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「エレン!オリビエもいらっしゃい」
「お父様、お帰りなさい」
「おじさま。お邪魔しております」
妙に元気なお父様も帰ってきました。
…お父様とお母様って何歳だっけ?
私が15歳で、兄様が5つ上の20歳。
少なくとも40近いよね…?あれ?
お前、お兄さん居たのかって?
いたんですよ。実は。なんで攻略対象じゃないのかなってくらいの兄様が。
兄様は私よりも溺愛する存在がいるので、私に対してそんなにうるさくないですよ。
溺愛する存在?あぁ、それは……
ガシャンッ
…ガシャン?
音がした方に振り返ったら部屋の入り口に、お父様譲りのチョコレート色の髪にお母様と同じ蜂蜜色の瞳で、甘いマスクの兄様がいました。
おいお前。今、騎士の誇りである剣、落としたよね。
「オリビエ!!!」
兄様は落とした剣をそのままにオリビエに抱きついた。
気づいた方もいるかと思いますが、兄様がオリビエの婚約者です。
「マリウェル様?…どうなさいました?」
オリビエは抱きつかれたまま兄様に問うた。
「……うちの王子がおかしい。オリビエに癒されたい」
「王子……あぁ、アイザック殿下ですね」
オリビエはちらっとこちらを見ながら言った。
……こっちを見るな。
兄様はアイザック殿下の専属騎士です。
割と位の高い騎士様です。剣落としたままだけど。
「あぁ、王子と言えば…」
お父様がこちらを見ながら思い出したようにつぶやく。
「アイザック殿下なんだけどさ、ずっと婚約者いなかったじゃん?でね、エレンを婚約者にって声が大きくなってきたんだけど…どうかな」
「え、嫌です。断固拒否です」
私はキッパリと断った。
なんで今更婚約者にならねばならないんですか。早くヒロインとくっついてくださいよ。
「父上。俺も、王子とエレンの婚約は反対です。あの人、今日帰ってきてからおかしいんですよ。『どうすれば俺のモノに出来る?』って。しかもこっち見ながら言ってくるんですよ!あの王子に執着されるのが、俺の可愛い妹なんて耐えられない」
兄様は頭を抱えてお父様に抗議した。
「ハハッ 執着……アイザック殿下はそんな人ではないでしょう?まぁ、僕はエレンが本当に好きな人じゃないと許さないけどね」
お父様。笑顔が怖いです。
「というわけで、エレン。パパは王族の方々がなんと言おうと、エレンの意思を尊重するからね。嫌だったら嫌だっていうんだよ?いいね」
だから、笑顔が怖いのです。
「はい!お父様」
王子と婚約なんて絶対に嫌である。束縛野郎と一緒に生活するなんて無理。
それに私の好みじゃない。
お父様とお母様、兄様とオリビエがイチャイチャしだしました。私、居場所がないです。
溺愛されていても、最愛の人には勝てません。特に今日は。
お父様とお母様→朝から。
兄様とオリビエ→久しぶりの再会。
ですからね。
……犬でも買おうかしら。
そういえば兄様、王子が「どうすれば俺のモノに出来る?」って呟いてたって言ってたな。
なんだ。悪役令嬢がいなくても、シナリオはちゃんと進むんじゃない。
……女神の称号は私にあるけど。
ヒロインは何かしらの称号を持っているのだろうか。女神の代わりとなる、もしくは女神の称号を……。
*
「アリアナ?どうしたの?」
ルイスは立ち止まったアリアナに声をかけた。
「え、あ、うぅん。何でもないよ」
アリアナは何でもないと答えたが、顔に何かあると書いてあった。
「そう?」
ルイスはそれに気づいていたが、アリアナが言ってくれるまで待とうと思い、追求はしなかった。
「………ねぇ、ルイスって称号…ある?」
「称号?」
アリアナは思いつめたような顔で『称号』と言った。
称号とは限られた人にしか現れない特別な物である。
当然ルイスには無い。
「うーん。僕には無いかなぁ」
「そっか、そうだよねぇ」
アリアナの称号に輝く文字が浮かび上がっていた。




