第15話 ゴブリンが現れました
2020/12/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
どうもおはようございます。ローザです。とっても快適な目覚めです。
昨日の夜はとてもとても難しい問題に頭を悩ませましたが、結局スッキリ解決できました。ピーちゃんがあたしの枕になってくれて、さらにユキが抱き枕になってくれたんです。
もう至福の時間でしたね。ユキの毛並みもピーちゃんがきれいにしてくれたおかげで、今までに比べてもなおふわふわで、まるで洗いたてのように良い匂いがしました。
こんなに簡単にきれいにできちゃうなんて、スライムってすごいんですね。
さて、色々と充実してきましたが今日は昨日できなかった狩りをしようと思います。
まだ収納の中に少し焼いたお肉は残っていますけど量が減ってきましたからね。そろそろ大物を仕留めておきたいんです。
鹿か猪あたりがいればいいんですけどね。
というわけで狩りに出掛けたあたしはユキにお願いしてあたりに獲物がいないか一緒に探してもらいます。
ユキはこう見えても猫の魔物なので肉食獣です。ということはつまり、人間よりも肉食獣である猫の方が獲物を見つけるのは得意なはずです。
そうして森に分け入ること三時間ほどであたし達はついに鹿を見つけました。
中々の大物ですね。もちろん最初に見つけてくれたのはユキです。
あたしは慎重に狙いを定めて魔力弾を打ち込む準備をはじめます。
最近夢の中の事を思い出していたら、銃の中にはレーザーで当たる位置が分かる装置があったのを思い出したんです。
あたしは光魔法が使えますから、光線を出すのは得意です。まずは、レーザー光線を指先から放つと、鹿の急所にポインティングします。そしてそれから落ち着いて魔法を放ちます。
「魔力弾」
あたしが放った魔力弾は一発で鹿の急所を撃ち抜きました。
「やったぁ!」
あたしは思わず声を上げて鹿の方へと駆け寄り、その死骸を収納へとしまった丁度その時でした。
ユキがシャーッと威嚇する声をあげ、そしてあの饐えた匂いが漂ってきました。
匂いのする方を振り返ってみると、いました。
滅べばいい害悪、ゴブリンです。どうやら向こうもあたしに気付いているようで、あたしを見ては下卑た表情を浮かべてにじり寄ってきます。
その表情を見た瞬間、ゴブリンの洞窟に閉じ込められたときの恐怖が、盗賊団のアジトで血の海を見た恐怖が、そして変わり果てた姿になっていたナタリヤさんの姿が脳裏をよぎり思わず足がすくんでしまいました。
「あ、あ、イヤっ」
思わずそんな声が漏れてしまいました。体もカタカタと震え、それから半歩後ずさりしてしまいます。
でもそんな様子を見たゴブリンたちはあたしのことを無力な獲物だと思ったのでしょう。全く警戒する素振りもなくあたしの方にゆっくりと近づいてきました。
「ピピッ」
「シャーッ」
そんなあたしを護ろうとしてくれたのか、ピーちゃんがあたしとゴブリンの間に出てきてくれ、そしてユキがゴブリンの方へと向かって勢いよく走っていくとゴブリンに飛びかかり、顔面を何度も引っかきました。
「ギャギャギャッ! ギャッ」
振り払おうとしたゴブリンの腕をひらりと避けると今度は足にがぶりと噛みつきました。
「ギギャッ。ギャッ」
痛かったのかゴブリンは悲鳴を上げましたが、噛みついているユキを掴むともう片方の手で思い切り殴りつけてきました。
「ニャッ」
殴られたユキはゴブリンの足から離れ、そして地面に倒れ込んでしまいました。
ですがそれでもユキはあたしを護ろうとして、懸命に立ち上がろうとしています。ゴブリンはそんなユキに容赦なく追撃を浴びせようと拳を振り上げました。
「だ、だめぇー」
あたしは思わず悲鳴を上げながら魔力弾を何発もゴブリンに向かって放ちます。半分パニック状態で撃ったため中々当たりません。ですが、そのうちの一発が運よくゴブリンの振り上げた腕に命中しました。
「ギギャーー」
ゴブリンが悲鳴を上げ、そして命中したところから先の腕が吹き飛びました。
あ、そうです。そうでした!
あたしはもう、あの時のように震えているだけしかできないか弱い女の子じゃないんです。
一か月以上のサバイバルで身につけた狩人としての力があるじゃないですか!
はい。冷静になれました。
苦痛に顔をゆがめながらもあたしを睨みつけてきたゴブリンに狙いをしっかりと定め、そして魔力弾を撃ち込みました。
あたしの放った魔力弾はブシュッという音と共にゴブリンの頭を貫通し、ゴブリンはそのまま地面に力なく崩れ落ちたのでした。
「ユキ! ユキ!」
あたしは急いでユキに駆け寄ると急いで抱き上げます。ユキは弱々しい様子ですが、いつものように「ミャー」と鳴いてあたしに答えてくれます。
「ごめんなさい。あたしがすぐにゴブリンを撃っていれば!」
「ミャー」
その声はまるで心配するなと言ってくれているかのようです。ですが、あんなに強く殴られたんですからものすごく心配です。本当に大丈夫なんでしょうか?
あたしはユキに申し訳なくて、痛々しいユキの姿が目に焼きついていて、涙がぽろぽろとこぼれてしまいます。
ですが泣いてばかりもいられません。こんなところにいたら別のゴブリンが襲ってくるかもしれません。
大声で泣きだしたい気持ちを抑え、あたしはゆっくりとユキを抱きかかえたままマイホームへと向かいます。あたしの腕にはユキの温もりが確かにありますが、その温もりが消えてしまうんじゃないかという不安に押しつぶされそうでした。
「ユキ。頑張って!」
あたしの必死の言葉にユキはやはり弱々しく「ミャー」と返事をしてくれたのでした。