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第三章第60話 パーティーがあるそうです

 小雪が舞う季節になり、年の瀬がどんどんと近づいてきました。あと少しで冬休みなんですが、その前にはものすごく関門が待っています。


 そうです。期末試験です。


 苦手な算数で赤点を取らないかが本当に心配なんです。しかも二年生になったら算数が数学というものになって、さらに難しくなるそうなんです。


 あたし、ちゃんと卒業できるんでしょうか?


 ああ、なんだか不安になってきました。


「ローザちゃん、手が止まってるよ?」

「は、はい。ちょっと難しくって……」

「え? ああ、利益と割合の問題かぁ。それはね。まずは仕入金額を1と考えて――」


 リリアちゃんは簡単にできるようで、さらさらと解説してくれますが、どうしてそんなふうに考えられるのかさっぱりわかりません。


「えっと、どうして仕入金額が1なんですか?」

「えっ? えっとね。割合で考えなきゃいけないでしょ? だから――」


 さっぱりわかりませんけど、そうしなきゃいけないみたいです。


 そのあとも初歩的なことをかなり質問してはリリアちゃんを困らせてしまいましたが、リリアちゃんは丁寧に教えてくれます。


 ううっ。ありがたいんですけど、あたしってどうしてこんなに算数ができないんでしょう……。


◆◇◆


 翌朝、あたしたちが食堂で朝食を食べていると、レジーナさんがやってきました。


「おはようございます」

「ええ。三人ともごきげんよう。席、よろしいかしら?」

「え? はい」


 レジーナさんはあたしの斜め前の席に座りました。


「ローザ、年末パーティーのエスコートのお相手は決まっていて?」

「え? エスコート? パーティーってなんのことですか?」

「えっ? ローザ、あなたまさかなんの準備もしていないんですの?」

「は、はい。その、年末パーティーって……」


 するとレジーナさんは額に手を当てて困ったような表情をしています。


 あれ? ヴィーシャさんも? ……リリアちゃんまで!?


「あ、えっと……」

「ええ、そういえばローザはオーデルラーヴァの出身でしたわね。マルダキアでは年始に向けて一週間はお祭りの季節で、その初日は魔法学園でもダンスパーティーを開催するのですわ」

「そ、そうなんですね……」


 どうしましょう。ダンスも苦手ですし、礼儀作法もまだあまり習っていないんですけど……。


「それで、これですわ」


 レジーナさんが一つの封筒を差し出してきました。


「レフ公子殿下がローザ、パートナーとしてあなたをエスコートしたいとのことでしたわ」

「えっ!?」


 公子様が、ですか?


「ローザ、どうするんですの?」

「えっと……なんであたしなんかを?」

「さあ。公子殿下には公子殿下なりの理由があるのでしょうけれど……」


 レジーナさんはそう言って小さく首を横に振りました。


 そうですよね。でも、これって断って大丈夫なんでしょうか?


「ローザ、断ることはできますわ。ただ、先約が無いのであれば相応の理由が必要ですわね」

「……そうですよね。はい。その、よろしくお願いします」

「ええ。なら後でお返事の手紙を書いてくれるかしら?」

「え? な、なんて書けば……」

「……仕方ありませんわね。夜にわたくしの部屋にいらっしゃい。書き方を教えて差し上げるわ」

「はい。ありがとうございます」


◆◇◆ 

 

 あたしたちが教室に行くとすぐにゲラシム先生が教室に入ってきて、話を始めます。


「さて、諸君。そろそろ期末試験が迫っているが、準備は順調かね?」


 うっ……さ、算数が……。


「期末試験では毎年一定の割合で落第する者が出る。心して掛かるように」


 ゲラシム先生はそう言って教室をぐるりと見回します。


「さて、それとは別に、諸君も期待していたであろう件だ」


 すると教室が一瞬ざわつきます。


「年末パーティーの話だ。留学生の諸君は知らないかもしれないが、我が国では年が変わるまでの一週間は祭りの期間だ。それに合わせて魔法学園でもその初日にダンスパーティーを毎年開催している。諸君も知っていただろうが、そのパートナーの学園内での申込が今日から解禁となる。もちろん学園外の家族や婚約者をパートナーにしても良い。ただし、パーティーに一人で来ることにならんようきっちりと励み給え。もっとも!」


 ゲラシム先生はそこで言葉を切ると、再びぐるりと教室中を見回します。


「期末試験で落第した者は参加できない。心して掛かるように」


 すると再び教室はざわつきます。


「諸君、静かにしたまえ。授業を始めるぞ。まずは――」


◆◇◆


 授業が終わり、あたしたちが教室を出ようとするとゼノさんが駆け寄ってきました。さらにパヴェルさんが追いかけるようにやってきます。


「ロ、ロ、ローザさん。せ、せ、拙者とパーティーに」

「いや、待ってくれ。俺と!」

「え……?」


 あまりに唐突なお誘いにびっくりして一瞬固まってしまいましたが、すぐにゼノさんとパヴェルさんの視線に不快感を覚えます。


 せめて誘うときくらいは目を見て話してほしいです。


「ごめんなさい。先約があるんです」

「「「「「えっ?」」」」」


 え? そんなに意外でしたか? というかなんだか今、二人以外の声がたくさん聞こえたような?


 あたしが教室の中を振り返ると、マリウスさんたち演習で一緒だった男子たちと他に何人かの男子がさっと顔を逸らしました。


 ……えっと、はい。胸ばかり見られていて恋人候補として見られていないのは知っていましたけど、そんなに意外でしたか。


 なんだかちょっとショックです。


「ローザちゃん、行こう?」

「はい。あの、そういうわけなので、ごめんなさい」


 あたしはそうして教室を後にすると、そのまま料理研究会へと向かうのでした。


◆◇◆


 その晩、あたしはレジーナさんのお部屋を訪ね、教えてもらいながら公子様にお返事を書いてそれをレジーナさんに預けました。


 そんなわけであたしは公子様にエスコートしてもらうことになったんですけど、どんなパーティーなんでしょう?


 ダンスもまだ全然上手くできないですけど、ちょっと楽しみです。


 あ! でもその前に算数の勉強をがんばらなくっちゃ。

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