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皆さまこんにちは。
悪役令嬢です。
断罪されたくなくて必死に攻略対象者との遭遇を回避してまいりましたが、この度学園に入学したことにより回避不可になりました。
どうしましょう。助けてください。
とりあえず目の前でキラキラした笑顔の彼をどうにかしてくれませんか。
「エレノア嬢。お願いがあるのだが…」
「お願い…ですか?」
至極面倒くさいです。
でも聞かなきゃダメですよね。相手、王族ですもんね。
「き、今日、学園が終わったあと、一緒にどこかに出かけないか?」
「………え」
出掛ける?王子と?
は、え?行きたくないの極みなんだけど。
えー、断っちゃダメ?
ちらっと隣にいるオリビエを見たらにこっと微笑まれた。助け舟は出ないらしい。
うーーん。関わりたくない。行きたくない。
「えっと、すみません。おこと…「ん?」
………
「すみま……」
………
笑顔の圧力が強い。
キラキラ笑顔で、有無を言わせない感じ。
えーー。行く?行くの?アリアナとじゃなくて、私と?
「ダメ、だろうか…」
有無を言わせないキラキラ笑顔から、チワワのような笑顔になるのはズルいと思う。
一回だけ。一回だけ行けば満足してくれるだろうか。
はぁ。
ごめんなさい。お母様。初っ端から約束破ります。
流石に王族のお願いを断れる心を持っていませんでした。………チキンですみません。
「……わかりました。いいですよ。どこに行きましょうか」
そう答えると、王子は蕩けるような笑顔で微笑んだのだ。至近距離で。
ピシッと私の笑顔、固まりましたよ。イケメンの笑顔に耐性ないのです。真っ赤にならなかった自分を褒めてやりたい。
周りにいたクラスメイトである令嬢方は真っ赤になってその場に倒れていた。
王子の笑顔、破壊力ぱねぇ。
そんな事を考えていたら始業を知らせるチャイムが鳴ったので、各自自分の席に戻っていった。「絶対ですからね、約束ですよ」と言ってから王子は席に戻っていった。
……乗り切った?(乗り切れてない)
「はーい。皆さん席に着いてますか?この学園の先輩達が、学園の説明をしに来てくれました。オリエンテーションってやつですね。どうぞ 入ってきてください」
オリエンテーション?そんなのあったっけ?
なんて思いながら先生を見ていたら、次に聞こえてきた声に一瞬呼吸が止まった。
「失礼します」
「しっつれーしまーす」
こ、この声は……
「三年。サルニア・エリオンです。よろしくお願いします」
「二年のサティ・ノーチェです。よろしくねー」
きたぁぁぁぁぁあっ!!
あぁ、推し様が目の前で動いてるぅ。喋ってるぅ。あー無理、尊い。次推しでこれって私、最推しにあったら死ぬんじゃね?
「簡単に説明しに来ました」
ぶっきらぼうに言うサルニア先輩かっこいい。
「きましたぁー」
同調だけして話さないサティくんやばい。
…でもあれ?喋り方が違うような?
もっと無表情で、抑揚のない声で喋ってた気がするんだけどな…。
まぁ、可愛いからいいか。全然ツンデレじゃないけどね。
私はずっと推しの二人を見つめていたので、話なんて頭に入っていなかった。
……後程オリビエに説明頂きました。
持つべきは優しい友達だね!
*
昨日出会ったばかりだったが、エレノア嬢の顔を見た瞬間、気持ちが抑えきれず思わずお出掛け(別名デートというらしい)に誘ってしまった。
断られたらどうしようかと思っていたら、花咲く笑顔で了承してくれた。
嬉しすぎて思わず表情筋が緩んでしまった。
何処に行こう。何処に行けばエレノア嬢の笑顔が見れる?そう考えていたときに俺は失態に気づいた。
…俺、エレノア嬢の好きな事、何にも知らない。いや、マリウェルの妹で公爵令嬢である事以外知らないのでは……。
いやいや大丈夫だ。まだまだ、時間はある。なんてったって学園は三年間もあるのだから。
あんなに面倒くさいなんて思っていたのに、たった一人の存在でこんなにも楽しみになるなんて思わなかった。
愛しい赤紫色の瞳が、入ってきた先輩達を目を輝かせて見つめていた事をアイザックは……オリビエ以外は気づかなかった。
*
あーあぁ。
あんなに綺麗な瞳をして見つめちゃって…。
さっきまで面倒くさそうに王子の相手をしていたのに。
ふふっ 可愛いなぁ。
エレノアは公爵令嬢なのに表情がコロコロ変わる不思議な女の子だった。
お母様の妹の娘だという事で、幼い頃からずっと一緒だった。
エレノアの大好きな兄様との婚約が決まった時もすごく喜んでくれた。「オリビエが私のお姉様になるの?それはとても…私にとって嬉しい展開だね!」と純粋な笑顔を浮かべて。
一度だけ参加した初めての社交界でエレノアは、いつもの可愛くかわる表情は鳴りを潜め、完璧な公爵令嬢になっていた。小さな頃の最初で最後の社交界。エレノアに沢山助けてもらった。
エレノアとそのまま一緒に成長し、一緒に学園に入った。
そうすると、エレノアを見つめる男が増えた。エレノアの見た目だから当たり前だと思うけど、エレノアは自分の容姿が優れている事に気づいていない。
そんなエレノアがこの国の第一王子のアイザック殿下に目を付けられた。
相手が王族だから、そう何度も間に入って話を遮ることは出来ないけど、エレノアが幸せにならないならとことん邪魔するつもり。もちろん愛しい婚約者と一緒に。
エレノアの輝く瞳を見ながらそう心に誓った。
エレノアとオリビエは仲の良い友達…姉妹みたいなものです。