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第三話

 十四時十分 五十八番ドック


 ハチベイは、ドックからターミナルを見た。

 大破した宇宙船が炎上していた。アーマードバトルスーツ十機がターミナルビルに爆弾を仕掛けている。

「なんて奴らだ」

 また、ターミナルビルの方から爆発音がする。

「ターミナルビルのどこかで爆発したみたいね」

 エムが言った。

「人事のように言いやがって、罪もない人が殺されているんだぞ」

 ハチベイが食ってかかる。

「それがどうした。可哀想だと憐みを感じれば、助けられるとでも言うのか」

 その時、放送が流れた。

『今の爆発は我々が仕掛けた爆弾のものだ。同じモノをターミナルビル中に仕掛けた。死にたくなければ降伏し、武器を捨てて待合ロビーに集まれ』

「な、なんて事だ」

 カクがうろたえる。

「どうしましょう。ここにも爆弾が仕掛けられていたら」

 スケタが怯えて言った。

「ゲートの電源が落とされて、閉じられていたんだから、こちらにあるわけないでしょ」

 エムが呆れたような表情で言う。

「では、しばらくここは安全なのですね」

 エムは肯く。

「それなら、ハチベイさんはアーマードバトルスーツで外の敵を倒してください。エムさんは内側の敵を倒してください」

 突然ミトが言った。

「あなたの指示に従う気はないわ。私の使命はエルを守ること」

 突然、エルがエムの口に人差し指で押える。

「私は大丈夫よ。本当はエムちゃんも人質にされている人達を助けに行きたいのでしょ」

「そうだけど、私が行った所で楯にでもされたら手だしのしようがないわ」

「それなら問題ありません」

 ミトが突然口を挟む。

「どうして?」

 エムが聞く。

「さっきの放送はどこからされたものでしょうか?」

「多分管制室じゃないかしら」

「敵のリーダーもおそらくそこにいるでしょう。そして、爆弾のリモコンスイッチも」

「それじゃあ、管制室に行って、敵からリモコンスイッチを奪えと言うの!」

「それしか、状況を打破する方法はありません」

「銃を持った連中はどうするのよ」

「それはクッマイアさんに任せると良いでしょう。連絡をとる方法はあるのでしょう?」

「携帯電話があるけど、向こうが出られるかわからないじゃない。戦闘中なんだし」

 そんな会話中にエルは電話を掛けていた。

『もしもし』

「クッマイア様。お願いがあります」

『なんです?』

「これからエムちゃんが、管制室へ敵のリーダーをやっつけに行きますから、ロビーの人質を守ってください」

『わかりました』

 そう言うとクッマイアは電話を切った。

「えー。一人でそんなことできるんですかー」

 電話の会話を聞いていたカクが言った。

「クッマイア様は、神にもっとも近いエルフだから」

 エルはそういうとニッコリする。

「なんで私が管制室に行くことまで約束するのよ」

「がんばって来てね」

 エルがニッコリすると、エムは諦めた表情をする。

「危なくなったらすぐ私を呼び戻すのよ」

 エムがそう言うとエルは肯く。するとエムは走り去る。

「本当にあいつ等だけで大丈夫なのか?」

 ハチベイは言った。

「今は信じるしかありません。ハチベイさんは早くアーマードバトルスーツで出てください」

 ハチベイは宇宙船のハッチに向かう。宇宙船の中に格納されているアーマードバトルスーツ、クティーガルに乗る為に。

「ハツィイヴェーイルシュライン様。おかえりなさいませ」

 身長二メートルでナイスバディのメルドネル人の女が出迎えた。彼女はハチベイの秘書のオウグインことオウグィンニィである。

「オウグィンニィ。クティーガルをだす」

「しかし、武装解除されたままですが」

「非常事態だ。外のドドリアンを殲滅する」

「了解しました。すぐ準備に取り掛かります」

 カクとスケタはオウグィンに着いて行く。

 ハチベイはクティーガルのコックピットの封印を解除すると乗り込む。スイッチが入るとユーザ認証し、起動する。

「ロックを解除してくれ。クティーガルでる」

 オウグィンは、クティーガルのロックを解除すると宇宙船のハッチを開ける。

