1 初めての譲渡3
そんなウルハを見守るプリシラ
あんな小さな子を勇者として送り出さなければならなかったのが悔やまれる
しかし彼女はそれだけの実力を秘めている
今はまだつたないかもしれないが、戦ううちに鍛えられていくことだろう
そうなればどんな魔物にも引けを取らないはずだ
プリシラの加護は身体能力の大幅向上に加え、物理耐性、魔法無効などである
さらに譲渡によって授かった能力もある
ウルハの場合は“亜空断絶”といって、物理と魔法の両面を持つ絶対的な切断技だ
相手に物理や魔法耐性があろうと空間ごと切り裂くので防御は意味をなさない
力だけならば圧倒的、たった一人で1万もの魔物を相手にしても生き残るだろう
しかし彼女はまだ幼い。まもなく12歳になる子供なのだ
プリシラは思う
彼女が危険な時は絶対に助け出そうと
神は見ている
この世の全てを
世界の人間は知らない
監視されていることを
プリシラは生まれて間もないが、ほぼ全知全能と言っていいほどの大神である
どんなことでも見抜く眼に、メシアたち三柱に迫るほどの力
それは彼女の両親、双子の創造主がそう願ったからに他ならない
双子はそのために世界を作り続け、力を蓄え、その全てをプリシラに譲渡した
自らの消滅を分かっていながらそれでもプリシラを望んだ
だからプリシラは両親に恥じぬよう世界を守ると決めた
救世界に呼ばれたのは嬉しかった
自分一人ではなく頼れる者たちがいる
ベーリもメシアも頼られることが好きだ
行き詰れば当然のように手助けしてくれるだろう
しかしプリシラ自身がそれをよしとしない
この世界、最初に任された世界だからこそ自分で解決したい、という思いもあった
ウルハは旅立つ
その小さな両肩には考えられないほどの重圧がのしかかっている
教皇からの威圧、国民からの期待、一人で戦うというプレッシャー
世界中からの期待が彼女を押しつぶそうと迫る
プリシラにはそれが分かった。神眼は全てを見抜く
それはウルハの内心も見抜いていた
だからこそ助けたい
ルールに反しているが、多少なら手助けをしてもいいと許可は出ている
プリシラは画面のボタンを押す
すると吸い込まれるようにその画面内に入り込んだ
転送装置のようにこの世界へと降り立った
降臨ではない、プリシラはこの世界での肉体を得ている
ウルハのサポートをするためだ
周囲を見渡すと、どうやらウルハが旅立った街の街道のようだ
今追いかければ十分合流できるだろう
神眼によってその足跡をたどっていく
魔物に侵食されているだけあって街道には人通りはない
いまや街道にすら多量の魔物が溢れているので当然だろう
討伐隊や冒険者が排除しているが間に合わないほどだ
現に今もこうして襲われている
プリシラの力は強い
魔物、たとえ魔王や邪神であっても一撃で屠るだろう
しかしそれは本来のプリシラの体ならばだ
今は顕現するため人間の肉体を得ている
そのため今現在目の前にいる魔物に傷を負わされピンチだった
それをこの世界の魔法で何とか迎撃している
負わされた傷も回復魔法で治癒
それでも数が多い、このままではせっかく顕現した人間の体も消滅してしまう
「大丈夫!?」
そこに声がかかった
振り向くといつの間に来たのかウルハが立っていた
教皇にもらったらしい鎧と神々しい聖剣を持っている
一瞬にして魔物の群れを薙ぎ払うウルハ
プリシラの予想以上に彼女の戦闘センスは高かったようだ
「よかった、無事みたいで」
「よかったら街まで送っていくよ?」
「こんな危険な街道をなんで女の子一人で歩いているのか不思議だけど…」
これは渡りに船と言わんばかりに食い気味でウルハに喰いついた
「あの!勇者様ですよね!」
「どうか私を一緒に連れて行ってください!」
ウルハは目をパチクリさせている
突然のことすぎて思考が追い付いていないようだ
「え、あの、え?」
「だめだといってもついて行きます!私の中ではもう決定事項なんです!」
ぐいぐいとウルハに迫る
「え、あ、うぁ、お願い、します…」
強引だが許可を得た
これで彼女の支援ができる
たとえ世界中からの期待に押しつぶされそうになっても肩代わりできる
なぜなら顕現したプリシラの職はこの世界では勇者と対等の存在、聖者だからだ
こうして人間となったプリシラはウルハと共に旅に出ることになった