第三章第62話 ダンスパーティー当日になりました
ついにダンスパーティーの日がやってきました。
ヴィーシャさんも無事に追試に合格したので参加できるのですが、お昼のうちからどこかへ出掛けて行きました。会場へはそのまま行くそうです。
それとリリアちゃんですが、なんとこの前の演習で同じ班になったクラスメイトのコーネル・カンテミールさんという人からエスコートを申し込まれたそうです。
コーネルさんは伯爵家の人だそうで、なんとドレスを贈ってもらったそうです。それを着ておめかししたリリアちゃんはさっき会場に向かっていきました。
あたしもそろそろ公子様との約束の時間なんですけど、本当に制服で参加して良かったんでしょうか?
もちろんピーちゃんにキレイにしてもらいましたけど、制服で参加したら公子様に恥をかかせちゃいませんかね?
そんな不安を覚えつつも、あたしは着慣れた制服姿で女子寮の入口へとやってきました。
するとそこにはなんと、制服姿の公子様が立っているではありませんか!
「やあ、ローザ嬢。ご機嫌いかがですか?」
公子様は優しく微笑みながらあたしにそう声を掛けてくれますが、あたしはそれどころではありません。
「あっ! は、はい。えっと、はい」
「そのように緊張しないでください。学園では身分に関係なく過ごすということになっているのですから」
「は、はい。あ、その、今日はエスコートしてくださって、ありがとうございます」
緊張して忘れてしまうところでしたが、なんとかお礼を言えました。
「いいえ。私もローザ嬢のように素敵な女性のパートナーとなれて大変光栄です」
そういうと公子様はあたしの前に跪き、左手の甲にキスをする素振りをしました。
「あ、えっと……」
公子様があまりに紳士的過ぎて、頭が真っ白になってしまいます。
「さ、ローザ嬢。参りましょう」
「は、はい」
公子様はそう言うと、あたしの手を取って優しくエスコートしてくれます。
……他の男子たちだったら絶対にあたしの胸をちらちら見てくるはずなのに、公子様はそうした素振りがまるでありません。
「あ、あの……」
「どうしました?」
「えっと、その……」
「はい」
「その、あたし、ドレスを着なくて良かったんでしょうか?」
すると公子様は優しい口調で答えてくれます。
「ローザ嬢はドレスやヒールには慣れていないと伺いました」
「え?」
「学園の構内は馬車を走らせることができません。ですからドレスを着慣れていないローザ嬢が道を歩けば裾が汚れることを気にしてしまうでしょう?」
「あ、はい……」
「そもそもダンスパーティーのドレスコードで制服は許可されていますし、昨年もそれなりの人数が制服で参加していました。ですからこうして制服で参加することはなんら問題ありません」
公子様はそう言って優しく微笑みました。
「えっと、公子様は去年も制服で参加したんですか?」
「いいえ。去年はカルリア公国の代表という側面もありましたから、正装で参加しましたよ」
「え? じゃあ……」
「いいえ。私が制服を着たかったのですよ」
そう言って公子様は再び優しく微笑みます。
えっと、これって絶対あたしに合わせたってことですよね?
でもそれをあたしに気遣わせないようにそう言ったってこと、ですよね?
……もしかして公子様って、すごくいい人なんじゃないでしょうか?
そんな会話をしているうちに、あたしたちはダンスホールに到着しました。
扉の前には凛々しい衛兵の格好をした二人の男性が立っていますが、そのうちの一人の顔に見覚えがあります。
「あれ? アイオネルさん?」
するとアイオネルさんが小さく頷きます。
「ローザ嬢、騎士志望の生徒はこうして衛兵の役を自ら買って出ることがあるのです」
「そ、そうなんですね」
パーティーに参加するほうが楽しいと思いますけど、こういう役をしてくれる人がいるからパーティーができるんですからありがたいですよね。
「普通科二年レフ・カルリアと普通科一年のローザ嬢だ」
公子様がそうアイオネルさんに告げると、アイオネルさんともう一人の衛兵役の男子が観音開きの扉を開けてくれます。
「さ、ローザ嬢」
「は、はい。ありがとうございます。その、アイオネルさんともう一人のかたも」
するとアイオネルさんたちは小さく頷きました。
あたしは公子様にエスコートされ、ダンスホールの中に入ると、すぐに扉が閉められました。
ダンスホールの中には赤いカーペットが敷かれており、その先にもう一つ扉があります。もちろんその扉の左右にも二人の衛兵姿の生徒がいるのですが……。
「あっ! ヴィーシャさん?」
「おや、本当ですね。ヴィクトリア嬢はあそこの担当でしたか」
「えっ? ヴィーシャさんも衛兵担当なんですか?」
「そのようですね。たしかヴィクトリア嬢も騎士志望でしたね。であれば経験を積む良い機会です」
そうしてヴィーシャさんの前まで来ると、自慢気な表情でヴィーシャさんがこちらを見ています。
「あ、あの、ヴィーシャさん、その格好、とっても似合っていますよ」
「ありがとう、ローザ」
「正面入口とは、いいお役目をいただきましたね。ヴィクトリア嬢」
「はい! ありがとうございます!」
公子様の言葉にヴィーシャさんは嬉しそうに、そして誇らしげに答えます。
「えっと、お役目頑張ってください。ヴィーシャさん」
「もちろん!」
どうやらこの役目が本当に嬉しいようです。
「では、入場しましょうか」
「はい」
公子様は真顔に戻り、外の扉でしたように名前をヴィーシャさんたちに告げました。するとヴィーシャさんたちは観音開きの扉を開いてくれます。
キラキラとしたシャンデリアが輝いていて、着飾った女生徒たちがいて、まるで別世界です。
「普通科二年、レフ・カルリア公子殿下、並びに普通科一年、ローザ嬢ご到着!」
なんとヴィーシャさんが良く通る声で会場内にあたしたちの到着を告げたではありませんか!
「えっ?」
「ローザ、楽しんでおいで。公子殿下、どうぞローザをよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんですよ。さあ」
「は、はい」
こうしてあたしは公子様にエスコートされ、会場内へと入るのでした。





