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賑わう王都

数日してから王都へ行ってみると、随分と人でにぎわっていた。




料理を配る者。酒を振舞う者。

これで平和が訪れると喜び、やっと仕事ができると笑い。

ここぞとばかりに踊ったり演奏をしたりする芸人たち。




真っ直ぐ歩くことは困難な人込みの間をぬって歩き、料理を手に入れる。


時が経ちすぎていて見知らぬ料理が増えたが、口にしてみると覚えのある香辛料の匂いと刺激。

転移魔法の練習に、師匠と王都に立ち寄ったことが思いおこされる。






あのときは、城壁近くの木々に隠れるように転移をして、城下町に入り込んだ。



転移魔法の練習中、口うるさく師匠は言っていた。





とにかく気をつけろ、と。



転移魔法が使えることは誰にも知られるな。

特に役人には見られるな。







転移魔法を使えるものは世界中探してもそうそう居ない。


らしい。



莫大な魔力量はもちろん、技術力や体力がないと使えない高等魔法。

今のところ、師匠以外の使える人物に会ったことがない。


技術を隠しているだけなのか、使える者がそれだけ少ないのかは定かではないが。





師匠は魔法学校に通っていた学歴はあれど、ほぼ独学で学んだような変わり者である。

学校ではほとんど図書室に篭っていたと聞いた。



それ故か、魔法学校で教える範囲に含まれていないのか。







師匠が転移魔法を習得した40の頃。

人目を気にせず転移していたら、転移するところを役人に見られ、それはそれは不快な思いをしたらしい。



転移魔法が使えるということは、それだけ高い魔法技術を持つということだ。

転移ができるほどの魔力量・技術力を持つものは、大抵が結界魔法も使える。


たとえ使えなくても、容易に習得できる素地を持つ。





転移を見られた師匠は役人につかまり、強制的に結界を張る職務に就かされたらしい。

これがとにかく暇で仕方なく、師匠は「退屈でアホになるかと思った」と苦々しい顔で言っていた。





結界魔法自体は中級魔法である。

全魔法使いの2~3割が使えるだろうか。


しかしその効果についてはまちまちだ。


自分の周囲が精一杯のもの。

魔法は防げるが物理攻撃は防げないもの。

音を遮断できるが姿は隠せないものなど。





結界魔法を張らせる目的は、外部からの魔物侵入を防ぐことと、結界内での魔法使用を制限することだ。

魔物の進入も、魔法使用の制限も、より強い魔力を有するものには効果がない。



そのため、結界魔法を使える者の中から、さらに魔力の強いものが任に就かされる。

転移魔法の使える師匠などうってつけということだ。



負担が大きく任に就ける対象者が少ないため、結界張りは高給だ。

喜んでその職務につく者も居る中で、師匠はなんと逃げ出してきたのだとか。






「わしゃ耐えられんかった。役割の間、町は出れん。結界魔法以外に魔力を割く余地もねえ。当然魔法研究はできん。生き地獄かと思った。…だから逃げ出してやったわ」




苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せていた師匠は、いたずらっ子のしてやったり顔で最後の言葉を吐いた。


なぜそこまで転移は隠れて行わなければならないのか。

そう尋ねたときに、師匠はこの話をしてくれた。




「それでも始めのうちは真面目に働いてたんだな」

「当時の統括者がそらおっそろしいやつでな。逃げる隙なんぞなかったわ。女王と深く結びついとってな。そんりゃもう恐怖政治だ」



廻りに誰もいないのに、こそりと耳打ちをしてきた。





「へえ。じいちゃんなら魔法で対抗できたんじゃないのか?」

「アホ言うんじゃねえ。結界張りの総括者だぞ?そんじょそこらの魔法使いじゃねえ。わしゃなんぞ歯がたたねえわ」




俺の中では世界一の魔法使いだったじいちゃん。

それ以上の魔法使いが存在するだなんて考えたことなかった。




「じいちゃん以上の人がいるのか?」

「そりゃいるともさ。わしゃなんて平々凡々だ」









そんな世界で一番と言えるかもしれない魔法使いも、愛憎問題で女王に殺されてしまった。


師匠が亡くなり、風当たりが強くなってきて、そんなときに女王が逮捕されたと聞き鼻で笑った記憶がある。





人間とはかくに、醜い。









そんなことを思い出しながら、両手いっぱいに食べ物を持って城下町の外へ出ようと歩く。


もったいないが一部犠牲にしてどれくらいで料理が腐るのか試してみよう。

これで予想通りの結果が出れば次の魔物篭りがとても楽になる。









「えっ!」









唐突に舌っ足らずな甲高い声が響いた。

同時に服の裾を引っ張られ、危うく料理を落としそうになる。



ありったけの怒りを込めて原因を睨むと、視界に入ってきたのは私の腰丈にも満たない小さな少年。


いや、幼児か。



黒々とした肌にピンと糊のはった服。

まだ善悪の区別もつかない年端のガキだ。

しかもいいとこのガキだ。





舌打ちをして振り払ったら、なぜだかガキの顔が輝く。


なんだこのガキ。

怒りがうさんくささへと変わり表情が歪む。




「お兄さんお兄さん、ぼくとお話しようよ。あっちで話そう?それこれから食べるの?あっちで良い物振舞ってる人いたよ。甘くて冷たいプディング。一緒に食べようよ」




無視して去ろうとするも、次の一言に足が止まった。








「甘いもの好きでしょ?ゲルハルト」




眉間にぐっと皺を寄せてガキを睨む。

黒い肌との対比でやけに白く見える歯を少し覗かせて、にいと笑うガキ。




「あまり聞かれたくないでしょ?人の居ないところへ行こうよ。結界張ってくれてもいいよ。簡単でしょ?」






このガキはどこまで知っているのか。


見た目から推測するに、まだ親の周りをうろちょろしているはずの年齢。

幼子特有の舌っ足らずなしゃべり方。

丸みを帯びた頬に青みすら透ける白い目。




見た目はただの幼いガキでしかないくせに。




その表情と話す内容は年齢にそぐわない。

こいつを振り払って逃げてしまうのと、素直に話を聞いてみるのと、どっちが面倒は少ないだろうか。




数秒逡巡していると、目の前のガキは再び口を開く。






「話をしよう?呪われの身について」






呪われの身。


呪い。




それは、私が呪われていると知っていての発言なのか。




もう逃げるの選択肢は選べなかった。


くそ。

舌打ちをついて腹をくくった。

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