1 初めての譲渡2
ウルハは自分の力に驚いた
彼女は勇者認定された後すぐに辺境の村だった故郷から教会の本部がある王都へと呼ばれた
勇者のあまりの小ささに周りの者は驚き不安がっていたが、見る者が見れば一目瞭然であった
溢れ出る魔力と神々しい光
まさしく神に選ばれたといわんばかりの威光だった
ウルハは村から出たことがない
両親は突如村を襲った魔物に殺され、村長に引き取られた
村長は優しかったが両親を目の前で殺され、ショックを受けていたため目をはなすと両親の後を追うとする
それでも村長は懸命にウルハの心をケアした
そのかいあってか最近は自ら命を絶とうとはしなくなった
その日、ウルハは初めて教会のお祈りに出た
ますます勢力と強さを増し、最近では街道までも襲い始めた魔物たち
つい先日も作物を運んでいた村の者が殺された
村人たちの切なる願い
それは安寧なる暮らし
初めての教会での祈りは数時間にわたって行われた
神が聞いていると信じて
神への祈りはしっかりと届いていた
だからこそ降臨したのだ。勇者となるべきウルハの前に
今までウルハは教会の祈りに出たことはない
そう、これは必然だった
女であるうえまだ子供のウルハは魔力を測ったこともないため彼女の力を知る者も誰もいなかった
女神プリシラはウルハを勇者認定し、加護と能力を授けたものの、魔力自体はウルハ自身の物
そんなウルハは大きな教会の前にいた
ここはこの世界の神を祀った教会の本部であり、勇者の素質あるものを集めていた
ちなみにこの世界の神はいるにはいるが勇者を選定し、力を与えれるほど強くはない
そのため大神であるプリシラたちが代役を務めたのだが、それはこの世界の人間たちには知る由もない
「来ましたか」
村の教会の神父に付き添われていたウルハ
神父は恭しく声をかけた教会の関係者らしき男に一礼する
彼は全ての教会をまとめ上げる教皇アイゼル・オルベリート
教皇自ら出迎えるのは異例のことであったが世界の救世主たる勇者出現は教皇も待ち望んでいたことであったためそれも当然だろう
アイゼルは教皇であり、この国の王でもある
というよりこの国の王は代々教皇が務めてきた
中でもアイゼルは突出しており、その力と頭脳で見事に教会と国をまとめ上げていた
アイゼルの見た目は優し気な初老の男性だが、前に立った者ならわかる
その力強さと圧倒的な包容力は安心感を与えるだけでなく、この人の役に立ちたいと思わせるような何かがあった
それは彼のスキルに他ならない
だがそれを知るのは教皇とごく一部の上層部の者のみだ
ウルハも当然そうなると思われたが、まったく変わった様子のない姿にアイゼルは少し驚いた
女神プリシラの加護によるものだろう
ウルハはきょとんとしている
何せ自分を連れてきてくれた神父はまるでアイゼルを神のように崇め祈っているからだ
「これは驚きました。さすが勇者認定されただけのことはありますね」
ニコリとほほ笑むアイゼルに少し安堵するウルハ
「では、こちらに来なさい」
アイゼルに言われるがまま教会の一室へと通される
そこはアイゼルの私室のようだが、教皇と呼ばれる者の部屋としてはあまりにも質素
普通の椅子にどこにでも売っていそうな小さな机
周りには本がうずたかく積みあがっており、小さなランプが部屋を煌々と照らしているだけ
ウルハが村長に与えられた部屋よりも小さいのだ
アイゼルが椅子に座るように促す
ここにはアイゼルとウルハ以外誰も入っていない
防音の魔法が施されているので外に音が漏れることもない
「ふぅ、よく来たね、確か名前は...」
「ウルハ、です」
「ふむ、ウルハちゃんか、君は勇者認定された。それはわかるね?」
「はい」
「これから君は危険な魔物と戦わなくてはならないし、時には戦争に身をやつすことになるかもしれない」「それでも、勇者としてこの世界を救う大役を引き受ける気はあるかね?」
少し考えるウルハ
無理もない、この世界の命運は彼女のその小さな両肩にのしかかっているのだ
だが、彼女は少し考えただけで即答した
「やります」
これには教皇も驚いた
まだ幼いこの少女は世界を救うという大いなる役目を引き受けるといったのだ
勇者認定されたのは彼女一人だったので引き受けてもらわなければ困るのだが...
もし引き受けなかった場合洗脳してでもやってもらうしかないのだ
それほどに世界は危機にさらされている
一人の少女の犠牲を出してでも多くを救う必要がある。それは教皇だけでなく周辺国の総意でもあった
だが、少女は一も二もなく引き受けた
ウルハは思っていた
二度と自分と同じような目に合う子を出してはいけないと
幼いながらもそう考えたのだった