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町の出店

「ゲルハルト、あれ食べたい。美味しそう」




順に治癒魔法を施している横で、ヘフテが騒ぐ。

比較的聞き分けがいいとは言え、我儘を言わないわけではない。



私が町で治癒を施している間、マーツェ・ヘフテ・ダモンの3人は自由に行動している。

町を探索し出店を見つけては、私に購入するよう要求してくるのだ。


兵士が多数いる町や勇者が多く立ち寄る町では、出店を出しているところもなくはない。


この材料を入手しづらくなっている中でもなお出店を出しているということは、それだけ食への情熱の強い者が多い。

つまりそこの料理は美味しいのだ。




それを理解しているのか、匂いに誘われているのか、町で出店を見つけては騒ぐヘフテ。

ダモンの場合は視線で訴えてくる。




基本、自給自足で質素暮らしをしているのだ。

手持ちの金は潤沢ではない。


マーツェだって同様である。

一所に留まって働くでもなく、兵士や護衛として雇われるでもなく、こうして旅をしている。


2人の要求はすげなく断る他ない。


これまで通り「断る」と言おうとして、鼻腔に届く匂いに言葉が止まる。





「ほら、あの人が持ってるやつ。あれ美味しそう。美味しそうでしょ?」





ヘフテの言う出店で買ってきたらしい物を食べ歩く人物。

香ばしくも甘い、魅惑的な匂い。


私の反応を敏感に察知し、ヘフテはさらに言葉を重ねる。





「ね?ゲルハルトも、思うでしょ?あれ食べたい。食べようよ」


「…食べたい」




勝機と見たのか、ダモンまでもがけしかけてくる。








自覚はあるが、食への欲求にどうも抗いがたい。

治癒の小休憩として、私は出店の揚げたての菓子を手に入れていた。


さっくりと軽い食感の後に柔らかくしっとりとした生地が顔をのぞかせる。


単純な製法で誰にでも作れるが、だからこそ腕が問われる料理。

卵や牛乳の優しい甘さと、香ばしくも胃に重たくない生地。







至福の時を味わっていたら、戻ってきたマーツェに咎められた。




「ずるい。ひどい。仲間外れだ。私一人だけなんて。真面目に調査してたのに。ちゃんと調べてたのに。私も食べる」




一通り嘆いて、すぐに自分の分を買いに行った。

私たちが食べている同じものを買ってくるのかと思いきや、それに加えて他の物も抱えてマーツェは戻ってきた。




「礼だって。たくさんもらっちゃった」


「礼?」


「うん。治癒と魔物退治のね。ゲルハルトが治癒した人に会ったんだよ。出店のところで。同じもの買いに来たみたい。いい匂いさせてるもんね」




揚げたてが冷めないうちにと、食べながらマーツェは語る。












数人並んでいた出店の列に加わりマーツェが買えるのを待っていると、今まさに購入していた者が店主に話しかけていた。




旅の魔法使いが怪我を治してくれたからまた頑張れる。

これを食べて精を出すんだ。




同じく列に並んでいた勇者がその話に反応をした。




俺もそうなんだ。

子連れの魔法使いが傷を治してくれた。

おかげでまだ勇者を目指せる。






幼い子供を連れた魔法使い。

面を付けた格好。

治癒師以上の魔法技術。



どうやら同じ人物に助けられたらしいと盛り上がっていた者たちは、後ろに並ぶマーツェの存在に気づいた。





魔法使いのお仲間さんじゃないか。

君らには感謝してるんだ。



ささやかだが礼をさせてくれ。

たしか4人で旅をしていたよな?





そう言って4人分の食事を持たされたのだという。

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