3
次の日、アリスとレオンは村の中へ入る。
何やらアリスには行きたい場所があるらしい。
しかし村に入ると強烈な違和感を感じた。
「なんかどいつもこいつも、こっちを見る目が異常だな、いや、俺ではなく、お前か、お前この村に何かしたのか、こんな恨まれ方尋常じゃないぞ」
村人ほぼ全員、憎しみが篭った瞳でアリスを見る、どう考えても子供に向ける瞳ではない。
そう言われたアリスは、あははと笑い答える。
「私髪白いでしょ? これ災いの象徴で、今村で作物が育たないのは私の呪いのせいなんだって、私要らない子なんだって、あはは」
「髪が白いのが災いの象徴、はっ、髪が白いやつなんてこの世に何百といる、それに呪いなんてものはこんな生易しいものではない、いいか、ガキ、呪いってのはな」
「いたぞ、呪いだ呪いだ、お前、来んなよ、呪いをばらまくなよ、お前のせいで全員迷惑してんだ、さっさと死んじゃえ!」
「お父さんとお母さんが言ってたぞ、お前のせいで村の食べ物がないんだって」
村の子供だろうか、子供の純粋さ故か、悪意の言葉をスラスラとなんの悪気もなくぶつけていく、暴力とともに。
「うっ、っ!」
殴られた衝撃で倒れこんだ所ですぐさま亀のようにうずくまる、そしてただひたすら蹴られる、体の中に瓶のレオンを守って。
おそらく初めてではないのだろう、動きが慣れている。
「……胸糞悪い、おい、ガキ、今すぐお前が願うならこいつら全員殺してやっても良いんだぞ、そうすればお前をいじめるやつはいなくなる」
それは今痛みを堪える少女にとって甘美な悪魔の囁きだっただろう。
しかし
「……大丈夫、慣れてるから、もう少ししたら飽きるだろうし」
痛みに呻きながら少女はレオンにだけ見えるように笑う。
「……勝手にしろ」
その間レオンはアリスの声を聞かないよう意識を違う方向に向ける。アリスの苦しい声を聞くよりは下世話な村の会話を聞く方がマシだった。
この霊体になってからは不思議と周りの音が拾えるようになってるのだ。
痛みで思わず出そうになる声を押し殺しアリスは耐え忍んだ、身体中は痣だらけ、どこか切ったのか唇から血が出る。
ただただ耐える。
飽きて村の子供たちが去った後、ゆっくりと立ち上がる。
そしておぼつかない足取りで向かったのは古びた木造の一軒家だった。
「ここはね、私のお家だった場所だよ、お父さんとお母さんと私で住んでたの、私はあまり覚えてないけど、お父さんとお母さんはこの家で魔物に食べられちゃったんだって、私は奇跡的に生き残ったけど、嫌なこと思い出しちゃうからって村長さんが今の家をくれて一人で住んでるの、けどこの家もね村長さんが誰も住まないから定期的に掃除したら好きにしていいって言ってくれてね、だからたまにここに帰ってきてるんだ」
恐らく程のいい追い出し、この家も曰く付きだから誰も住みたがらないだけだろう。
そして毎回あんな暴力を受けてまでもこの家に帰って来る理由。
「ねぇ、幽霊さん」
「なんだ」
「死んだらさお父さんとお母さんと会えるかな?」
「さぁな、死に損ないの俺には分からん、けどまぁ、お前はまだ若いんだ、そんな先のこと考えるな、今を生きろ」
「えへへ、そうだね」
「その顔やめろ!」
「えっ?」
笑顔の仮面を被り涙を隠すその姿にレオンは無性に腹がたつ。
「その顔はガキがしていい顔じゃねぇ、お前らガキは何も考えずただ遊んでバカやって怒られてればいいんだ、なんなんだよ、生贄って、んなもんでどうにかなるわけねぇだろ」
「え、なんで」
「俺は耳はねぇけど何故か耳がいいんだよ、周りの話してる声くらい聞こえるわ、はぁ、俺はお前もこの村も嫌いだ」
そう言ってレオンは瞼を閉じる。
——もう何も見たくない。
——もう何も聞きたくない。
が