第三章第49話 料理ができました
できあがりました。ウサギ肉と野菜の塩スープと、ウサギの丸焼きです。
「あの、みなさん。できました」
あたしがそう言うと、みんながぞろぞろと集まってきました。
「おーい、コンラート! でき上がったそうだぞ」
「はーい」
堀の中からコンラートさんの声が聞こえて、すぐにベティーナさんだけが堀の中から出てきました。でもコンラートさんは出てきません。
「あれ? コンラートさんはどうしたんですか?」
「あと少しだから、完成させてから食べるって。でも私は女の子だから先に行ってろって言われたの」
「そうなんですね」
コンラートさん、もしかしたらいい人かもしれません。あたしの胸をたまに盗み見てくるのがちょっとイヤですけど……。
「それでどうすればいいの?」
「あ、はい。えっと、スープは一人一杯ずつです。それから丸焼きのうちの一羽はユキとホーちゃんにあげるので、残りはみんなで仲良く分けて食べます。お腹いっぱいにはならないかもしれませんけど、明日は狩りする時間もたくさんありますから……」
「分かったわ。配膳、手伝うね」
「ありがとうございます」
ベティーナさんはそう言うと、スープを器によそっていきます。
「ユキ、ホーちゃん、このお肉は仲良く分けてね」
「ミャ」
「ホー」
ピーちゃんは調理をしていたときにたくさん食べてもらったので、今日は残りの骨とかを食べてもらいます。
えっと、あとはウサギ肉を取り分けないと……。
十一人もいるのでひとりひとりの分量はちょっと少なめですが、足りない人にはパンでお腹を膨らませてもらいましょう。
ナイフを使って丸焼きからお肉を切り分け、残った骨を一ヵ所にまとめていきます。
やがてコンラートさんも合流して、みんなに食事が配られました。
あれ? 一皿余っています。
……あ、そういうことですね。
えっと、はい。やっぱりちゃんと食べてもらわないとまずいですよね。
あたしはテントのほうへといき、裏に隠れていたアレックさんに声を掛けました。
「あの、夕飯ですけど……」
「ひっ!?」
あたしに声を掛けられたアレックさんはビクっとなりました。
えっと、やっぱり怖がられているみたいですね。
「来ないとなくなっちゃいますよ?」
「あ、その……」
アレックさんはびくびくした様子です。
「……あの、あたしどうしてそんなに怖がられているんですか?」
「そ、それは……」
あれ? 怖がっている風なのになんだか少し嬉しそうにしているような?
えっと?
「ローザ、どこにいるんですの? 食べますわよ?」
「あ、はーい」
ロクサーナさんに呼ばれてしまいました。
「アレックさん、食べないと明日もっと動けなくなりますよ」
「は、はい」
アレックさんはそう言うと、ようやくテントの陰から出てきました。
こうしてアレックさんを連れてきたのですが、やっぱり班の人たちの視線がすごいです。
……あれ? アレックさんの分の丸焼きのお肉がありません。
「ほら。あいつの分なんてお前が食っちゃえよ。どうせあいつなんもしてないんだし」
「え?」
コンラートさんの声に慌てて振り返ると、なんとコンラートさんがピーちゃんにアレックさんの分のお肉を差し出しているじゃありませんか!
「あっ! ちょっと! ピーちゃん、それは!」
「ピ」
ピーちゃんはコンラートさんからお皿を受け取ると、そのまま手を伸ばして私に差し出してきました。
「あ、ピーちゃん……」
私はピーちゃんからお皿を受け取ります。
「お! やっぱりすごい賢いな」
「あの、コンラートさん。勝手にごはんをあげないでください」
「え? ああ、そうか。ごめんごめん。でもさ、いくらなんでもあいつにまで肉をやる必要なくない? なんもしてないじゃん」
「それは……そうですけど、でも荷物を運んでくれましたし……」
「荷物運びなんて誰でもできるから。それに重いものを持ったって言うんなら水を運んだ奴らのがもっと大変だったでしょ?」
「う……」
「ま、いいや。そのお肉を用意してくれたのは君の従魔だしね」
「はい……」
「でも、みんな俺と同意見だと思うよ?」
「え?」
言われて周りを見回します。するとみんなはそうだと言いたそうな表情をしています。
えっと、でも一人だけ食べられないのは辛いと思うんです。
孤児院で体の大きい子に食べ物を奪われたときは本当に辛くて悔しかったですから。
するとロクサーナさんが仲裁してくれました。
「ローザ、今回はあなたの顔を立ててその者にも与えることにしましょう。でも明日、働かなかったのならスープだけにする。それでいいですわね?」
「……わかりました」
あたしはそれに同意し、アレックさんにお肉のお皿を差し出しました。
「はい。アレックさんのぶん……え?」
アレックさんが尻もちをつき、カタカタと震えています。
「えっと?」
もう、わけがわかりません。
「ローザ、もうよろしいのではなくて?」
「……はい」
あたしはそう答えると、お肉をピーちゃんに差し出しました。
「ピッ!」
ピーちゃんはお皿ごと体の中に取り込み、お肉だけを綺麗に消化してお皿を吐き出します。
するとそれを見ていたみんなから「おおっ」という声が上がったのでした。
次回更新は通常どおり、2022/07/23 (土) 20:00 を予定しております。





