混沌たちは画策する
混沌を纏う者の一人、その末端であるロナ・ウェナ・メロロミロナは不機嫌そうに扉を開いた
そこにいるのは一匹の犬
「ねぇ聞いてよヘクト!」
「うるさいな、何だよ?」
犬がしゃべった
ロナはその喋る犬ヘクト・アルバ・ガシュトを抱き上げる
毛並みは美しく青みがかっており、眼の色は左右で違う右目は赤、左目は深緑
シベリアンハスキーやシェパードのような壮観な顔立ちをしている
どこに出しても恥ずかしくないような立派な犬である
そんなヘクトの頭を撫でながらロナは語る
「聞いてよヘクト!」
「聞いてるようるさいな、後頭を撫でるのはやめてくれないか?」
そんな話は聞かなかったとばかりにさらに撫でつけるロナ
しかしヘクトも撫でられるのが嫌いなわけではない
むしろ好きだ
これは気恥ずかしさからくる照れ隠しなのだ
彼はもともと犬ではない
しかし体を得る場合何らかの生物の形を取らなくてはならなかったため犬になってしまった
自らなったのではなくなってしまったという方が正しい
彼の意図ではないのだから
「あのね、あのね、ラドム様は行かせてくれるって言ってたのに上がオッケーしてくれないの!」
「ちょっと何言ってるのかわかんないんだけど…」
自分の言いたいことだけ言うロナの主張は要領を得ない
「だーかーらー!新しく生まれた女神!そいつを私が消してもいいってラドム様はオッケーしてくれたわけ!」
「でもアストムの馬鹿はだめって!だめって言ったの!」
「いや、上司を馬鹿って、君が消されるぞ」
プリプリ怒っているロナはそれだけ見れば可愛らしい子供のわがままのように見える
彼女は混沌の末端ではあるが、世界を簡単に消してしまうほどに強い
そんな彼女の上にラドムというお目付け役、さらにその上にアストムのような大神に匹敵する者、さらにその上にはメシアたちと近しい力を持つ者が存在している
末端の数は多いが、ロナやヘクトは大神よりの力を持つ末端でも上位の者たちだ
「いいの!アストムはそんなことで怒らないもん!」
確かに怒ったところを見たことがないな。と、ヘクトは思った
アストムは非常に温厚である。優しいといってもいい
しかしひとたび力をふるえばいくつもの世界を滅ぼしてきた冷徹な面をのぞかせる
無慈悲というやさしさもあると本人は語っていた
ロナは生まれたばかりの大神であるプリシラを消したがっている
それはラドムも許可を出した
しかし、アストムはそれを止めた
彼はプリシラをこちら側に引き入れたかったからだ
彼ら混沌はもともと神や天使であった者も多い
中には邪神や悪魔、魔王だったものもいるが、アストムはもともと大神だ
しかし世界のありように不信感を抱き自ら破壊する道を選んだ
大神だけあってその力は絶大である
彼が動けばそれこそほとんどの世界を消してしまえるだろう
だが彼が動けば当然救世界も動く
中でも救世界の大神アリュルーテは彼と因縁があるうえ実力も同じ
戦えばお互い無事では済まないどころか二人とも消える可能性がある
そこで思いついたのがプリシラのスカウトだ
彼女は生まれたばかりであるにもかかわらず大神の力を超越し、救世界の要三柱に迫る勢いである
すでにアリュルーテやアストムなど歯牙にもかけないほどの潜在能力を有している
彼女をこちらに引き込めば我らの目的は大きく前進できる
アストムはそう考えていた
「でねでね!私にそのガキをスカウトして来いって言ってるの!」
「それでだめなら手出し無用だって!」
「だめなら消しちゃうよね?普通!」
「まぁアストム様にはアストム様のお考えがあるのだろう」
「僕ら末端は指示に従ってればいいんだよ」
「でもでもでも納得いかないもん!」
駄々っ子、まさに駄々っ子がそこにいた
ロナが駄々をこねて床を転がりまわっていると
「まぁまぁロナ、いずれ来る救世界との戦争に向けての準備ですよ」
「アストム様はあなたを買っているのです」
「これは名誉ある仕事なのですから、私からもお願いします」
見ると、ラドムが優雅に立っていた
「ラドム様!」
「わっかりました~!ラドム様がそう言うなら私、頑張っちゃいます!」
「その代わり~、うまく行ったら褒めてくださいね!」
「えぇ」
ニコリとほほ笑むラドム
ロナはラドムに懐いているので彼の言うことならば何でも聞くのだ
「はぁ~、単純…」
そのため息からヘクトの苦労がうかがえた
ロナの尻ぬぐいをするのはいつも真面目なヘクトの役目だった
ロナは先ほどまでの駄々っ子具合がウソのように今は上機嫌である
これならきちんと仕事をこなすだろう
まぁそれはヘクトの希望的観測でしかないのだが…
対立組織です
というより反存在です