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第四章第9話 対決なんてしたくないです

 えっと、こんにちは。ローザです。


 あたしは今、治療対決をするために終末病院という場所にやってきています。


 はっきり言って治療対決なんてまったく気が乗らないです。そんなことをするのなら、ちょっとでも助かるように協力して頑張ればいいと思うんですけど……。


 でも、仕方ありませんよね。


 瀉血が間違っているってことを分かってもらわないと、これからもきっとたくさんの人が死んじゃいますもんね。


 あ、今回はちゃんとユキたちにもついて来てもらっていますよ。


 ラダさんとヴィーシャさんが護衛として一緒にきてくれていますので、叩かれることはいくらんでもないと思いますけど、それでもみんながいると安心できます。


 ただ……。


「ふん。儂の治療の功績を盗んで恥入らないとはな。今日こそ儂の正しさを証明してやる」

「えっと……」


 パブロさんがあたしのことを見下してきます。


「なんじゃ? 言い返せないのか?」

「っ! そんなっ!」

「パブロ殿、おやめください」


 ラダさんがすっとあたしの前に割り込んでくれました。しかしパブロさんは意地の悪い笑みを浮かべます。


「はっ! 他人の陰に隠れて何も言い返せぬとは」

「やめろと言ったが?」


 ラダさんは低い声でそう言うと、剣に手をかけます。


「ぐ……ふん! どちらが正しいか、すぐに分かるだろう。そうすればマルセル様も目が覚めるだろうし、罰を与えていただくからな」


 パブロさんはそう捨て台詞を吐くと、病院の中へずんずんと歩いていってしまいました。


「ローザお嬢様、どうぞお気になさらず」

「はい……」

「さあ、我々も参りましょう」

「はい」


 あたしはラダさんに連れられ、パブロさんの後を追うのでした。


◆◇◆


「パブロ先生、ようこそお越しくださいました。当院は死を待つ者のみですのでいかに高名なパブロ先生といえども難しいかもしれませんが、パブロ先生に診ていただけるというだけでも患者たちの希望となるでしょう」

「うむ」


 病院の応接室に通されたあたしたちをこの病院の院長先生が出迎えてくれたのですが、パブロさんにばかり声を掛けています。


 あ、ちらっとこっちを見ました。


「そちらのお嬢さんは学生だそうですね。マルセル様のご命令ですので受け入れますが、現実がどれほど厳しいか、よく勉強していってください」

「……」


 えっと、なんだかものすごく敵視されています。


「さて、当院の患者たちには予めどちらの治療を受けたいかの希望を聞いております。赤い布を巻いている患者はパブロ先生の、青い布を巻いている患者はお嬢さんの魔術を希望しています」


 院長先生はそう言うとあたしのほうをじろりと見てきました。


「患者の希望を最優先し、パブロ先生の邪魔をしないように。いいですね?」

「……はい」


 いくらパブロさんが有名なお医者さんだからって、何もそんな言い方しなくても……。


 ちょっとムッとしてしまいましたが、ぐっとこらえます。


「さて、それではさっそく最初の病室に案内します」

「うむ」


 院長先生とパブロさんがずんずんと歩いていき、あたしたちはその後をとぼとぼと追いかけます。


 そうしてあたしたちは最初の病室にやってきました。


 なんだか狭い部屋にベッドが四つも並んでいて、ものすごい圧迫感があります。そのうえ変な匂いまで充満しているんですけど……。


「こちらの部屋の患者さんは全員、パブロ先生の治療を希望しております」

「うむ。全力を尽くそう。この患者は?」

「彼は衛兵で、雪の中盗人を追いかけていたところ、抵抗されて水路に転落し、左脚を骨折しました。その左脚が大きく腫れ、壊死が始まっております」


 えっと、それならすぐに治癒で治ると思います。たぶんピーちゃんも治せると思うんですけど……。


「なるほど。ならば壊死した部分を切除しよう。かなりの痛みがあるが、やってみるかね?」

「はい。お願いします」


 患者さんはきっと一縷の望みをかけてという感じなんでしょうけど、このまま何も言わなくていいんでしょうか?


 やっぱり良くない気がします。


「あ、あの……」

「何かね?」

「お嬢さん、パブロ先生の治療を邪魔してはいけませんよ? そういう約束ですよね?」

「あ……はい……」


 なんだか、悪いことをした気分になってきました。患者さんもあたしをすごい目で見てきますし……。


 ピーちゃんとユキがあたしの足に体をこすりつけて慰めてくれていて、そうしているうちにだんだんと気分がマシになってきました。


 そうですよね。あたしには別にこの人たちがどうなろうと関係ないじゃないですか。


 この治療対決だって、おかしな言いがかりを付けられたからやっているだけです。


 別に勝ち負けなんて……って! え? こんなところで足を切っちゃうんですか!?


 すぐに必要な機材が運ばれてきました。


 あああ、そんなにばっさりやったら出血が……。


 患者さんの絶叫と共に凍傷で変色した足が切り落とされ、傷口が熱い油で止血されています。


 ううっ……。


 これ、本当に治療なんですか?


 切らなくても治るはずなのに……。

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