お化けの森と私
「ウィル様、リッチってなんですか…」
なんか座学でふんわり名前を聞いた気がしますが…
小声でコソコソする私に、ウィル様はクスリと笑い「座学で習ったよ?」と言いつつ優しく教えて下さりました。
「リッチはね、アンデット系の魔物で魔法攻撃を得意とし、物理耐性が強いんだ。聖水と炎系の魔法に弱いみたいだけど…魔法が得意な第8番騎士団が手こずるって事は何か問題があるんでしょうか?」
その声はレナード副隊長に向かう。
「そう、今回の敵は問題があってね、どうやら相当頭が回るようなんだよね。魔力探知出来るみたいで森の中をちょこまかと逃げ回るんだよ。あと、普段と違う森の魔力に別の魔物も引き寄せられてる見たいで、穏やかだった森の勢力図が滅茶苦茶になってるみたいでさ。大人しいツノ兎くらいしか居なかった森に、レイスやらスケルトンやらも加わってさながらお化けの森って感じになっちゃってるんだよね。」
お…お…お化けの……森…
お化けの森!?!?
ひっひぇええ!
「うううウィル様…おぉおおお化けの森はちょっっちょっと守備範囲外です!!」
「大丈夫、僕も守備範囲外だよ?」
「そうそう、皆守備範囲外だよ〜」
朗らかに笑い続けるレナード副隊長。
「お化けって言ったけど魔物だから。魔物なら見慣れたものだろう?白の戦乙女は13番隊ーー死神騎士団推薦なんだからさ?」
なっなんですか白の…え?
「君の事だよ、スノーレイ。知らないの自分の2つ名。」
なんですか!?その恥ずかしい名前!
知りませんよ!今聞きました!
私がブンブンと首をふると目を細めながらレナード様は続けた。
「まぁ、2つ名は置いとくとして。ここにいる者は多かれ少なかれ魔物との接触があるはずだよね。アンデットと聞いて怖いと思うかも知れないけど、変わらないよ。魔物は魔物さ。物理が効きにくいってだけだから。出会ったら魔法で戦えばいいんだよ。まぁ…強いて言えば、森での戦闘になるので炎系の魔法を使う時は慎重に、周りに引火しないようにって感じかな?」
引火しないようにって…炎系が弱点の魔物相手に森で引火に注意しながら戦えと…?
難易度高くないでしょうか…。。
自信ないです…物理でボカンの方がまだ可能性がありました…。
「まぁとにかく実践あるのみだよ。とりあえず静寂の森の近くに仮拠点を作ってるから移動しようか。あー後、急で悪いんだけど作戦開始は5時間後だから」
……
…………
あの後、仮拠点に異動し第8騎士団 団長キエフ・ボルトナー様より詳しい説明があった。
「お前たち、この静寂の森に巣食うリッチは今まで出会ったどのリッチより小賢しい。物理耐性があるのもさることながら、コイツの特技は魔力探知だ。俺たちが微弱に流している魔力を感知し、エンカウントしないよう距離をとる。いいか、お前たち、魔力を内に完全に納めろ。第8にいるヤツらに出来ないとは言わせない。魔力を絶ってヤツに悟らせぬよう近ずいてヤれ。わかったな。」
「「はい!」」
「あと、臨時で徴兵された特別班、お前たちの中には魔力絶ちを出来ぬ者もいるだろう?寧ろ出来なくていい。お前たち特別班はリッチの魔力で集まったレイスやらスケルトンやらを狩ってくれ。こいつらも勿論物理に強く炎系の魔法に弱いが…森は燃やすなよ?もし木々に延焼したら即座に鎮火しろ。水系の魔法が使える者はそれも意識しておけ。あと第8希望者は魔力絶ち出来るように訓練しておけよ。」
「「はい!」」
「各グループごと森に散開。私は今からこの森に広域結界を張ってヤツを森から出さないようにする。結界維持に全ての力を入れるから、俺からのフォローは無いと思え。以上、解散!!」
団長の声と任務が開始され、皆が森に入っていった。
暫くすると青い光が森を多い、結界が張られたのだと肌で感じた。
※※※※
ザッザッザッ、ザッザッザッ…
静かな森を歩く音が響きます。
時刻は凡そ、夕刻過ぎと言う所でしょうか。
月明かりと腰に下げたランタンの灯りを頼りに森を歩きーー
初めての実地訓練に…私はこっそりと焦っていました。
私は皆に言えなかった事があるのです。
私…私…
(魔物…倒した事ないんです…)
なんかもうね?!空気感で皆小物くらいなら殺ってますから?
感がバンバンでてまして!
どうしても…どうしても言えなかったんです!!
……と言うか、どちらかと言うと私自身が討伐対象の魔物なんだよね的な空気もありまして?
あと13番隊推薦だから当たり前に魔物とか退治したでしょ?
みたいなのもありましたけど、なんて言うか、魔物とタイジはしょっちゅうしてましたけど
「うぉー今日は焼肉パーティーじゃー!!!」「うぉーーー!」
なんて言うね、雄叫びと共に運び込まれたご臨終済みな魔物でありましたら、そりゃもー何体も対峙いたしましたよ!
あの砦で5本の指に入るくらい捌くのは上手くなりました。
でも!それってあくまでご臨終済みの魔物でして??