 クティーガルは宇宙船を降りると、ドックのゲートを開けるスイッチをひねる。ゆっくりとゲートが開いていく。

「武器を全然持っていないのに大丈夫でしょうか。ドドリアンと言えど十機もいるのに」

 カクがオウグィンに聞く。

「聞くだけ愚問です。あなたのお友達はハツィイヴェーイルシュライン様の勝利を確信しているみたいですよ」

 スケタは目を輝かせている。

 スケタの本業は、アーマードバトルスーツの技師であり、目の前で銀河最強と言われているクティーガルの戦闘が生で見られるのは技師にとっては貴重な経験だからだ。


 十四時十三分 ターミナル内


 五十八番ドックから白銀色のアーマードバトルスーツ、クティーガルが登場した。太陽の光を受けて輝いている。

「な、なんだこれ。クティーガルがいるなんて聞いてないぞ」

 ドドリアン部隊の一人が言った。

「何ビビってやがる。奴は一人だけだ。しかも武装していない丸腰じゃねえか」

 金属と金属がぶつかり合う音が響いた後、ドドリアンの頭があっさり砕け散った。砕いたのはクティーガルの手刀である。

 ドックからそれを見ていたスケタが無線機に飛びつき「ハチベイ様。このままでは、そのドドリアンが爆発します」と叫ぶ。

 クティーガルは、ドドリアンの腕を掴みそのまま上空に投げ上げる。クティーガルのこの機動力、パワー、まさに桁違いの強さだ。

「バカモン。一対一でクティーガルに勝てるものか。五人であたれ」

「ハチベイ様、お気をつけください。ドドリアンは、燃費が悪いのでエネルギーを大量に積んでいます。爆発させたら宇宙港に大ダメージを与えます」

 スケタが言った。あたり一帯にいるアーマードバトルスーツに聞こえる無線のチャンネルで。

「バカ。これじゃあ、宇宙港に気を配って戦っているってバレちゃうじゃない」

 オウグィンは無線のスイッチを切って言った。

「ありがとうよ。

 向こうはこっちを爆発させないように関節を狙ってくるはずだ。抜かるなよ」

 ドドリアン部隊の一人が言った。

 これで俄然ドドリアン側が戦い易くなった。クティーガルはドドリアンの爆発し辛い細かい部位しか狙えない。ドドリアン側はそれを知っているので、その細かい部位だけを守れば良い。

 クティーガルの本来の能力を使えれば、ドドリアンを爆発させることなく倒せただろう。

つまり武装解除されていなければ、難しくない事である。または、爆発させても構わない状況なら、武装解除されていても難しくないだろう。しかし、現実はこの難局を生み出し、ハチベイを苦しめた。


 十四時十三分 三十一番ゲート付近


 エムは三十一番ゲートを抜けると、ターミナルビル内の案内図を見つける。そして管制塔までの最短ルートを確認する。そして再び走り出す。

 管制塔へ続く通路まで来ると、マッカル人が現れ機関銃を撃つ。

 エムは地面を転がり物陰に隠れたが、隠れるまでに兆弾が脇腹に当たる。普通の地球人なら戦闘不能になるダメージを受けてしまう。エムは脇腹に手を当てて血を確かめ、一つ大きく深呼吸した。

 マッカル人の銃撃が止まった隙に銃を構える。そしてマッカル人が銃弾を装填し、もう一度構えた時エムが撃つ。弾はマッカル人の額の中心を撃ち抜いた。


 十四時十四分 管制室


『リーダー、バンスがやられた。敵は、まっすぐ管制室に向かっている』

 警備室から管制室に連絡があった。

「さっきの人間、爆弾で死んでいなかったのか!」

『さっきのとは別人だ。手傷は負っているみたいだが、まだ凄い勢いで走っている』

「そこに近いメンバーは誰かいないか」

『管制室にいるメンバーが一番近い』

 ロンは少し考え込む。そして管制室にいるメンバーの内二名を、迎え撃つ作戦を授けて向かわせる。

 作戦とは、爆弾を仕掛けた通路に一人がおとりになり誘き寄せる。そして、もう一人がタイミングを計り爆破させる事だった。


 十四時十五分 管制室への通路


 エムが走っていると、マッカル人が現れて、機関銃を乱射する。エムは慌てて物陰に隠れてやり過ごす。するとエムが反撃する前にマッカル人が逃げ出す。

 エムは雑魚に関わっている暇はない。逃げる敵をわざわざ追いかける道理もない。しかしながら、エムが進むべき方向に敵は逃げて行ったのだ。好むと好まざるに関わらず追いかける形になった。

