ぶつ、ぶつ、ぶつ。
僕は今日も、指先でつぶやく。
スマホ画面に向かって指でつぶやく。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
今日も、かなりつぶやいた。
指先が疲れたな。
ああ、爪を切っておかないと。
パチン、パチン、パチン。
無言で爪を切っていく。
指先でつぶやくたびに、スマホ画面が、カツ、カツ、カツと鳴っていたけれど、それは今日まで。
無音で、心おきなく、つぶやける、この幸せ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
再び指先が騒ぎ出す。
朝から晩まで、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
夜中の三時に、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
朝一番に、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
夢の中でも、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
夢から覚めたら、夢の中の出来事を、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
おしゃべりな指先とは裏腹に、僕の口は閉じられたまま。
そういえば、食事をしてない。
開いた口の中に、焼き立てパンを放り込む。
もぐ、もぐ、もぐ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
もぐ、もぐ、もぐ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
大丈夫、僕の口は、ちゃんと役目をこなしている。
食べ物を、食べている。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
おしゃべりな指先とは裏腹に、僕の口は閉じられたまま。
そういえば、声を出していない。
「ぶつ、ぶつ、ぶつ。」
大丈夫、僕の声は、ちゃんと出る。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
強気な僕の指先は、かなりおしゃべり。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
僕の口は、今日、ぶつ、ぶつ、ぶつ、と、呟いた。
恥ずかしがり屋の僕に、ちょうどいい。
六文字くらいで、ちょうどいい。
明日も同じだけ、呟けばいい。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
こんなにコミュニケーションは取れているというのに。
なぜか、胸騒ぎがする。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
不安を指で、つぶいやいた。
瞬く間に返ってくる、優しい言葉。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
感謝の気持ちを込めて、
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
大丈夫だ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
僕はここに、存在している。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
確かにスマホの中に、存在している。
ぶつぶつぶつ。
ぶつぶつぶつ。
ぶつぶつぶつ。
ぶつぶつぶつ。
ぶつ、ぶつ、ぶつ。
あ。
充電、切れた。
僕の指は、いきなり、静かになった。
「静寂の奏、今ここに、極まれり。」
代わりに僕の口が、騒ぎ出した。
「ああそうだ、新聞縛らないと。」
「ヤバイ、歯磨き粉ないんだった。」
「散歩はどこに行こうかな!」
「げげ、靴下穴開いてんじゃん!」
「ちょ!このパソコン、おもっ!!!」
「はーれたそらーっ!!」
「ひゃっほうひゃっほうひゃっほほーい」
今からしばらく、独り言の宴が開かれる。
誰もいないこの部屋で、僕一人の宴は開かれた。
僕は結局、呟かずには、いられない。
充電完了まであとわずか。
僕は自分の口で、思うまま、気ままに、呟き続ける。
返事のない呟きを、たった一人で、ぶつぶつぶつ。
ぶつぶつぶつ。
ぶつぶつぶつ…
ついってると、たまにおかしなテンションになりがちですな(´▽`;)ゞ