第四章第3話 ベアヌ高原に行くことになりました
「え? ベアヌ高原に遊びに行くんですか?」
習ったマナーを思い出して、間違えないように気をつけながら夕食を食べているとレジーナさんがそんなことを提案してきました。
「ええ。冬のベアヌ高原も楽しいですわよ。凍ったガルヴェラ湖の上でスケートやワカサギ釣りができますわ。それにスキーだって楽しめるんですのよ」
「えっと……それってなんですか? それに湖が凍ってるのに、どうやって釣りするんですか?」
「あら? そうですのね」
レジーナさんがなんだか楽しそうにしています。
「それじゃあ楽しみにしておきなさい。きっと驚きますわよ」
「えっと……」
「もう。いつも勉強ばかりで大変そうだから、たまには息抜きをさせてあげようと思っているんですのよ? 素直に受け取りなさい。これからは家族になるんですから」
「あ……はい。その、ありがとうございます」
えっと、やっぱりレジーナさんってすごく優しい人です。アロンさんもシモーナさんも優しいですし……。
「それに、マルセルお兄さまがローザに会いたがっていますわよ」
「えっと、マルセルお兄さま、ですか?」
「ええ。マルセルお兄さまはわたくしの兄で、次期マレスティカ公爵ですわ。ずっと領地の管理をしているのだけれどかなり忙しいようで、年末のお祭りの期間すらこっちに来られないほどだったそうですわ。でもちょうど一段落して、ベアヌ高原に休暇に行くって連絡があったんですのよ」
あ、なんだかレジーナさん、嬉しそうにしています。きっと久しぶりにお兄さんに会えるのが嬉しいんですね。
「えっと、はい。その、そういうことならぜひ」
「ええ、楽しみにしていなさい」
レジーナさんは嬉しそうにそう言うと、料理を口に運びました。
えっと、やっぱりレジーナさん、すごいです。ナイフとフォークでお肉を切ったのに全然音がしないなんて……。
あたし、いつもぜんぜん上手くできなくて、カチカチ音がしちゃうんですよ。
贅沢な悩みだっていうことは分かってるんですけど、あたしなんかが養女にしてもらって本当に大丈夫なんでしょうか。なんだか迷惑を掛けちゃいそうですごく不安です。
◆◇◆
それから一週間後、ベアヌ高原に遊び行くための支度を終えて待っていると侍女の人が呼びに来てくれました。
「ローザお嬢様、馬車の準備が整いました」
「あ、はい。ありがとうございます」
あたしは手ぶらのまま部屋を出て、エントランスに向かいます。
あ、えっと、荷物を持って行かないんじゃなくて、着替えとかの荷物は侍女の人たちが全部運んでくれたんです。
だから【収納】を使わなくていいので、バレる心配がなくってちょっと安心なんですけど、でもなんだか運んでもらって悪いなって思うんですよね。
それに、【収納】を持っていることを言わなくていいのかなっていう後ろめたさもあります。どこかでちゃんとお話しようと思っているんですけど……。
そんなことを考えながら歩いていると、エントランスに到着しました。するとそこには見慣れない騎士っぽい服装をしたヴィーシャさんがいるじゃあないですか!
隣には茶色い髪の毛の背のとても高い女性騎士がいます。
「あれ? ヴィーシャさん?」
するとヴィーシャさんとその女性がやってきて、あたしの前に跪きました。
「ローザお嬢様、お初お目にかかります。私はマレスティカ騎士団の騎士ラダ・ロスカと申します。ご旅行中の護衛を担当させていただきます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「こちらは騎士見習いのヴィクトリア・コドルツィです。同じくお嬢様の護衛を担当いたします」
「ローザお嬢様、ヴィクトリア・コドルツィと申します。見習いの身ではございますが、精一杯お嬢様をお守りいたします」
ヴィーシャさんはそう言うと、パチンとウィンクしました。
あ、えっと、はい。あたしも一緒に遊びに行けて嬉しいです。
「えっと、よろしくお願いします」
それからあたしはラダさんにエスコートされ、大きな馬車に乗り込みました。するとなんと、馬車の中にリリアちゃんが座っているではありませんか!
「えっ? リリアちゃん?」
「ローザちゃん、おはよう。あのね、レジーナ様がベアヌ高原にローザちゃんを連れて行くから一緒に来ないかって誘ってくれたの」
「そうだったんですね。なんだかちょっと安心しました」
「安心?」
「はい。その、レジーナ様のお兄さんにも会うって言われてて……」
「あ、うん。あたしも聞いた。光属性の二人に会ってみたいんだってね」
えっと、そうですよね。リリアちゃんにだって、養女の件はまだ秘密ですもんね。
「ねえ、どんな人だと思う?」
「えっと……」
「どんな人なのかなぁ。レジーナ様のお兄さまで、次期公爵様なんだよね。きっとすごくかっこいいんだろうなぁ。楽しみだなぁ」
あたしの後に続いてヴィーシャさんとラダさんが馬車に乗り込んできました。
「お嬢様がた、出発いたします。馬車が揺れますのでお気を付けください」
するとまるでその言葉を待っていたかのように、馬車はゆっくりと動き始めるのでした。





