第三章第41話 自己紹介をしました
2023/07/08 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「さて、諸君。今回の演習は魔物のいる森で誰一人欠けることなく、魔物を倒して帰ってくることが目的となる。授業の残り時間は、そのために何が必要かを各班でよく相談するように。質問は随時受け付けているので、気になることがあれば聞きに来るように。以上だ」
そう言ってゲラシム先生は教室の隅に置いてあった丸椅子に腰かけました。すると班長になったマリウス様が早速仕切り始めました。
「それじゃあ二班のみんな、名前はもう知っているだろうから得意な魔法とか魔物との戦闘経験なんかを教えてくれ」
えっ? すみません。男子の名前はちょっと……。
「あら、マリウス様。もう少しきちんと自己紹介をしたほうがよろしいのではなくて? わたくし、普段は殿方とあまりお話していませんの。ご出身やクラブなど、教えていただけるかしら?」
ロクサーナさんに言われてマリウスさんは少し顔を赤くしましたが、すぐに元通りになりました。
「それもそうだな。では俺から自己紹介しよう。俺はマリウス・プレダ。プレダ子爵家の次男で、魔術研究会に所属している。適性属性は火だ」
どうでもいいですけど、マリウスさんは赤毛です。赤毛で火属性って、なんだかイメージぴったりだと思いませんか?
「魔物との戦闘経験だが、俺は父上とともに領地を荒していたゴブリンを退治したことがある」
そういってマリウスさんは顔をしかめました。
そうですよね。ゴブリン、本当に気持ち悪いですよね。あたしもその気持ち、よく分かります。
できればいますぐに絶滅してほしいです。
「わたくしはクリステア子爵家のロクサーナと申しますわ」
続いてロクサーナさんが自己紹介を始めました。長い青髪に深い紺色の瞳が特徴的で、なんだかとっても目力があります。
「わたくし、刺繍が趣味ですのでクラブは刺繍同好会に在籍していますわ。適性属性は水で、魔物との戦闘経験はございませんわ。わたくし、町の外に護衛を連れずに出掛けるのも初めてで、とても楽しみにしていますの。よろしくお願いしますわ」
ロクサーナさんは自信たっぷりな笑みを浮かべながらそう言いました。
えっと、やっぱりお嬢様だとそうですよね。魔術は貴族ですからあたしより二年のアドバンテージがあるので得意なんだと思いますけど、大丈夫でしょうか?
正直、ちょっと不安です。
「私はベティーナです」
ベティーナさんはちょっとくせっ毛な赤い髪を肩にかかるかどうかくらいの長さでオシャレにまとめています。背もあたしと同じかちょっと高いくらいでしょうか。
「マロライウっていう小さな町から来ました。適性属性は土で、将来は農業に関わりたいと思って園芸同好会に所属しています。魔物は……」
そう言い淀むとあたしのほうをちらりと見ました。
「野生の魔物は見たことありません」
あ、そうですね。ユキもピーちゃんもホーちゃんも一応魔物でしたね。
そう一人で納得していると、なんだか皆さんの視線があたしに集中しています。
あれ? えっと?
「ローザさん、次はあなたの番ですわ」
「え? あ……」
やっちゃいました。女子は三人並んでいて順番に自己紹介してるんですから、次はあたしですよね。
「えっと、ローザです。その、オーデルラーヴァから来ました。えっと、属性は光と火で、えっと……」
あれ? 何を話せばいいんでしたっけ?
ちゃんと考えていなかったのでぱっと言葉が出てきません。
そんな私を見るに見かねたのか、ロクサーナさんが助け船を出してくれました。
「……ローザさん。クラブは何をしていますの?」
「あ、はい。料理研究会です」
「そう。魔物との戦闘経験は?」
「魔物は、えっとゴブリンとかは倒したことがあります」
「そ、そう。すごいですわね。ローザさんは従魔もいましたわね?」
「あ、はい。ユキとピーちゃんとホーちゃんがいるんですけど、みんなとっても頼りになるんです。ホーちゃんなんて、野営しているとあたしが寝ている間にウサギを捕まえてくれたりするんですよ。それにユキも――」
「お待ちになって。今、野営って仰いまして?」
「え? あ、はい」
すると班の皆さんが驚いたような表情をしています。
「ローザさん、野営をしたことあるんですの?」
「はい。前はよくやってました」
あたしがそう答えると、ロクサーナさんは絶句しています。
あれれ? 冒険者なら普通、野営ぐらいしますよね?
「次、ヴァシリオス」
「ああ」
マリウスさんが突然次の人を指名し、あたしの順番は終わりになりました。
指名されたヴァシリオスさんは金髪なのですが、さっぱりと清潔感のある感じに切りそろえています。
それと青い瞳をしているのですが、なんというか、その、ちょっと目つきが怖いです。それに背が高いので、背の低いあたしからするとどうしても威圧感を覚えてしまいます。
「俺はヴァシリオス・ルチェスクだ。剣術部所属で、適性属性は風。父と同じ騎士を目指している。魔物を殺したことはないが、幼いころから騎士になるために鍛練はしっかり積んでいる。女は俺の後ろに隠れているといい」
ヴァシリオスさんは自信満々にそう言いました。なんだかちょっと偉そうな感じですが、ずっと鍛えてきたってことはすごく強いんだと思います。
それに剣術部ってことは、ヴィーシャさんと同じ部活ですね。そう考えるとちょっとだけ親近感が湧いてきます。
それからも自己紹介が続いていきます。
「俺はアイオネル・ナスターセだ。適性は火属性で、剣術部所属。ヴァシリオスとは昔からの馴染みで、こいつ同様騎士を目指している。魔物との戦闘経験はないが、俺の父も騎士で幼いころからしっかり鍛えてきた。魔物を倒す準備は万全のつもりだ」
「ぼ、僕はアレックです。美術部所属で、火属性です。あの、あまり得意じゃないんですけど、がんばりますっ!」
「せ、拙者はゼノと申しますぞ。土属性で、魔術同好会所属ですぞ。魔物との戦闘経験は……な、ないですぞ」
う……。なんだかゼノさんの自己紹介を聞いていると妙な悪寒が走ります。胸をじっと見られているわけじゃないのに、どうしてでしょうか?
「実戦魔術部所属のパヴェル・ポペスクだ。属性は水、実戦魔術部では魔物との戦闘を想定した訓練もしている。期待してくれて構わない」
そう言うと、パヴェルさんはあたしの胸に視線を固定しました。
うっ……気持ち悪い。
あたしは自分の体を隠すようにマントの前をきゅっと閉めます。
「俺はバゼスク男爵家のコンラートだ。適性属性は土、部活はテニス部だ。魔物退治のコツはテニス部の先輩に習っているので、ぜひ期待していて欲しい」
え? テニスってネットを挟んでボールを打ち合う紳士淑女のスポーツじゃなかったでしたっけ?
……あ! そうでした。ここのテニス部は魔法で相手を攻撃するんでしたっけ。
あれ? でもボールが返ってこないのにどうやって攻撃を続けるんでしょうか?
次回更新は通常どおり、2022/05/28 (土) 20:00 を予定しております