 エムは脇腹に手を当てる。服は血が乾いていなかったが、傷口はもう塞がっており、痛みもなかった。回復力が強力なのもエルフの特徴である。その回復力の強いエルフの中においてもエムは強い部類に入る。

 すでに完全に回復していた。

 エムは、警戒しながらもマッカル人を追いかける。

 一方、エムを待ち構えるマッカル人は、通路に置かれた鉢植えに爆弾を仕掛け直す。その爆弾専用の起爆リモコンスイッチを持って待ち構える。

 仲間のマッカル人が通り過ぎ、エムが通りかかった時に爆発させる手筈になっていた。

 そうとは知らず、エムは管制室への通路、つまり罠が待ち受けている場所へと進む。

 エムはすぐにおとり役のマッカル人を射程に捉えた。おとりのマッカル人が機関銃を撃って逃げようとした時、エムの銃がマッカル人の肩を撃ち抜いた。それでもマッカル人は逃げようとする。

「逃がすか!」

 エムは続けて銃を撃つと、マッカル人の後頭部に命中する。

 起爆リモコンスイッチ持つマッカル人は、物陰からそれを見て焦る。エムが爆弾を仕掛けた場所まで来ないかもしれないからだ。

 しかし、エムは管制室への最短ルートを選んで進む。

 マッカル人は息を飲み込み、エムが鉢植えに近付くのを待つ。

 エムは鉢植えに爆弾が仕掛けられている事に気付かず、徐々に近づいていく。そして、エムは鉢植えのすぐ横を通り過ぎようとした瞬間、マッカル人は起爆リモコンスイッチを入れた。

 爆炎はエムをまるまる飲み込んだ。爆発による裂傷、炎による火傷を負ってエムは倒れた。さすがのエルフでも、爆弾の直撃を喰らったのだ。ただじゃ済まない。

 起爆スイッチを押したマッカル人は、ロンに電話を入れる。

「地球人を殺したぜ」

『死体を確認しろ』

「へーい」

 そう言うと、マッカル人はエムの傍まで近づく。

「これで生きていたら化け物だぜ」


 十四時十五分 ターミナル内


 クティーガルは宇宙港にダメージを与えないように気を使って戦っている。その為、攻め手に欠けていた。それでも圧倒的な性能差の前に、数的に優位であってもドドリアン部隊は攻めきれない。五機がクティーガルと対峙しているが、全く歯が立たない。

「仕方ありませんね。真打の登場です」

 ミトの声が五十八番ドックから現れたアーマードバトルスーツから聞こえる。

「あら、いつの間に」

 それを見てエルが言った。

『ミトちゃん。そんな千年前の骨董品で最新鋭機に勝てるわけないでしょ』

 無線でハチベイの秘書、オウグィンがミトに言った。

「安心しなさい。父の作った鎧、ソードチャリオットの凄さを知らしめてあげます」

 ドドリアン達はミトが搭乗しているソードチャリオットに注目し、呆ける。

 しばしの沈黙の後、大爆笑する。

 ミトの乗るソードチャリオットはミトの父である神が作ったものである。しかし、一般的なソードチャリオットは、地球人が開発、量産した。その当時には、異種族用にもカスタマイズされたり、改造改良がされたりバラエティに富んだ名機として名を馳せた。しかし、五百年前に生産中止にされた型だ。

