第三章第35話 ヴィーシャさんの応援にきました
「ほらほら、ローザちゃん。誰にする? 応援する人がいたほうが見てて面白いよ?」
「え? でも……」
いいんでしょうか? なんだかすごい悪いことをしている気がするんですけど……。
「一番人気のナルドゥス選手かなぁ? あ! やっぱりラズヴァン選手にしよう! すみません! ラズヴァン選手で一枚」
「百レウだよ」
「はい」
リリアちゃんが銀貨一枚を払って木札を受けとりました。
「ほら、ローザちゃんはやらないの?」
「え? でも……」
そう思っていると、当日予選のところに小さくレフ・カルリアという名前が書いてあるのを見つけました。
あれ? レフ・カルリアって、公子様ですよね?
生徒会の人は出ないんじゃなかったでしたっけ?
「あの、すみません」
「あ、誰にするの?」
「えっと、公子様は出るんですか?」
「え? 新聞には出るって書いてないよ?」
「でもあそこにレフ・カルリアって書いてあります」
「え? ああっ! 本当だ! あー、知ってたら公子様にしたのに! ローザちゃん、絶対公子様にしたほうがいいよ!」
「そうなんですか?」
「もちろんだよ。ねえ、おじさん。払い戻しってできないですか?」
「選手が欠場しない限り払い戻しはダメだよ」
「ですよね……」
リリアちゃんはそう言ってがっくりと肩を落としました。
「ほら、ローザちゃんだけでも公子様に賭けたほうがいいよ!」
「え、でも……」
「ローザちゃん、公子様に助けてもらったんでしょ? だったら応援してもいいんじゃない?」
「え? それはそうですけど……」
賭けていいんでしょうか?
よく分からないですけど、リリアちゃんがそこまで言うならちょっと買うくらいはいいかもしれません。
「えっと、それじゃああたしは公子様の賭け札を一枚」
「はいよ。百レウだね」
「はい」
あたしは銀貨一枚を支払って賭け札を受けとり、それから賭け札売り場を後にしたのでした。
◆◇◆
賭け札を買ったあたしたちは、今度はヴィーシャさんの応援をするために剣術部の試合を見に行きました。
場所はバラサさんと決闘をさせられた闘技場です。この闘技場では今日剣術部の試合が、明日からは魔術選手権が開催されるんだそうです。
この前は闘技場で戦う側でしたが、今回は観客席です。
「あ! いた! ヴィーシャさーん!」
あたしたちが観客席の最前列から大声で手を振りながら呼ぶと、ヴィーシャさんが笑顔で駆け寄ってきてくれました。
「やあ、応援に来てくれたんだね」
「はい。がんばってください」
「もちろんだよ。といっても、相手は現役の王宮騎士だから勝つのはちょっと厳しいかもしれないけれど」
「現役の騎士の人と試合するんですか?」
「そうなんだ。剣術部を出た卒業生の多くは騎士として就職するからね。ここで試合をして先輩騎士の目に留まれば、その先輩の所属している騎士団に誘ってもらえたりするんだ」
「そうなんですね。がんばってください」
「ああ、ありがとう!」
そうしてヴィーシャさんは部員の人たちの集まりに戻っていきました。
あれ? でもヴィーシャさん、レジーナさんのところでお世話になるつもりって言っていたような?
◆◇◆
それから何試合か見学しましたが、なんだか一方的な試合が多かったです。
試合を始める前に選手の紹介をされるんですけど、生徒対卒業生みたいなカードばかりです。
どの人も大抵はなんとか騎士団所属、みたいな紹介のされ方をしているので、どうしても生徒には分が悪いみたいです。
現役の騎士より学生のほうが強かったら、それはそれで困りますもんね。
あ、ヴィーシャさんが出てきました。
「ローザちゃん、出てきたよ」
「本当ですね」
「楽しみだね」
「はい。あ、対戦相手の人も女性なんですね」
「本当だ! かっこいいなぁ」
リリアちゃんの言うとおり、背が高くて凛々しい感じの女性です。
「それでは、次の対戦カードを紹介します。剣術部より、普通科一年ヴィクトリア・コドルツィ選手です」
紹介されたヴィーシャさんは真剣な表情で闘技場の中央に向かって歩いていきます。
「ローザちゃん、いくよ」
「はい」
「せーのっ!」
「「ヴィーシャさーん!」」
私たちが大声で叫ぶと、ヴィーシャさんは気付いたのか歩きながらこっちに手を振ってくれました。
えへへ。なんだかこういうの、楽しいですね。
「対するは、マルダキア王宮騎士団第三近衛隊所属ソリナ・メリンテ選手となります」
すると、会場内がどよめきました。
あれ? そんなに有名なひとなんでしょうか?
そんな雰囲気の中、ソリナ選手は優雅にヴィーシャさんのほうへと歩いていきます。
「ソリナ・メリンテ選手は、なんと我が国の王太子の婚約者であるレジーナ・マレスティカ公爵令嬢の護衛騎士でもあります。主にマレスティカ公爵令嬢の王宮での警護を担当されているとのことです」
え? レジーナさんの護衛騎士なんですか?
「ローザちゃん、ヴィーシャさんすごいね。いくらレジーナ様に目を掛けていただいているって言っても、まさかレジーナ様の護衛騎士と試合をしてもらえるなんて!」
「それってそんなにすごいんですか?」
「そりゃそうだよ。だって、レジーナ様は未来の王妃様なんだよ! その護衛騎士なんて、普通はなりたくてもなれないと思うな」
「そうなんですね」
でもそんなにすごい人と戦ってヴィーシャさん、大丈夫なんでしょうか?
ちょっと心配です。
「両者、前へ!」
二人は近づくと、剣を構えました。
「始め!」
そんな心配をよそに、ヴィーシャさんの試合が始まるのでした。
 





