第14話 究極の問題に直面しました
2020/12/14 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「ねえ、ユキ?」
「ミャー」
「何だか、あの子ついてきますよね?」
「ミャー」
「え? そんな事は気にするな、ですか?」
「ミャー」
ユキはそう言ってくれていますがこれだけあからさまについて来られるとやっぱり気になります。仕方がないのであたしは足を止めると振り返ると声をかけました。
「あの、どうしてついてくるんですか?」
「……ピピー」
いじめられっ子スライムはしょんぼりとした様子でまるで「ダメ?」とでも聞いているかのようです。
あ、意外とかわいいかもしれません。
「あたし達と一緒に来たいんですか?」
「ピピッ」
その様子はぷにぷにとして形の無いスライムのくせにまるでビシッと背筋を伸ばしているかのように見えて、そして明らかに嬉しそうな様子で返事をするのを見て何だかついおかしくなってクスリとして笑ってしまいました。
「じゃあ、いいですよ。あたしのお友達になって、一緒にいてくれますか?」
「ピピッ」
またまた元気な様子でそう返事します。ユキといいこの子といい、魔物はそう簡単に人間には懐かないんじゃなかったでしたっけ?
まあ、いいですけど。
「じゃあ、約束です」
「ピッ」
あたしが屈んでこの子を撫でてあげると、またユキの時のような感覚に襲われ思わず地面にへたり込んでしまいました。
すごい勢いで魔力が抜けていき、この子が淡く光ります。
「あ……名前、つけてないですね。じゃあ、えっと……」
どうしよう。まったく思いつきません。
「ピピー?」
「あ、えっと、ピーです。あなたの名前」
「ピピッ」
あ、よかった。嬉しそうにしているので気に入ってくれたみたいです。
それからしばらくして魔力が抜けていくのが終わり、ピーちゃんがあたしのサバイバルのお友達に加わったのでした。
****
ピーちゃんを従魔にしたら魔力を使い切ってしまったので、今日の狩りはお休みにしてマイホームに帰ってきました。まずはご飯にしようと思います。
あたしは収納から焼いてあるウサギ肉を取り出すとお皿代わりの葉っぱに置いてお昼にします。もちろんユキにもウサギ肉をあげたんですが、そういえばピーちゃんは何食べるんでしょう?
「ピーちゃんもウサギのお肉で良いですか? 他の物を食べます?」
「ピッ」
するとピーちゃんは器用に体の一部を細く伸ばすとあたしのウサギ肉を指さしました。
「じゃあ、ピーちゃんもウサギ肉ですね。はいどうぞ」
「ピピッ」
ピーちゃんは嬉しそうにウサギ肉を食べ始めました。あたしもお腹が空いたのでお祈りをしてからウサギ肉を食べます。
最近はちょっと贅沢になってきたのでウサギ肉くらいでは前ほどは感動しなくなってきました。それに最近は安定して狩れているので、毎日満腹とまではいきませんが孤児院にいた頃よりもちゃんと食べられています。
こうしてかわいいお友達もできて、あたしは今とっても幸せです。
「ピピッ」
ピーちゃんの声に振り返ってみると、もう既に全部食べてしまったようです。
「もっと欲しいんですか?」
「ピッ。ピッ」
えっと、これはどういうことでしょうか?
ピーちゃんは体の一部を伸ばすとあたしの食べ残した骨を指さしています。
「あ、もしかして骨を食べるんですか?」
「ピッ」
なるほど。スライムはあたしたちが食べられない物も無駄なく食べるんですね。
「骨が欲しいならあげますよ。はいどうぞ」
「ピピッ」
ピーちゃんは嬉しそうに返事をすると食べ残しの骨を取り込んで消化します。
「おー。すごいですね。ユキの残した骨も食べますか?」
「ピピッ?」
「ミャー」
「ピピッ」
何かユキとピーちゃんで会話したかと思うとすぐにピーちゃんはユキの食べ残しの骨を取り込みました。
えっと。今の絶対会話してましたよね?
魔物ってこんなに賢いんですね。すごい!
こうしてピーちゃんをお迎えしての最初の食事は和やかに過ぎ去ったのでした。
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「ふう。今日も美味しかったですね」
「ピピッ」
あたしが独り言を呟くとピーちゃんがあたしの右手に乗っかってきました。
「え? ピーちゃん? ちょっと? く、くすぐったい」
なんだかピーちゃんがあたしの右手にまとわりついては、まるでくすぐるかのようにうねうねと動いています。そして手が終わると今度はあたしの腕に上がってきて。
「え? ちょっと? あ、そこは……」
さらに服の中にまで侵入してきたピーちゃんが右腕だけじゃなくてあたしの全身を撫でまわしてきます。
「ちょ、ピーちゃん。くすぐった、あっ、あんっ。ダメッ。そこはッ」
脇腹は反則です。もうくすぐったくて我慢できません。
「あはははは。だめ。あははは」
そしてそのままピーちゃんに全身を撫でまわされたあたしはそのままぐったりと地面に寝転がってしまいました。
「ピュイッ」
そんなあたしの隣でピーちゃんは何故かものすごく得意げな様子です。
えっと? あたしは今ピーちゃんに突然じゃれつかれて、あれ?
ちらりと目に入った自分の右手の肌の色に強烈な違和感を覚えました。
あたし、こんなに肌白いんでしたっけ?
まじまじと自分の両手を見てみますがすごく真っ白な肌ですが、あたしが動かそうとすると思った通りに動くのであたしの手で間違いなさそうです。
あれ? もしかして?
「ピーちゃん、あたしの体の汚れをきれいにしてくれたんですか?」
「ピュイッ」
ピーちゃんのまるで自慢しているかのようなその態度はまるで褒めて褒めてと自慢をしてくる孤児院のちびっこ達を思い出し、思わず懐かしい気分になってしまいました。
「ピーちゃん、ありがとう! おかげでとってもきれいになりました」
「ピュイッ」
ピーちゃんは鼻高々な様子でそう言うと今度はユキをきれいにすると今度はあたしたちのマイホームの中を隅々まできれいにしてくれたのでした。
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そしてその夜、あたしたちはピーちゃんがきれいにしてくれたマイホームの中で久しぶりに気持ちよく眠りにつくことが出来る……と思ったのですが重大な問題が発生しました。
そうです。もふもふのユキに顔を埋めて眠るか、それともぷにぷにのピーちゃんに顔を埋めて眠るかという非常に悩ましい問題です。
夢でも似たような名言があったとはずです。
えっと、確か「もふるべきか、ぷにるべきか。それが問題だ」でしたっけ?