1 初めての譲渡
勇者に力を与える神の存在とは?
転生させる神々ってどうしているの?
なんで選ぶの?
何で自分たちでやらないの?
そんな自分の疑問を形にしています
この世には様々な世界と次元が存在する
並列に存在するパラレルワールドから、上下に存在する次元の異なる世界
救世界はそれら世界を救済するために存在する
世界の成り立ちから存在するいわば組織のようなものだ
どのようにして世界が生まれ、この組織が出来上がったのかは上位の三柱であるメシア、クリエイター、オブザーバーも知らない
ただ一人、神々神と呼ばれる救世界の管理者のみが知っているという
神々神は姿を見せたことはなく、唯一声のみが響く
ただ、その声を聴けるのも上位三柱のみであった
その三柱の一人であるメシアに任務を与えられ、現在ベーリという大神と共に世界に降臨する準備をするプリシラ
初めて降臨することもあり、メシアの側近でもあるベーリがいろいろと指導するためだ
プリシラは彼の顔に見覚えがあった
両親から引き継いだ記憶。その中にある顔だった
彼は混沌に消されそうになった両親を救った存在
つまりプリシラにとっても恩人となる
「あの子たちの子供とこうして一緒に仕事をできるのも何かの縁かもしれないね」
優しい口調でにこやかにそう語る
彼は両親をこの救世界にスカウトしようとしていたのだが、彼らはプリシラという存在に吸収統合されてしまった
そのためプリシラをスカウトしたらしい
だが結果的にそれでよかったのだろう
彼女の力は両親の予想に反し、遥かに格上となっている
余多いる神々の中でも最上位に位置するほどだ
ベーリをしてもプリシラに少し劣っている
「さぁ、着いたよ。ここから降臨できるようになっている。君が最初に降り立つ世界は魔物が跋扈し、邪神が世界を手に入れようと画策する世界、“トラキニス”だ」
何かの紋章が床に書かれた部屋へと案内されたプリシラ
今回はどうやらベーリもついてきてくれるらしい
二人で紋章の上に立つ。すると光が二人を包み込んだ
光が消えると同時に二人の姿も消えた
目の前にはどこか神殿に近い建物の内部に見えるそこにはすでに多くの人々が祈るようにしてこちらを見ている
だが、姿は見えていないようで、驚いたり声を出したりはしていない
ただただ一心不乱に祈っている
本当に切迫しているのか、誰も彼もが心の底から祈り、その思いが直接流れ込んでくるのがわかる
「今ここに流れてきているのが神力、人々の願いの力です」
「私たち神は彼らに信仰されることで存在することができるのです」
そうベーリに説明された
確かに体に力が充実していくのがわかる
彼らの願いは一様に平和への祈り
それをかなえるためプリシラたちは降臨したのだ
「さて、それでは勇者となるべき者を探しますよ」
「これについては私は口出しをしません。あなたが思った方を選んでください」
どういうことなのだろう?そう疑問に思う
何をすればいいのか分からない
「分からないという顔ですね、ではヒントをあげましょう」
「神眼を使ってみてください」
プリシラは言われた通りに目に力を込める
その力は全てを見通す
それによりこの世界のすべてを見通すことができた
起きている惨状、邪神の動向、人々の嘆きや悲しみ
その中にひときわ輝くものがあった
それは神眼にしか見ることのできない適格者の輝き勇者や英雄、勇英など、世界に選ばれた者が放つ輝きであった
「見つけたようですね。ではそのかたに接触を図りましょう」
「この神殿からかの者に近い神殿へと移動します」
ベーリに言われるがまま神殿から神殿へと移動した
そこは辺境地のようで、先ほどの神殿とは打って変わってみすぼらしい神殿だった
しかし神を模したと思われる像は非常に手入れが行き届いており、掃除なども徹底されているのか、埃一つ落ちていないようだ
供えられている花や食物も毎日変えられているのか、新鮮だった
この神殿でも同じように祈りがささげられている
そんな祈りをささげている者たちの中にひときわ輝いて見える少年とも少女とも見える美しい顔立ちをした者がいた
それを見つけ、ベーリの方を見やると、彼はうなずいた
プリシラは声に神力を込めて語り掛ける
―聞こえますか?—
祈っていた者たちはその祈りを止め驚愕し、こちらを見ている
といってもプリシラたちは像の中から見ている形なので皆像を見ている
―私は女神プリシラ、あなた方の祈りを受けて降臨しました―
ざわめく神殿内
その中には歓喜のあまり泣き出す者までいる
―そこにいる者、前へ―
光をスポットライトのようにその少年なのか少女なのか分らない者に当たる
その子はゆっくり、恐る恐る前へと出た
神眼でその子の力を見てみる
名前はウルハ・マデューロ
性別は女
生まれながらに多量の魔力を持っていることがわかる
この世界の平均魔力のおよそ1000倍…
圧倒的だった
その少女に女神として加護を授けるプリシラ
加護により少女には鋼のような防御力と圧倒的な力が宿る
そして、譲渡によってウルハに合ったスキルを与えた
これでひとまずプリシラの大きな仕事は終わりである
あとはウルハの動きを観察し、助言を与え、時には手助けをする
女神自身が世界を救うことはできない
そんなことをすれば人々は神々に頼りきりになり堕落してしまうからだ
だからこその最小限の手助けと、その世界を救う手立てとなる救世主たる勇者や英雄の選別であった
無事譲渡を終えたプリシラはウルハを勇者と定め、神殿を後にした
ウルハの観察のためベーリからガラスのような薄いモニターを渡される
彼女がこれから何を成すかはこのモニターによってわかる
プリシラは与えられた最初の任務を全うするため熱心にそのモニターを観察し続ける
救世界にいる者に時間や寿命といった概念はない
だから彼らは本来なら途轍もない時間を有するようなことがあっても慌てることはない
ここでは時間は無限なのだから
次回はウルハに焦点を当てていきます