捌くの上手いってもう戦う云々の話じゃなくて赤身のお肉の話ですから!!
私はまだお伝えできてません…
魔物と戦った事もない、ちょっと物理攻撃が得意なだけの小者がですね、この特別班なんてワンランク上なチームに紛れているのを…お伝え…できてないんですね…。
どうしよう…
暗い顔で歩く私に「大丈夫?まだ怖いの?」なんてウィル様が声をかけてくださいます。
あぁ、天使様は本当にお優しい…
「おい、ヴォルフガング家のお坊ちゃんと白の戦乙女、お前ら生粋のエリート様と2つ名持ちの凄腕だからって任務中にイチャつくのは止めて欲しいんだけと?」
なっっ!!私はイチャついてなんて!そんなことしてませんが!?
私がビックリして言い返せずにいると
ウィル様が優しく反論した。
「僕とスノーは昔馴染みでね?仲がいいんだよ。でもそうか、君たちの目にそういう風に見えてしまったのなら申し訳ないね?」
「けっ!お貴族お坊ちゃまは反論さえ優雅なんだなぁ?おみそれしましたぁー」
「もう…やめなよアズラク?」
「お前達静かに歩けないのか…」
何やらガヤガヤと話始めました。
私は数少ない女性入団者で、寮が別だったのもありこの方達とあまり関わりがなく、お名前くらいしか知らないのですが、、
ウィル様に噛み付いてきたのが
アズラク・ホーン様
アズラク様を窘めたのが
マークス・レイバン様
騒音注意されたのが
カイ・コールイン様
3人ともあの入団試験を突破した強者さん達です。
私は見れませんでしたが(レスター様に雷を落とされていたので…)御三方最終試験で副長クラスの方々と戦って善戦したとか。
いやほんと、皆さん凄い。
私のずるっ子化け物パワーと違い、皆さんは純粋な己の力でここに居るのですから。
ほんと私はなんでここにいるんですかね…
グルグルと考えていると、サワッと右頬が何かに撫でられたような気がした。
思わず飛び退き距離をとると「どうした!?」と皆が私の方を見る。
「わっわかりません…でも何か…来ます!」
そう言うと私は反射的に剣を抜いた。
月明かりに照らされる暗い森の木々が揺れる。
サワサワ…サワサワ…サワサワ…
薄気味悪い何かが私を冷んやりと撫でていきます…
サワサワ…サワサワ…サワサワ…
あれ…?気の所為だったか…な…?
でも変だな何だかやけに寒くて…足元が特に…
ソロリと目線を下げるとソコには…
トロケタお顔の幽霊が私の脚を掴んで見上げておりました。。。
「んんんっっぎゃーーーーーー!!!」
この時私は今までしていた人間の範囲での力加減をすっかり忘れて最大出力でソレを殴り付けておりました。
ドォォオオン!!
めくれる土、衝撃で吹っ飛ぶ私の目の端に驚きながら距離をとる皆様方が見えました。
「レイスだ!物理は効かないって言ってただろうが!!」
あぁうん、知ってましたよ?
怒らないで下さいよアズラク様。
だって、急に現れたら怖いんですって。
魔法より手馴れた剣が出ちゃうんですって。
私が叩きつけた地面は大きな穴があき、その上空に朧気な光が集まってーー
「レイス再出現!」マークス様の声がした。
「炎魔法準備ーーーーー放て!」
3人が炎の魔法を放ち、たちまちレイスは火だるまとなった。
アァ…ギャァーー…
断末魔を上げながら崩れ落ち消え行くレイス。
ウィル様はそんなレイスの燃え残りが森に影響しないように氷の魔法で周囲を保護していた。
そして私は初撃の反動で草木に絡まっていただけだった…
「おいっ!白の、お前2つ名持ちなのになんの役にも立たねえじゃねーか!」
あぁ言われると思いましたよ…
「まーまーアズラク、彼女の魔力感知は凄かったと思うよ?僕たちが誰も気が付かなかったのに彼女だけ反応したじゃない?」
「感知したって何もできなきゃ約立たずじゃねーか!」
「…だから騒ぐなと…」
3人がギャアギャア言っている中、私の傍に駆けつけてくれたのはウィル様でした。
「大丈夫?かなり反動で飛んでったからビックリしたよ。怪我は…なさそうだね?」
「はい…」
「…初めて生きた魔物に会ったんだよね?」
「…えっ!?」
なっなんでわかったんです??
葉っぱを払いながら起き上がり、何とも言えない顔でウィル様を見る。
ばっバレてしまった……
「あ、やっぱり?そうだよね。砦に勤務してたって言っても出撃について行ってた訳じゃないもんね…初戦闘だもん、驚いても仕方ないよ。気にしたらダメだからね?」
あぁ……天使様!やはりウィル様は天使様です!なんてお優しい!!
「申し訳ありません……次から気をつけます!」
なんの因果か、私は砦のメイドさんから、この国の騎士になってしまった。
13番隊皆の期待を受けてのこの身分だ。
いつまでも怯えていたら彼等に失望されてしまう!
それは嫌だし、それに『同じ騎士』と言ってくれたウィル様と同じでいられるように肩を並べられるような自分でありたい!
私は気合いを入れ直し、皆の元へと戻ると自分の不甲斐なさをこれでもかと謝った。




