旅の誘い
その場で魔具を受け取り、青年が聞き出したかった情報を話す。
「お兄さんの腕に魔法陣を掘った人がいるでしょう?その人に会わせてほしいんだ」
「もう亡くなっている」
遠の昔に別れを訃げた。
私の心の拠り所。
「そうなんだ。残念。じゃあその人の知り合いは?兄弟弟子とかは?」
「知らないな」
そんな話を聞いたことはないし、そもそも健在はあり得ない。
「そっか。残念だな」
この取引は果たして釣り合っているのだろうか。
魔具を受け取った私。
大した情報を受け取っていない青年。
少し考えるように黙っていたが、
「ねえお兄さん。一緒に人探しをしない?」
と訳のわからないことを言い始めた。
白けた目で見る私に構わず軽やかに話を続ける。
「お兄さんのお師匠さんの知り合いを探したいんだ。探せば見つかるかもしれないよね?それか他の魔法に詳しい人でもいい。類は友を呼ぶっていうし」
「なぜ私が付き合うことになるんだ」
「魔法の研究してるんでしょ?ここの図書館じゃすぐに行き詰まるよ。どっちにしろ探す必要がある。ボクと一緒なら助言ができるよ。体系的なことは理解してるから」
任せて、と青年は軽く胸を叩く。
じとりと睨みつつ、小さな心の揺らぎを感じる。
閉じ籠っていた期間の長さ故か、今現在の魔法知識が足りていない。
私一人で修練をつむのは、確実に遠回りすることになるだろう。
体系的な知識があるのとないのとでは研究成果はきっと大違いだ。
「お兄さんの悪いようにはしないよ。なんなら簡易魔法で誓いを立ててもいい。一緒に行こうよ」
ふう、と息をつく。
「誓いは必要ない」
不愉快ながらも交わした何度かのやり取り。
ある程度信頼できる言動だったと判断する。
「わかった。行こう」
益になることは間違いない。
共に行動することが耐えきれなくなれば逃げてしまえばいい。
「本当?本当だね!ボク聞いたからね!」
目をパッと見開き喜んでいる。
「そうだ!ボク、ユーゲンっていうんだ。お兄さんの名前は?」
「…ゲルハルトだ」
「よろしくゲルハルト!出発はいつにしようか?20日後くらい?もっと早くても平気?ボクはいつでも行けるよ。準備万端だよ!」
「…そうだな。10日ほど時間をもらおうか」
「わかった!じゃあまた図書館で会おう」
そう告げるや嬉しそうにどこかに走っていった。
相変わらずずうずうしい野郎だ。
なぜだか脳裏に緑の瞳が浮かんだ。




