久しぶりの王都
バウムと話していて、かつて老婆が“神か、神の使い”だったのではと言っていた理由が理解できた。
穏やかでゆったりとした喋り方。
否定をしない大きな度量。
加えて人から外れた容貌。
組み合わさって、神聖な存在に思えてくるのだ。
バウムはこの人間があまり足を踏み入れないこの森を、しばらく動く気は無いらしい。
調査は関係なく、数日毎にバウムの元を訪れた。
バウムや森の様子を聞くこともあれば、情報の整理がてら調査したことを話すこともある。
目的もなく他愛もない話をしにバウムのところへ行くこともあった。
ふと思い出して王都へ足を踏み入れてみると、ブルデの息子に捕まった。
数年前にレフラが亡くなり、ブルデも病床に伏しているのだという。
「しばらく姿を見ないから死んだのかと思ったぜ。父さんに会っていってくれ」と強引に引っ張られて特区の屋敷へ連れられる。
伏せるブルデの周りにはちょろちょろ動き回る同じ顔をした幼児が3人。
ブルデの息子もいつの間にか所帯を持つ年齢のようだ。
「ゲルハルト、来てくれたんだな」
孫たちを眺めて微笑んでいたブルデが私に気づいて手を挙げる。
皺が増え、痩せて幾分か細くなっていたが、ブルデはまだ元気そうに見えた。
「ああ。レフラ、亡くなってたんだな」
「3年前にな。孫の顔を見てから死ねたから、まあ満足だろう」
「そうか。いつの間にかブルデも爺さんか」
「そうだよ。可愛い孫に囲まれて幸せだね。…ゲルハルトは幾つになっても変わらず元気だな。面は外すことはもうないのか?」
少し残念そうに疑問を投げかけるブルデ。
他人に見せられたものじゃない酷い傷跡が顔に残ったと言っているから、同情だろうか。
「ああ。これを付けずには外に出られない」
「そうか。残念だな」
2人で話していたところにブルデの息子が割り込んでくる。
「俺も残念だぜ。ゲルハルトの素顔を見た覚えがない。どんな醜い傷だろうと驚かないぜ?」
頭の後ろで腕を組んで、ふてぶてしく言い放つ。
孫たちも面が気になるようで、顔を覗き込むように動き回る。
傷跡には驚かなくとも、老いない顔には驚くであろう。
多少なりとも関わりを持ってきた相手に、化け物扱いはされたくない。
「すまないがこの面が今の私の顔だ」
そう答えると、ガキ3人が盛大に不満の叫びをあげた。
各地を転移し、たまにバウムに会い、地道に調査をする日々。
ブルデも亡くなり、しばらく王都には近づけない。
私はブルデよりも20ほど年上だと思われている。
うっかりしていると、ブルデの息子が爺さんになっても元気な状態で顔を出してしまうだろう。
1000年以上も生を刻むと、時間の間隔は曖昧だ。
今の王が存命のうちは王都周辺を避けた方がいいだろうな。