 骨董品価値から高価で売買されているが、実戦で用いる者はいない。実戦では使えない事と骨董価値の高さから。

「私を愚弄するとは良い度胸です。お仕置きします」

 そう言った途端、ミトの乗ったソードチャリオットはバランスを崩して倒れた。

 ドドリアン達は爆笑の渦に包まれた。

「お前ら可愛がってやれ」

 ドドリアン部隊のB班の班長ギャギが言った。するとドドリアン二機が、ソードチャリオットの所にやって来て蹴りを入れる。ソードチャリオットの装甲にヒビが入る。

「あー。ソードチャリオットがー。文化遺産がー」

 スケタがドックで悲壮な叫びを上げる。

「推定市場価格、五兆バーグを壊すな~」

 そんな声は、もちろんミトやドドリアン達に聞こえるはずもない。

 普通のアーマードバトルスーツの値段が五千万バーグ。この値段は小型宇宙船が買える金額だ。高価な最新鋭アーマードバトルスーツで五億バーグである。ちょうど、ハチベイのクティーガルがこの位だ。このソードチャリオットが、その一万倍の金額なのは、ひとえに文化遺産だからである。

 文化遺産とみなされる理由は、美しさや古さだけでなく、希少価値があるからだ。銀河帝国には銀河帝国の規格がある。アーマードバトルスーツはその規格の部品で作られている。しかし、ソードチャリオットは、地球人が銀河帝国に加えられる前に作られ始めた。その為、初期型は地球人独自の規格の部品で作られている。そしてその規格は、文献で確認できるだけで、全く使われていないからである。

 ミトのソートチャリオットの部品はすべての地球人規格である。部品をばら売りしても、丸ごと売ってもスケタの言った値段になるだろう。

 と言っても、ハチベイが、正確には歴史遺産・遺跡管理局が介在した時点で、このソードチャリオットが売買されることはない。

 帝国博物館に飾られることになる。ここで破壊されなければ……

「ミト様の魔力が尽きたみたいです」

 ドックの中でエルが呟いた。

 その時、ターミナルビルの待合ロビーから管制室へと続く通路で爆発が起こる。

 エムを倒す為に、犯人グループが設置した爆弾が爆発したところだ。

 打つ手なしの状態のまま、ミトのソードチャリオットはタコ殴り状態だ。

 ボンッ!

 ソードチャリオットから爆発音と共に激しく煙が立ち上る。

『ミトちゃん。大丈夫。生きてるなら答えて』

 無線でオウグィンが呼び掛けるが応答はなかった。


 十四時十五分 管制室


「なんだありゃ」

 ロンは五十八番ドックからターミナルに出て来たアーマードバトルスーツを見て言った。

「詳しい事はわからねえが、クラシックマシンじゃないのか」

 オペレータをやっているメンバーが言った。

「あれは、ソードチャリオットと言うアーマードバトルスーツだと思います」

 管制室の本物のオペレータのマッカル人が口を挟んだ。

「お前アレを知っているのか」

「クラシックマシンマニアなら誰でも知っている名機です。メルドネル人の歴史遺産・遺跡管理局の人が、地球人の遺跡から発掘した物らしい。間違いなく本物でしょう。凄い高価ですが、戦闘向きじゃないですね」

「高価っていくらだ」

 オペレータは考え込む。

「たしか三年前に純正地球人規格のアーマードバトルスーツがオークションに出ました。その時の落札価格が、五兆バーグです」

「あれがそんなに高価な物なのか!」

 さすがにとんでもない金額にロンが驚く。

 五兆バーグと言えば、資源惑星が買える金額だ。売れれば一生豪遊しても使い切れない程高価なのである。

 ターミナルを見て、ギョッとする。ドドリアン二機がソードチャリオットに蹴りを入れているのが見えたからだ。

 そこに電話が掛ってくる。

『地球人を殺したぜ』

 ロンは管制室に向かって来ている地球人を殺すように命令した事を思い出す。

「死体を確認しろ」

『へーい』

 ロンは返事を聞くとすぐに電話を切ってしまった。折角の高価な骨董品を、仲間が壊してしまいそうだったからだ。

「おい。ギャギに連絡して、あの骨董品を破壊しないで手に入れろと指示しろ」

 しかし、その指示は遅かった。爆発音と共にソードチャリオットから激しい煙が立ち上った。

「折角の五兆バーグがー」

「リーダー。俺たちは金の為に、やっているんじゃないでしょ。地球人にお仕置きする為でしょ」

 実は、ロンとギャギの二人だけの秘密だが、今回の企ては金の為であった。最後の逃走に使用する定期便には、三億バーグ相当の鉱石が積まれている。それを知っていてジャックすることにしたのだ。

