4.優しさの受け入れ方:前
現役の学生の誘いを黙って受けるべきなのだろうか。多分わたしは、こういう所が臆病で自己アピールをしないから、友達にもなれず親しくもなれなかったんだ。少なくとも今まではそうだった。
「わたしが参加してもいいの?」
「遠慮しなくていいよ。だって、もうメンバーじゃん? だから確かめなくていいよ」
「う、うん、ごめん」
積極的に話しかけて来るよしのくんは、はっきりしている性格みたいだった。わたしの迷いは彼のおかげで無くなったと言ってもいいかもしれない。
異文化交流が果たして本当に行われるのかは分からないけれど、わたしが加入した記念という名目でみんなと一緒に、展望台へ行くことになった。
「みずほさん、高いところ平気ですか?」
「たぶん、平気」
「天気もいいので、みんなで行きますよ」
「あ、ありがとう、ナツ」
「いえいえ」
やはり誰か一人でも女子がいるってだけで、安心感が違う気がする。ナツはわたしよりも一つ下くらい。それなのに、しっかりしていてサバサバした感じだから、すごく落ち着ける気がした。
少ない人数だからなのかもしれないけれど、男女それぞれの個性が分かりやすく、嫌な感じを受けることは無かった。それとも、単にわたしだけが一年という短い時間の中でも、自分の個性を消してきたのだろうか。
言われるがまま、親の紹介で入った会社。そこには楽しみなんてことが無くて、変化の無い毎日を過ごしていた。何の目標、目的も無かったと言えばそれまでだったけれど、自分から何かを探そうなんて気は全くと言っていいほど起きなかった。
そんな自分を変えたくて、ハンデを付けて大学に入ったのに3年も経ってしまうなんて思わなかった。せめて、就活に勤しまないわたしは、サークル活動に勤しみたい。そうしたら何かのきっかけで、変わり映えのしなかった毎日に、劇的な変化をもたらすのかもしれない。
「みずほ、お金」
「え?」
「だからー、展望台のお金出して」
「あっ、そっか。ご、ごめん」
「いちいち謝らない。気を遣うのも禁止な!」
「ご、ごめ……あ、ありがと、よしのくん」
あれ、もしかして気に障ってる? 世間の何もかもに興味も関心も持たなかったわたしは、まともに男子とのやり取りも出来なくなっているのだろうか。こんなことでは変われない。だから、まずは笑顔を出して行こう。
「みずほって、年上?」
「あ、うん。現役じゃないし、社会人枠だから」
「ちょっと! そんなの女子に聞くか普通……って言うか、泰史はそういうの気にしてないんじゃなかったっけ? 年上とか関係ないんだから聞くな!」
泰史くんの言った言葉に対して、すぐに反応と攻撃を返してくれるナツは、わたしから見ても頼りになる女子。聞かれたことにはなるべく黙らずに返事を返すようにしていたけれど、どう返せばいいのか分からなくなっている。それくらい、わたしのコミュ力は落ちているみたいだった。
「……気にしなくていい」
「そ、そうだね」
ほとんど無口の透馬さんにも心配されるほど、わたしはやばいということなのだろうか。考えてみれば、わたしのことに興味を持つ人は今までいたのかな。基本的に、自分のことを自分から話さなければ、人は聞いてくることをしない。今まではそうだった。わたしは自分のことを進んで話したことが無かった。だから、聞かれるということに慣れていないというのが正直な所。
「そんなもの」
まるで今考えていることを読まれたみたいに、呟かれてしまった。あぁ、駄目だな。楽しもうという想いを芽生えさせているのに、心の中は過去のことばかりを思い浮かべている。こんなことでどうして、変われるんだろう。それとも、少ない人との交流の中で何か自分で探し当てることをしないと駄目なのかな。
「もうすぐ着くよ。何考えてた?」
「あーうん。色々」
「彼氏いる?」
「い、いないけど」
「欲しいと思ったことは?」
「ある……と思う」
「そっか。それだけだから、気にしないでいいから」
よしのくんはわたしに一番、話しかけて来る男の子。ただ、それについてもどうということが無くて、聞かれたから返事を返している。それだけのことだった。きっと彼もそうだと思う。初めて入ることが出来たサークル。きっと、新しく入って来たわたしに何だかんだで気を遣って、聞いて来てくれているんだ。
どういう返事をすればいいのかなんて、入ってすぐのわたしでは到底無理。普通に、一日に会話する量が人それぞれで決まっているとは思う。けれど、そうしてこなかったわたしにとって、いくつかの答えにどう返事を返して、何が最適なのかなんて頭の中も心の中にも浮かんで来ない。それが今のわたしなんだ。




