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新たな訓練施設

シュワーゼのところに向かおうと特区の門まで来て、少し離れたところで役人や兵士が集まっていることに気づく。


あっちは兵士の駐在所がある方向だ。

問題が起こったという雰囲気ではない。

何やら打合せをしている様子。




都合がいいことにフォルグネの姿を見つけたので話しかけてみる。




「フォルグネ」

「ようゲルハルト」




何も建っていない地を見つめて考えに耽っていたフォルグネが陽気に返事をする。




「何をしてるんだ」


「兵士の訓練施設を増設することになってな。どこがいいか話し合ってたんだよ」


「すでにあるだろう。人数が増えたのか?」


「いや、魔法も使える兵士を鍛えようってなったんだよ。今までは純粋な戦闘訓練しかしてなかったからな」








兵士が配備されるのは王城周りだけである。

特区や王都は含まれるが、そこから離れた地域には派遣されない。


王城周りには必ず技術力の高い結界張が就いているし、魔力量の多い官吏が王城には多く勤めている。

魔力量が多いからといって技術があるとは限らないわけだが、往々にして比例しているものである。


つまり、魔法で対抗する勢力は揃っていると言える。

兵士には物理的な強さを求めるだけでよかった。



それを今、この平和なときに、兵士用の新たな訓練施設を作るとは。

よほど今代の王は臆病で、力が欲しいらしい。



魔王が倒されて十数年。

まだ数十年は平和なはずである。

次代の魔王に備えるにしても早すぎるのではないか。


病的と言われる王の臆病さを実感する。







しばらくフォルグネと話してから屋敷に入ると、どこかに出かけるらしきブルデと遭遇した。




「ゲルハルト。シュワーゼならまだ帰ってないぞ」

「そうなのか。なら部屋で待たせてもらう」




そのままシュワーゼの部屋に足を向けようとして、レフラの言葉がよぎる。

いつもならブルデから話しかけられなければ会話を続けないが、少し話をしてみるか。






「…ブルデはどこかに出かけるのか」

「あ、ああ。新居に置く家具を買いに行くんだ」




平静を装いつつも気分の高揚が声ににじみ出るブルデ。

レフラの言う通り、どうやら喜んでいるようだ。


あれだけ衝突してきた反発心はどこへ行ったんだろうな。

レフラとブルデの変わりようには疑問を投げかけたくなる。






「そういえば子供ができたそうだな。おめでとう」

「ありがとう!ゲルハルト。今から楽しみで仕方がないんだ。元気で健康な子が産まれるといいな」




この話題には素直に嬉しさを表情に表す。


男女どちらでもいいだの、レフラに似ると嬉しいだの、嬉々としてブルデが語る。

レフラの腹の様子から察するに、まだ妊娠が発覚してまもないだろうに、気が早い話だ。








「新たな家は特区内なのか?」


「父が所有する土地がまだまだあるからな。この屋敷のすぐ近くだよ。訓練小屋は共通で使わせてもらう。新たに建てるのは難しいしな」


「難しいのか?王の命で兵士用の魔法訓練ができる施設を新たに作ってるみたいだが」


「結界内で魔法を使えるようにするには仕掛けが必要だろ?でもその仕掛けも数百年使われてなかったんだ。一応資料は残ってるけど、設置に必要な条件や手順、人員、いろんな細かいことがわからなくて今右往左往してるところだよ」


「大変そうだな。特区門の辺りで兵士や役人が多く話し合っていたし、多くの者が関わっているのだろう?ブルデもそうなのか」


「私は必要な人員をどう割くか考えるくらいだな。それよりもシュワーゼが勇んで関わってきてたな。あいつ関係する立場じゃなかったと思うんだけど。また好き勝手動きやがって」




ブルデが不満を表すように顔をしかめる。



訓練小屋の仕掛けについて知れる絶好の機会だ。

これ幸いとばかりに仕事に関われるように手を尽くしたのだろう。

目に浮かぶようだ。










「…あいつ、あんま好き放題やってると危ないんじゃないかな」





仲が悪くとも血の繋がった兄弟。

シュワーゼの態度が気に入らなくても、心配にはなるのか。


ぼそりと、半ば独り言のようにブルデは言った。







「何か危険な状況なのか」



「訓練小屋の仕掛けって魔法陣と似たようなものだって噂だ。ひと昔前は忌避されてた術だろ。研究してたなら処罰ものだ。それを、王のご用命とはいえ使うなんてって消極的な人は多いんだよ。


言うのは憚れるけど、王もちょっと不安定のようだしな。いろんなことに関わってると、何か企んでると疑われるかもしれない。実際、有能だった王の側近が、広すぎた顔のせいで謀反を企んでるんじゃって処罰されてるからな」





外で話し合っていた者たちはごく普通に働いていたように感じたが、深くかかわると自分の首がとぶ危険性をはらんでいたらしい。

王城の中はひそやかに緊張感が高まっていそうだ。







「まあ、小さいころから好き勝手やってたあいつのことだ。うまいことやるんだろ」




半ば吐き捨てるような言葉を吐き、


「レフラを待たせてるからそろそろ行くな。ゲルハルトはゆっくりしてってくれ」


そう言ってブルデは出かけて行った。

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