 もしソードチャリオットを奪えれば、宇宙船のジャックに失敗してもおつりがくる。

「あんな骨董品より、クティーガルはどうするんです?」

 ドドリアン五機で取り囲んで攻撃を続けているのにすべて避けられていた。

「なんで未だに決着が付かない」

「仮にも銀河最強のアーマードバトルスーツだからでしょうか?」

 メンバーの一人が尋ねる。

「お前、アーマードバトルスーツに詳しそうだな。アレの弱点を教えろ」

 先ほどの本物オペレータにロンが聞いた。

「弱点はありません。パワー、燃費、防御力、スピード、乗り手のスキル。どれをとってもドドリアンで勝てる隙はない。たったの五機で互角なのはラッキーの積み重ねですね」

「ほう。マシンの性能差があるのは認めよう。だが乗り手のスキルまでとはどういう意味だ。あれでも実戦三年以上だぞ」

「そう言われましても、あのクティーガルの胸に☆マークが五つあるでしょ。あれは、優秀なクティーガル使いの中でも特に優秀な騎士にしか付ける事が許されていないんです。あの乗り手もきっと高名な騎士に違いありませんよ」

 メルドネル人の高名な騎士は、一騎当千と言われる最強の軍団である。

「それじゃあ、どうして五機で互角に戦えている」

「そりゃあ、武装解除で全く武器を装備していないし、宇宙港を守る為に手加減しているからですよ」

「それだー」

 ロンが急に大声で言った。

 その時突然管制室の扉が開いた。ロン達のメンバー三人は、振り向きざま扉へ向かって銃を構えた。

 三秒ほどシーンとする。

「誰もいねえ。どうして開いたんだ?」

 扉まで見に行くが誰もいなかった。

「故障かもしれんな」

「そんなことより、リーダー。クティーガルはどうするんで?」

「奴は、宇宙港に被害を出さないように戦っているんだろ。だったら、宇宙港自体が人質みたいなもんじゃねえか」

 ロンはターミナルに放送するマイクのスイッチを入れる。

「そこのクティーガル抵抗を止めろ。でなければ、ターミナルビルを破壊する。たんなる脅しじゃないぞ」

 ハチベイは仕方なく動きを止める。

「やったぜ。正義の味方は辛いねえ」

 ロンが厭味ったらしい口調で言った。

「リーダー。正義は我々でしょう」

「そうだったな」

 パソコンに向かっている仲間に合図をする。すると爆弾の一つが爆発した。


 十四時十六分 管制室への通路


 爆弾のスイッチを入れたマッカル人はエムの傍まで近づく。服はぼろぼろで、ピクリともしない。

「これで生きていたら化け物だぜ」

 エムの真ん前までくると、一応のとどめを刺す為に銃を構える。その時、突然エムがひっくり返り銃を撃った。

 マッカル人は腹に二発喰らって倒れる。エムはゆっくり立ち上がり、額に一発、止めを刺す。

「エルフには、この程度では死ねない者もいるのよ」

 服はボロボロ、裂傷で大量に出血し、火傷で皮膚があちこち爛れていた。普通の地球人なら即死だ。しかしながら、同じ地球人でありながら、エルフは不死身な体に出来ていた。見かけ上の特徴は、普通の地球人と全く変わらないのに。

 体中が熱く、そして痛く、麻痺して体の一部が動かなくなっていた。これだけのダメージを負うと動きに影響がでる。

 エムは両手で印を結ぶと、呪文を唱え始める。呪文の詠唱が終わると、エムのケガが急激に回復し始める。

 すぐに自分の体がちゃんと動くか確認し始める。ぐっと痛みが背筋にまだ走る。エムは麻痺が消えた事を確認する。治りかけの傷がまだ疼く。呼吸を無理矢理整える。

 そこでやっと服がボロボロでなのに気付く。パンツがショートパンツになっているが、一応大丈夫そうである。しかし上着は、もう用をなさなくなり、大きな乳房が露わになっていた。

