7.前兆の目の当たり
就活に勤しまないことを他のメンバーに知られてしまったその日から、いよいよ本当の目的だった交流イベントに参加出来るようになった。
その日の講義を終えたわたしは、集合場所に直接向かって歩いていた。活動する拠点になる所が一応あって、そこは行政から借りた公民館のような場所だった。
そこへ着いた途端、まるで場所を間違えてしまったかのような錯覚を覚えた。確かにわたしの目的は、異文化交流ではあったけれど、こうも異国の人たちがたくさんいるとは思っていなくて中に入るのを迷ってしまった。そこへ、彼が助け舟を出してくれた。それがよしのくんだった。
もちろん、指南を受けていたわたしだけど、それでもそうした感情変化は簡単には訪れる者では無くて、相変わらず、わたしはよしのくんの考えていることと思っていることが理解出来ずにいた。たとえ、それが彼からのメッセージだとしても、容易に分かるわけも無くわたしの返事は変わらずだった。
「中に入らないの? いや、入れないのか」
「どうしようかなと」
「手、貸すか?」
これも彼の表現。分かりやすいからこそ、分かれよ。って、彼の表情はわたしに物語っていた。それでも揺るぎの無い動かぬ心。ナツいわく、前兆を知ればもしかしたら、わたしにも変化が訪れるかもしれない。そんなあやふやなことを言っていた。
ナツの指南はこうだった。彼のふとした仕草や、表情の変化や格好いいとか、優しいなとか、それを思って思わず見とれてしまえば、それが前兆の始まりらしい。それに至らないから始まっていないのも事実。
よしのくんがわたしに差し出す手に、そんな感情が全くと言っていいほど起こらないのも問題で、どうすればそんなことになるのか逆に教えてほしい。
彼、よしのくんと会うたびに、嬉しくなったり笑顔が自然に出たり、ほんの些細な出来事を幸せだと感じることが出来たら、恐らくはそれが恋になるんだということはようやく理解出来た。
男の子に意識をしたことが無い。それがそもそもの問題で、未解決の事件と言っていいかもしれない。こんな状態で果たして、わたしは変わっていけるのだろうか。変わりたいと言うのは事実なのだけれど。
「手を出してこないってことは、通用しなくなったか。まぁいいや。じゃあ、俺に付いて来て」
「うん、付いて行く」
「そこ、段差あるから気を付けて」
「え、どこ?」
何て言ってる傍から、思わぬ段差がわたしを襲った。平らだと思っていた床がまさかの落差だった。これには思わず、体のバランスを崩してよろけながら前のめりになってしまった。
「っぶねえ! おいおい、しっかりしろよ。こんなとこで転ぶとか」
「え、あ、うん……ん? 何これ?」
絶対転ぶと思ってた。それが、咄嗟のことではあったけれど、よしのくんに支えられて事なきを得た。それはいいけど、それと同時に胸の辺りがおかしいことになった。鼓動も急に早くなるし、緊張もしてきた。
恐らくは、怪我をしてしまいそうなくらいになっていたせいだと思うけど、彼の体とわたしは一瞬、密着するような形になっていた。だからそれで体が驚いてしまったんじゃないかなと思う。
「どうした?」
「何でもない」
思わず声に出してた。もしかしなくても、これが前兆の始まりってことなのかな。




