ヘフテの話
ヘフテとダモンの村は、小さい森で隔たっている。
歩けば2時間ほどかかる距離感。
ヘフテの村には、幾つか守るべき規則がある。
小さい森では遊ばないこと。
小さい森の向こうへは決して行かないこと。
村の外で遊ぶ際には魔具を使い、複数人で遊ぶこと。
森向こうにある村とヘフテの村は敵対している。
暗黙の了解として互いの土地を侵害しないことになっているが、迷い込んだ場合は別である。
殺される可能性もある。
森の向こうには行ってはいけない。
森へ遊びに行くことも避けなさい。
そして、ヘフテの村がある付近は平時でも魔物出現率が高い。
村に複数ある魔物から襲われるのを防ぐ魔具を用い、万一襲われた際には助けを呼べるよう複数人で行動をする。
ヘフテの村では小さいころからそう教えられていた。
ある時、入ってはいけないと言われている小さい森に、果実が鈴なりになっているのをヘフテは見つけた。
ヘフテは視力が良い。
村の仲間よりも遥かに遠くまで見ることができた。
好物の果実だ。
鈴なりになっている周囲に人影は見えない。
魔具を手に取ってこっそりと森へ向かった。
小さい森へ足を踏み入れることも、1人で村の外を出歩くことも禁止されているが、見咎められなければ問題ない。
魔物は魔具で避けられるし、自分は視力がいいのだ。
敵対している村の者がいたとしても、気づかれずに行動できるだろう。
狭い範囲でしか考えられない子供の考え。
果実をもぐのに夢中になると、すぐに周りへの注意は散漫になった。
袋の口が閉まりきらないほどに詰め込み、さあ村に戻ろうというところで目が合った。
人が居たのだ。
ヘフテの村の者ではない。敵対する、危険だと言われる村の者。
恐怖に息を飲んだが、目が合った相手は腕を伸ばして「いっこ、ちょうだい」と果実をねだってきた。
背丈はあまり変わらないが、活舌の甘い喋り方。
2つほど年下だろう、口元を覆う面をつけた子供。
果実は木によじ登ってもいだ。
年下のこの子では木によじ登るだけの力だまだないのだろう。
果実をたくさん抱えるヘフテに、分けてくれと両手を出してねだる。
なんだ、普通の子供じゃん。
その子は、薄緑に鮮やかな青が混じった、とても綺麗な目をしていた。
果実を渡せば、こっちの心まで温かくなるような、蕩けるような顔で笑う。
村はどうだか知らないが、その子を危険だとは思えなかった。
むしろ仲良くなりたいと思った。
渡した果実を食べようとして、うまく皮が剥けずに手をべたべたに汚していたので、皮を剥いてあげた。
果実の甘さに目尻を下げる表情見たさに、2つ、3つと果実を食べさせた。
土をこねくり回し、追いかけっこをし、蝶を捕まえ、一緒に遊んだ。
ばれないように1人で村を抜け出しては、その子、ダモンと小さい森で遊ぶようになった。




