校長のここだけの話
学校長が現役なのか引退済みなのか知らないが、自分の学校を貶すようなことを言う。
食事をしていた手をいったん止めて、私も話に聞き入る。
「どうしてですか?」
「ここだけの話だよ」
学校長は声を潜めて言葉を続ける。
「今の魔法学校には規制がかかっている。魔法技術をあまり伸ばさないように、実技時間が少なくなっているんだ。だからレフラくんたちの頃は座学ばかりだったろう」
レフラとグレイツェが目を見開いて顔を見合わせる。
「確かに、7割がた座学でしたけど…。でも、技術向上のために必要な知識だから教わっていたんだとばかり思っていました」
「私はずっと実技が少ないって不満でしたよ。魔法学校のくせに魔法を使わないなんてって。規制ってどこからですか?逆らえないようなところだったんですか?」
グレイツェからの質問に、学校長は数秒言いよどんだ。
簡単に口にするのは憚られるほどの、格上の相手。
「王からのお達しだよ」
学校長の言葉に、レフラは口を手で抑えグレイツェは「はっ?」と言葉を漏らす。
私も眉をひそめていた。
訓練施設を新設し、兵士の魔法技術を上げようとしている王。
しかし、魔法学校には規制をかけて技術向上を阻む。
酷く不可解だ。
「そんなわけで、現状の魔法学校はあまりお勧めできない。2人とも、くれぐれも他には話さないようにね。ゲルハルトさんも他言無用でお願いするよ。すまないねえ」
面倒な席に引き入れられた昼だったが、思わぬ情報を耳に入れた。
これが何かに繋がるのか、何にも繋がらないのかはまだわからないが、一応シュワーゼと共有しておこう。
食事を終え、女2人はこれから買い物に行くらしい。
「校長先生、今日はありがとうございました。ゲルハルトさんもまたお食事しましょうね」
「懐かしい話もできたし、レフラがさんざん褒める魔法使いにも会えて楽しかったです。また会えたら」
朗らかに笑うレフラと、快活に話すグレイツェ。
商店が並ぶ一角へと歩いていった。
学校長とは歩く方向が途中まで同じだったため、そのまま話す流れに。
「ゲルハルトさん今日はありがとうね。途中で変な話をしてしまってすまなかったねえ」
女二人を見送り、私より少し背の低い校長が私を見る。
「いや。…一つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「校長は、どうして規制がかかったのだと思う?」
「さあてね。お偉いさんの考えることはわからんよ。ただ、何かに怯えてるんじゃないかという気がするね。疑心暗鬼になって、逆らえないように力を奪いたい、でも身の回りは固めたい、そんな印象を受けるよ」
魔王が倒されても王の御心は休まらないようだねえ、と学校長は王を慮る。
何かに怯えている。
それは、魔王ではないのだろうか。
魔王を倒しても安堵できない心。
怯えているのは、何に。
校長とも別れた後、調査を再開したがとくに収穫はなし。
シュワーゼの部屋に入って紅茶を飲みながら部屋主の帰宅を待つ。
菓子を追加分まで平らげ、ティーポットを空にし、それでも扉が開く気配がない。
遅いな。
ここまで帰宅が遅かったことはこれまであっただろうか。
トイレに行こうと廊下に出ると、何やら騒がしくしているのが耳に入る。
音の方へ目を向ければ屋敷の家人から使用人の姿までもが見える。
胸騒ぎを覚える騒がしさだ。
広い屋敷の中、普段は個々の領域で活動しているため、ここまで多くの者の姿を見ることはほぼなかった。
それが、仕事もせず、懐疑的な顔で立ち尽くしたり右往左往していたり。
明らかにおかしい。
誰かから話が聞けるだろうかと足を向けると、ブルデと目があった。
私の顔を見るなり駆け寄ってくる。
「ゲルハルト!大変だゲルハルト!」
その顔は蒼白で、瞳は泣きそうに潤んでいる。
「何があった」
ブルデのこういう顔は見たことがない。
興奮のせいか、走りでもしたのか、息を荒げて言葉を吐く。
「シュワーゼが、処罰された」




