魔物の心臓
それからの10日間は書物を読むのはほどほどに、魔具を調べることに時間を費やした。
魔物の心臓に魔方陣、他に必要な材料はなんだろうか。
全体的に金属質だからやはり金属は必須か。
しかし魔力を使って生成するのだから、金属を使わずともこの質感になる可能性がある。
書物を読み込むために10日の時間を設けたというのに、すっかり魔具へ夢中になっていた。
人間はどうしようもなく醜い生き物だが、こういった技術の進歩は侮れないな。
魔具を観察しながらそう思う。
どれくらいぶりの旅だろうか。
師匠がなくなってしばらくは転々と各地を放浪していたが、それ以来か。
この根城を構え結界を設けてからは、森から出ずにずっと生活をしていた。
再び外へ出ようという気になるとは思わなかったな。
あのひょろっこい青年と一緒だというのは気に食わないが。
それにしてもあの野郎、魔王の影響で魔物が跋扈しているというのに、躊躇いもなく旅しようと言い出したな。
一人で頻繁に図書館に来るくらいだから、多少は戦えるのだろうが。
自分で10日と言っておきながら、待ち遠しくなって数日早く図書館へと出向いていた。
転移した瞬間に視界に飛び込んでくる何人もの姿。
ざわざわとした喧騒に叩き交わされる硬質な音。
大人を優に踏み潰せる巨大な前足を持った魔物と人間が戦っているところだった。
図書館の結界内で治療を受けている者がいる。
恐らくそいつを追い掛けて魔物はここまでやってきたのだろう。
距離をとって魔法を放つ者たちの間で中心となって戦っているのはあの青年だった。
いい機会なので戦いぶりを観察する。
長いリーチを生かして絶妙な距離間で魔物を切り裂いていく。
しかし完全な物理攻撃のみ。
魔物の強靭な皮膚に浅い傷しか残せない。
魔法は扱えないようだ。
いつだったか魔力操作が苦手だと抜かしていたか。
それにしてもいい目を持っている。
鋭く早い爪を避け、隙をぬって的確に魔物を切りつけている。
自分の攻撃が一向に当たらず、魔物がいらいらしだした様子が見てとれる。
魔物の太い毛が逆立ち始め、針のように鋭くなっていく先端。
このままじゃあいつ死ぬかもな。
廻りで青年を援護しようと、基本的な四大元素魔法を打ち出したり、極簡単な身体強化魔法をかける者たち。
それらに紛れてこっそりと、青年の腕力を強化する。
加えて、青年の持つ長剣へ雷属性を付与。
パチパチと仄かな音を立てて、剣が小さく雷を帯びる。
恐らくあの魔物は対雷に弱い。
いつの間にかピンと真っ直ぐに尖りきった魔物の毛が、一瞬引込む。
魔物が毛を飛ばそうとしたその瞬間、青年が剣を突き刺した。
硬く尖った毛の間へと、深く入り込む。
痛みに暴れ襲い来る爪を避けるとともに青年は剣を引き抜き、もう一太刀。
あふれ出る血とともにしなびるように垂れる毛。
魔物はぐしゃりと地面へと倒れ伏した。
一瞬静まり返った後、そこかしこから安心したように息をつくのが聞こえた。
ふん。あの程度に手間取るとはな。
戦っていた者たちが死骸の廻りに集まり始める。
その流れに逆らい図書館に向かって歩き出すと、
「ゲルハルト!」
と大きな声で呼び止められた。
集まる視線に自然と舌打ちをしてしまう。
「どうして舌打ちするのさ。失礼だよ?舌打ちはよくないよ?」
こちらに駆け寄りながらそう言う。地獄耳か。
「これから素材を分けるんだ。ゲルハルトも来てよ」
「私は関係ないだろう」
「どうして?関係あるよ。最後手助けしてくれたでしょう。身体強化と属性付与。あれのお陰で倒せたのに」
こいつ。
魔力操作は苦手なくせに魔力感知の技術は高いのか。
再び出る舌打ち。それを咎める青年。
くそ。面倒だな。
「とにかく私は無関け…」
「魔物の心臓手に入れるチャンスだよ?あれは中々いい素材だよ。たぶん魔具にも合ってる」
集まっている魔法使いどもが青年の様子を伺っている。
同時に私にも視線が注がれる。
「ならお前が心臓を取ってこい。お前はともかく、廻りの連中は私に気付いていない。のこのこ出て行っても揉めるだけだ」
ちらと連中の方へ向いて、それもそうかと呟いた。
「じゃあボク行ってくる。ゲルハルトの分ももらってくるね」




