのでした。