ヘフテとマーツェの言い争い
「…これは、行く必要があるね。2人の村。…いや、ダモンの村かな。調べないと」
一通り聞き出したマーツェが、真剣に呟く。
村の大人どもに話を聞き、詳細や裏付けを得たい。
後々教育しようとしていたのか、幼さ故に覚えられなかったのか。
絶妙に知りたい情報が得られない状況だ。
「あ、どうしよう。被害が出ちゃうよ。調べてる間に死者が出たりしたら」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。私たちが加勢したって、被害を抑えられる範囲は限られている。それよりも自分たちのことだ」
この期に及んで他人の心配をするとは。
自分たちが長く追い求めたものが手に入りそうなのだ。
優先すべきは自分たちのことだ。
魔物被害を抑えてから。
今の魔王が討伐されてから。
なんて考えていたらヘフテもダモンも命尽きているだろう。
そうなれば情報を聞き出す村への足掛かりは無くなってしまう。
そもそも呪いを解けるのが魔王だけなのだというのなら、討伐されては困る。
魔物を倒し、負傷者を治癒し、魔物被害を抑えることを優先して行動していたここ1年。
途中でそれを放棄することがマーツェは引っかかるのだろう。
初めから割り切っていたのならともかく、手を出してしまった。
人々から感謝され、広く認識されるようにもなっていた。
私からしたら不本意だが。
しかし今を逃したらもう機会はないかもしれない。
掴むべき好機だ。
「そう、だよね。うん。そうだ。ダモン。案内してくれるかな。ダモンの村に行ってもいいかな」
「もどるの?」
「ダメ!それはダメ!」
ダモンは疑問を呈し、ヘフテが強く反対する。
「なんで?うそつきだ!マーツェうそつき!探すんじゃないの?」
「嘘じゃないよ。ちゃんと探すさ。でも調べたいことがある。急ぎで知りたいんだよ。大事なことなんだ」
ヘフテとマーツェの言い争いが始まる。
ダモンと居るために村を出たヘフテからしたら、戻るなんてまっぴらだろう。
ダモンと引き離されるのは確実であり、二度と会えないかもしれない。
敵の村に属するヘフテには命の危険もあり得る。
しかし私もそうだが、マーツェからしてもこの機会は逃せない。
ヘフテの望む“仲良くできる場所”を見つけ出すのはほぼ不可能だ。
自分らで村を開拓する方が早いかもしれない。
さきにヘフテ達の目的を果たしてから、なんて悠長なことはしてられないのだ。
まずは村を調べ、自分たちの呪いを解く。
ヘフテたちへの協力はそれからだ。
「ヘフテ、問題ない。ダモンと引き離されないようにする。そうだな、容姿を変異させればいいだろう」
一向に収まらない言い争いに口を挟んだ。
最早子供の喧嘩だ。
どちらにしろ、魔物側であるダモンの村に私とマーツェが向かえば、争いになることは目に見えている。
いや、私は面を付けているから問題ないか。
それとも住人全員の顔を把握しているような小さな村ならば、変異をしても無駄だろうか。
結界で姿を隠す方が確実か。
しかし村人から話を聞けなければ、欲しい情報は手に入らない。
いっそ魔物の姿になるか?
「ほんとに?ほんと?絶対、大丈夫?」
「ああ。私ほどの魔法使いは滅多にいない。幾らでも魔法で細工してやろう」
どの方法を取るかは考えるとして、私が魔法で負けるとは思わない。
どうにでもして村に入り込む。
「わかった。ゲルハルト、絶対だからね」