 倒したマッカル人の上着を剥ぎ取ると着てみる。横はブカブカだが、丈は全然足りず、お腹は丸出しだった。

 仕方ないのでこれで我慢することにした。

 エムは再び呪文を唱える。すると姿が消えた。術者自身を透明にする魔法だ。

 敵の待ち伏せに対する対策である。再び走り管制室に向かって走り始めた。

 エムは誰の妨害も受けることなく管制室の前に到着した。

「それだー」

 中から大声が聞こえた。

 エムは管制室の扉を開く。中にいたロン達三人は、振り向きざま扉へ向かって銃を構えた。エムは慌てずジッとする。

 三秒ほどシーン静まり返った。

「誰もいねえ。どうして開いたんだ?」

 敵が扉まで見に来るがエムに気付かなかった。エムはしっかり中の様子を窺う。

「故障かもしれんな」

「そんなことより、リーダー。クティーガルはどうするんで?」

「奴は、宇宙港に被害を出さないように戦っているんだろ。だったら、宇宙港自体が人質みたいなもんじゃねえか」

 ロンはターミナルに放送するマイクにスイッチを入れる。

「そこのクティーガル抵抗を止めろ。でなければ、ターミナルビルを破壊する。たんなる脅しじゃないぞ」

 ハチベイは仕方なく動きを止める。

「やったぜ。正義の味方は辛いねえ」

 ロンが厭味ったらしい口調で言った。

「リーダー。正義は我々でしょう」

「そうだったな」

 パソコンに向かっている仲間に合図をする。すると爆弾の一つが爆発した。

「卑怯だぞ」

 ハチベイはクティーガルのスピーカーを通じて抗議した。それを無視してドドリアン達は無抵抗なクティーガルに攻撃を仕掛ける。しかしクティーガルには全くダメージがない。

「俺に任せろ」

 ギャギがタルラントより、奪ったライフルをクティーガルを撃つ。さすがに高火力のライフルで撃たれると、装甲に傷が付く。二発目をクティーガルは避ける。流れ弾がドドリアンの一機に命中し、腕を吹き飛ばした。

「良くもやってくれたな。報いをうけろ」

 ロンがマイクに向かって言った。そして、パソコンを使っている仲間に合図をする。その仲間がパソコンを使ってスイッチを入れようとした、その時銃声がした。

 弾はパソコンを操作している男とパソコンを貫通した。

「何者だ」

 そう言うとロンがエムに向かって機関銃を構える。エムは反射的に扉の位置から横の壁に隠れた。閉じ始める自動ドアに、ロンは機関銃を連射する。すると扉は無残に壊れた。

「隠れていないで出て来い。出て来ないとこうしてやる」

 するとロンは、懐からリモコンスイッチを取りだす。そしてなんの躊躇いもなく押す。

 ターミナルビル内のレストランのレジの横に忘れ物のように設置された爆弾が爆発した。その衝撃は待合ロビーにも響く。そこに集められていた人質達が悲鳴を上げた。

「狼藉三昧もいい加減にしなさい」

 ミトの声がターミナル内全域に響く。

 爆発したソードチャリオットから立ち上る煙の中から巨大な人型、アーマードバトルスーツの影が現れる。

 敵見方関係なく、声のする方を見る。

「な、なにあの影は!」

 五十八番ドックで見ていたハチベイの秘書オウグィンが言った。

 煙が薄れ、キラキラ輝く美しいアーマードバトルスーツが明らかになる。しかし、本来あるはずのソードチャリオットではなかった。

「あ、あれは、伝説のアーマードバトルスーツ、ゴットオブゴッズ……」

 スケタがポツリと言った。

 あまりの美しさに一同驚いている。

 ゴットオブゴッズが何処からか巨大な杖を取りだした。

「反省し、出頭するなら許そう。まだ狼藉を続けるならお仕置きだ」

 いつものミトの口調とは違うが、声はミトの物だ。声の主の正体を知らない者達には意味がなかった。

「ミトちゃんは魔力切れじゃなかったの!」

 オウグィンが突っ込む。

 エムは、「相手は神様ですから」とはぐらかす。ただの勘違いだったのだ。

「ギャーハッハッハッハッハ!!」

 ドドリアン達が笑う。

「状況をわかってないバカがいるようだな。わからないならもう一発だ」

 管制室のロンが、爆弾のリモコンスイッチを入れようとした。その時、壊れた扉の穴から通すように、リモコンスイッチを持つ腕をエムが撃った。その為、ロンはスイッチを落とす。

