第三章第45話 テントを張る練習をします
色々と不安はありますけど、あたしは野営チームなので、テントを張る練習をしようと思います。
「えっと、じゃあアレックさん。テントを張るので手伝ってください」
「は、はい」
アレックさんはおどおどした様子でそう答えますが、あたしから目をそらしています。
あれれ? あたし、何か失礼なことしたんでしょうか?
……どうしてでしょう? 目を合わせてくれません。
えっと……でもテントを張るほうが先ですよね。あたしはテントを運んでくれているピーちゃんにお願いします。
「ピーちゃん、降ろしてください」
「ピッ」
するとピーちゃんは担いでいたテントの一式を地面に降ろしてくれます。
え? なんでピーちゃんに運んでもらっているのか、ですか?
だってこれ、ものすごく重たいんですよ。でもあたし、【収納】が使えることは秘密にしていますからね。
それで力持ちのピーちゃんに持ってもらっているんです。
えへへ。ピーちゃん、実はすごいんですよ。何せ、あたしを持ち上げられるくらいですからね。
あっ、ピーちゃんの自慢ばかりしていたら進みませんね。
えっとですね。借りてきた説明書によると、まずはグランドシートというものを敷くみたいです。
「えっと、アレックさん。そこのグランドシートというものをきれいに敷いてください」
「あ……」
あ、あれ? アレックさん、どうしてテントから下がっていくんですか?
それに何か顔色が悪い気がします。
「あの? 体調、悪いんですか?」
「あ、そ、その……」
あたしが近寄ろうとすると顔を背けて後ずさりします。
えっと、もしかしてあたし、怖がられてます?
「あ、えっと、じゃあ、あたしがやってみますから、見ていてください」
「……」
えっと……返事をしてくれません。これってどうしたらいいんでしょう?
えっと、そうですね。授業の時間が終わっちゃったら困りますし、他の人にお願いしましょう。
きっとアレックさんはテントが苦手なんだと思います。
他の人にお願いしようとマリウスさんの配った紙を見てみると、テニス部のコンラートさんも設営担当のようです。
「あ、あのっ。コンラートさん」
「ん?」
「えっと、アレックさんはテントが苦手みたいなんです。だからその、手伝ってもらえませんか?」
「はあっ!? それ、マジで?」
えっと、そうですよね。でも、テントから逃げてますし……。
あたしが困っていると、アレックさんの様子をちらりと見たコンラートさんは大きくため息をつきました。
「わかったよ。何をすればいい?」
「このグランドシートを広げてもらえませんか?」
「はいよ」
コンラートさんがシートを広げてくれたので、二本のポールを使って杭を打つ位置を決めます。
「えっと、このT字に並べたポールの、ここの部分に杭を打ってください」
「はいよ」
コンラートさんは素直に杭を打ってくれますが、その合間にちらちらとあたしの胸に視線を送ってきます。
はあ。仕方ありませんね。さすがにもうこのくらいはもう慣れました。王太子様みたいに固定しなければいいです。
「次は?」
「はい。反対側もお願いします」
「はいよ」
「それが終わったらこのポールの細いほうを内側にして置きます」
「はいよ」
「そうしたらテントの本体をグランドシートの上に置いて、四隅が合うように固定してください」
「はいよ」
「それからポールを立てて、ロープを杭で張ってください」
「はいよ。お、これはちょっと難しいな」
そう言いながらもコンラートさんは何回か調整して、上手くロープを張ってくれました。
すごいです。テントの片側がきっちり立っています。
「反対側も?」
「はい。お願いします」
するとコンラートさんはテキパキとロープを張ってくれ、テントがちょっとそれっぽい形になりました。
「それから四隅を張るように杭を打って、ロープを張ってください」
「はいよ」
コンラートさんはあたしが言ったとおりにテキパキと作業をしてくれます。
「最後にテントが左右に張るように杭を打って、ロープを張ってください」
「はいよ」
こうしてあっという間にテントが完成しました。
「あ、えっと、完成です。ありがとうございます」
「いや、いいよ」
コンラートさんはなぜか顔を少し赤くしながらそう言うと、マリウスさんたちのほうへと戻っていきました。
すると入れ替わりでロクサーナさんがやってきました。
「まあ、これがテントというものですの?」
「はい。借りてきました」
「不思議ですわね。でもこれ、床が硬そうですわね。わたくし、寝袋はとびきり柔らかいものを持っていきますわ」
ロクサーヌさんはそう言いながらテントをペタペタと触っています。
「ああ、そうですわ。こちら、調理器具ですわ。実家に頼んだらすぐに送ってくれましたの」
「ありがとうございます」
そう言ってロクサーナさんは無造作に袋を差し出してきました。その中には見るからに高そうな調理器具が詰め込まれています。
「ローザは料理研究会ですのよね? 楽しみしていますわ」
そう言ってロクサーナさんは調理器具を残し、マリウスさんたちのほうへと戻っていきました。
あの、あたし、丸焼きなら得意なんですけど、それでも大丈夫でしょうか?





