聖人としての師匠
「むかーしな、どれくらい昔かは知らないけどすんごい昔。魔力の扱いが下手くそな子供が産まれたんだって」
そう言葉を始めて、“聖人様”だという、師匠にしか見えない像の人物について男は話す。
魔力の扱いが下手な子供は、魔法が扱えないわけではなかった。
むしろ魔法を発現させれば周囲の子供よりも威力が強く、将来を見込める程。
しかしちょうどいい加減に抑えることができず、時には自分自身の体をも傷つける結果に。
火魔法を使わせれば腕が焼け、風魔法を使わせれば皮膚が切れる。
絶えない生傷。
それどころか成長し魔力が増えるにしたがって度合が酷くなる怪我。
このまま魔法を扱わせるのはその子の命に関わるのではないか。
幾度か周りの人物に怪我を負わせることもあった。
意図せずして他人の命を奪ってしまう可能性もある。
親や教師が子の扱いを話し合い始めた折、ある時老人が現れた。
片足を引きずって歩くにも拘わらず移動速度の速いその老人は、傷だらけの子供を見て言う。
魔法を制御できない子供か?
そうなら策がある、と。
魔力量があるにも関わらず、それを制御できずにいる子供。
このままでは宝の持ち腐れである。
話し合っていた親と教師はその老人の話に食いついた。
策があるなら教えてくれ。
何をすればいい。
老人は荷物から折りたたまれた紙を取り出し、親たちの前に広げた。
その紙に描かれているのは魔法陣。
悪魔の技術。
何を取り出しているんだ!
燃やせ!
捨てろ!
老人を追い出しかねない勢いで喚くが、老人は気にも留めずに言う。
これは魔力の制御を補助する陣だ。
この陣を描いた布や糸で腕輪を作って、その子に身に着けさせなさい。
周囲も自身も傷つけず、魔法を加減できるようになるはずだ。
この陣が役人にでも王城関係者にでも見つかってしまえば、処罰されるのは確実。
しかしこのまま子供を放っておけば近い未来に問題が起こるだろう。
誰かを死なすのか、自分が死ぬのかはわからないが。
迷った親は、魔法陣が描かれた紙を受け取った。
村民は多くない。
数人でも亡くなれば立ちいかなくなる作業もある。
なにより、我が子をきちんとした大人に育てたい。
周囲の村民は、陣を手に取る親を黙って見つめていた。
教師だって、周囲の大人だって、誰かを死なせたいわけではない。
親の意思を尊重し、老人の策を実行することに決めた。
隣村や役人などに話が漏れないよう、慎重に慎重を期した。
口外しない。
陣の紙を外に持ち出さない。
子供らにはしばらく外出を禁じた。
幼いうちは、情報を秘匿する行為が苦手な子供は多い。
魔力を制御できなかった子供が、突如として制御できるようになっても不自然だ。
情報が漏れないように事を進めている間、老人はその村に留まっていた。
老人は結果を見定めるため。
村民は万が一事がうまく進まない場合に助言をもらうため。もしくは、責任を問うために。
老人には宿を用意した。
魔方陣は村一番の魔法使いが描くことになった。
子供本人が魔力を流して効力を発動し、その布を割いて編み込んで腕輪を作成する。
陣は複雑で大量の魔力を消費する、強力なものだった。
陣を描くのに数日を要したが、布ができてしまえば完成するのはすぐだ。
子供に腕輪を身に着けさせ、効力はあるのか魔法を使わせてみる。
効果は絶大だった。
子供が自分の想定以上の威力になって慌てることもなく、新たな傷ができることもなく、同年代の子供たちと同程度の威力の魔法が正しく発現する。
子供も、親も、教師も、村民たちは喜んだ。
以前に1人、この子供以外に大量の魔力を制御できずに死んでしまった子がいた。
素直に成長を望んで、魔法の練習をしていただけにも拘わらず、その子は亡くなってしまった。
村民たちは同じ思いはしたくなかった。
親は老人に感謝を述べ、礼に何かできないかと言う。
金銭でも、知識でも、応えられるものなら何だって捧げるつもりだった。
老人は笑う。
何もいらない。
怪我無く魔法を扱えるようになった子供を見れただけで充分だ、と。
聞けば、かつて老人にも、制御しきれない魔力量によって命を落とした友人が居たという。
同じような子供を出さないために陣を作った。
役に立てただけで本懐だ。
そうして、老人はその村に与えるだけ与えて去って行った。
村民たちは老人の小像を制作し、聖人として祀ることにした。
小像は空洞にし、中には魔法陣の描かれた紙を隠す。
再び制御の陣を使う必要性が出たときのため。
村民以外に陣の存在がばれないよう、秘匿しつつ子へ孫へ伝えていくため。
それがこの像であり、代々引き継いで大事にしてきたものだという。
ああ、師匠の話だ。
間違いない。