 管制室には、まだもう一人ロンの仲間がいる。その仲間が機関銃でエムに反撃する。

「そろそろお仕置きタイムだ」

 ゴットオブゴッズは杖を掲げる。

「カーツ!」

 そう言うと杖は消える。数秒間、間が空く。

「ハチベイさん。後は任せましたよ」

 そう言うと、ゴットオブゴッズは五十八番ドックへ歩き出す。

「ま、まて」

 ドドリアンがゴットオブゴッズを制止しようとした時、ドドリアン全機が膝を突いた。

「う、動かない。ドドリアンが動かない。何が起きたんだ」

 ドドリアンのパイロット達が口々に言う。

「あっちの勝負はついたようね」

 そう言うとエムは、隙を見てスイッチを銃で撃ち抜いた。

「チェックメイトよ。銃を捨てて投降しなさい」

 エムは投降を呼びかけた。それに対し、ロンはニヤリとすると、もう一人の仲間に目配せする。

「わかった、わかった。お前のがんばりには呆れるぜ」

 ロンは銃を捨て、両手を上げてエムに近づいてくる。もう一人も機関銃を捨てる。

「そっちも手を上げなさい」

 そっちにエムは銃を構える。

「今だー。キンやれ」

 ロンがエムの銃を持つ手に飛びかかる。その隙にもう一人の仲間キンがリモコンスイッチを取り出し押した。

 ロンもキンも勝ち誇った顔をした。

 しかし、何も起こらず数秒経つ。エムはロンの顔面に肘鉄を喰らわせた。その為、ロンは床を転がる。

「あ、そうそう。アーマードバトルスーツの動力を麻痺させるだけでなく、爆弾のリモコンも不能にしたから、ターミナルビル内の狼藉者もとっとと捕まえなさい」

 そう言うとゴットオブゴッズは、五十八番ドックの中へ消えて行った。

 ロンもキンも爆弾を爆発させられない事を悟った。そして銃を構え撃とうとした時、エムの銃が二度吹き、弾き飛ばした。

「勝負あったわね。それとも生き恥をさらしたくないのかしら」

 遠まわしな言い回しだが、エムは投降を呼びかけている。

 ロンとキンは銃を撃つ。エムは壁に隠れやり過ごす。

 その後、ロン達のターミナルビル内で活動していたメンバーは抵抗を続けたが、エムとクッマイア、宇宙港の警備員によって制圧した。


 十四時二十分 五十八番ドック


 ゴットオブゴッズが五十八番ドックに入る手前で足を止める。

「あ、そうそう。さっきの魔法は、アーマードバトルスーツを麻痺だけじゃない。爆弾のリモコンも不能にするから、ターミナルビル内の狼藉者もとっとと捕まえなさい」

 ミトはそう言ってから、中へ入って来た。

「す、凄い。これが伝説のゴットオブゴッズ、神が着る鎧。伝説に違わない」

 スケタが言った。

「さっきの魔法は本当にサイバーナープパラライズの術か!」

 サイバーナープパラライズの術とは、アーマードバトルスーツの動力系統を麻痺させる魔法である。

「ミト様に確認したら良いんじゃないか?」

 カクが言った。

「夢をみているのかしら」

 オウグィンが言った。

 するとさらに目を疑うような事が起きる。目の前のゴットオブゴッズが、光に包まれると、光の中からソードチャリオットが現れた。

「なによ。ゴットオブゴッズがまたソードチャリオットになった。どうなっているの」

 オウグィンが混乱して言った。

 皆の驚きに全く気にもせずにエルがソードチャリオットのコックピットへ行く。ハッチを開けると、ミトはコックピットで熟睡していた。

「あらあら」

 エルは見かけに寄らず力があった。ミトをあっさり抱き上げると、ソードチャリオットから降ろす。

「この子一体何者?」

 遅れてやって来たオウグィンが尋ねる

「ミト様は女神です」

 エルは当然と言わんばかりに言った。

「そんなこと知っているわよ」

「わかっていないから疑問に思うんです」

 エルの言葉に、オウグィンは愕然とするしかなかった。

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