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セフィロトの魔法使い  作者: 黒木オレオ
第3章 結婚狂想曲
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第28話 内通者



 カイオロス王国からヴァナディール王国に戻ってきたミリア達は、そろそろ夏休みも終わりに差し掛かる事もあり、一度学園都市まで戻って来ていた。シルカも今後の状況が不透明という事もあって、ミリア達と一緒に学園都市に戻ってきている。

 そして、現在の居場所は魔法学園の学園長室。カイオロス王国で起こった事の報告の為にミリアはシルカと共にアルメニィ学園長の元を訪れていた。ちなみにカイトはレイダーと共に即デニスによって連行されて行った。今頃、地獄のような特訓が展開されている事だろう。


「シルカ君、よく戻ってきてくれたな」

「ご心配をおかけしました。先行きはまだ不透明ですが、ミリア達のおかげで何とか戻って来れました」

「ミリア君もご苦労だったな」

「友達を助けるのは当然です!」


 言って、シルカと2人笑い合った。その微笑ましい光景を見てアルメニィも頬が緩みかけるが、2度ほど軽く両頬を叩いて気を引き締め直す。


「それじゃあ、ミリア君。報告を聞こうか」

「はい。まずサージリアでの事ですが」


 そう言いかけた直後、学園長室の扉をノックする音が聞こえた。


「学園長。シグノアですが、ちょっと相談したい事が」


 その声の主人(あるじ)はヴァナディール王国王太子にして学園生徒会長のシグノアだった。アルメニィの許可を得て入室したシグノアは先客がある事に気付く。


「少し時間を改めましょうか?」


 そう言って退出しようとするシグノアをミリアが止めた。


「あ、待ってください。できればこの話はシグノア殿下にも聞いてもらいたいので」


 ()()()()殿()()。ミリアはそう言った。その意図を察したシグノアは扉を閉じると、共に来ていたルグリアに音を遮断する結界を張らせた。


「ミリアさん、とりあえず無事に帰ってきて何よりだったよ。第3軍の兵達は役に立ったかい?」

「はい。ライエル団長が自ら来たのは驚きましたが」


 ミリアのその言葉を聞き、シグノアは眉間を指で揉むような仕草をする。


「僕はライエルまで行かせるつもりはなかったんだけどね。彼は第3軍の軍団長だから、他の兵士の面倒も見てもらわないといけなかったんだ。今回は何とか副官のサラジアがベグニール卿に頼み込んで事なきを得たんだけどね。

 今頃はベグニール卿のお説教の最中かな」


 ま、自業自得だよね、とシグノアは苦笑した。

 ベグニール・オルト・ライアンバッハ卿。マリエッタによれば王宮の近衛兵団である魔道騎士団(オリジンナイツ)第1軍の軍団長で、さらに魔道騎士団(オリジンナイツ)の総団長も兼任している人物らしい。ライエルにとってはもう1人の親父のような存在らしく、頭が上がらないとの事だった。


「さて、それじゃあ、何があったのか聞かせてくれるかい?」

「はい。まずはサージリア領からカイオロス王国のバルディッシュ侯爵領に向かう道中なのですが――」


 ミリアはアルメニィとシグノアにバルディッシュ侯爵領で起こった事と、その際に自分が考えていた事を順を追って全て話した。

 バルディッシュ侯爵が国に対し謀反を企んでいると思われる事。カイオロス王国の政府もそれを察して対処に乗り出している事。更にはバルディッシュ侯爵領内での人工合成魔獣(バイオキメラ)の襲撃騒ぎなど。

 そして、シルカの魔蟲奏者の情報が隣国に漏れていた事も。

 話を聞いていたアルメニィが、むぅ、と唸る。


「なるほど。確かに魔蟲奏者の名前まで漏れているのは偶然とは思えないな」

「魔蟲を操る能力の事は、学園内でも目にした人もいると思うので情報が噂となって知れててもおかしくはないと思います。

 でも、その固有能力(ユニークスキル)の名前が『魔蟲奏者』である事まで知られるのはいくら何でも偶然とは思えません」

「ふむ」


 そこで少し考え込んでいたシグノアが口を開いた。


「その事なんだけど、実は僕が今回アルメニィ学園長に相談を持ちかけたのは、王宮の政府人員内にいると思われる他国の内通者の事なんだ」

「内通者?」

「ミリアさんには以前一度話したと思うが、貴族の世界には貴族の格付けと言うものが存在する。シルカさんの実家のサージリア家は我がヴァナディール王国の辺境伯家だ。貴族としての階級としてはまあ決して低くはない。

 しかし、今回婚約相手となっていたのは隣国カイオロスのバルディッシュ侯爵家。サージリア家より格上の貴族だ。貴族にとって婚約者は家の格に影響を与える重要な要素(ファクター)となる。なぜなら、格下の貴族家の娘を嫁にすれば、その家は格下の貴族からしか嫁が貰えない、その程度の格しかないと他の貴族家から侮られる事になる。そして、それは派閥を持つ貴族には致命的な事実にもなりかねない」


 派閥。それを聞いてミリアは赤鷲騎士団のカストロの話を思い出した。バルディッシュ侯爵家はカイオロス王国の強硬派勢力の筆頭貴族。つまり、強硬派のリーダー的存在なのだ。

 そんな筆頭貴族が面子を下げるような真似をすればどうなるか。バルディッシュ侯爵の子飼いの貴族達からは離反が相次ぎ、強硬派の筆頭を狙う他の貴族からはこれを理由に追い落とされかねない事態を招く事だろう。極端に思えるかも知れないが、貴族の世界とはこう言うものなのだ。


 そして、そう考えるとなると、バルディッシュ侯爵家の当主レバンナが次男バールザックの嫁にシルカを選んだ理由。やはり行き着く先は『魔蟲奏者』である。それも、この魔蟲奏者の能力についてそれなりに詳しく知らない限り、こんな賭けには出ないだろう。

 それがシグノアの考えだった。


「シグノア殿下。確認ですが、シルカ君の固有能力(ユニークスキル)を含め、アザークラスの生徒達の事を知っているのは政府内ではどのくらいですか?」


 神妙な顔つきでアルメニィが尋ねる。今のアザークラスの各々が持っている固有能力(ユニークスキル)は強力過ぎる。まだまともに使いこなせていないミリアのセフィロトの魔法は抜きとしても、ヴィルナの重力魔法やナルミヤの精霊魔法などは悪用されれば大変な事になる。軍事に至ってはシルカの持つ魔蟲奏者などは戦力のバランスを1人で覆しかねないほど。簡単に情報を漏らすわけにはいかないはずだ。

 そのアルメニィの質問に対して、シグノアは答える。


「流石に王である父上には話を通さない訳にはいかないからね。父上にはこの話はあくまで機密にしてもらうように頼んである。

 ただ、事が事だから、宰相や政府の高官達の間には伝わっているかもしれない」

「その中に内通者はいなかったんですか?」


 シルカの問いにシグノアは首を横に降る。


「宰相を含め高官達は全員シロだったよ」

「でも、魔蟲奏者の名前まで知っているのはその人達だけなんですよね?」

「ああ。それは間違いない。正直手詰まり感が否めないから、学園長に何か良い方法がないか相談したかったんだ」


 話を聞いて、アルメニィは学園長室の椅子に腰掛けて「ふ〜む」と思案する。見た目10歳前の幼女のなので何だか微笑ましい。


「バルディッシュ侯爵にしてみれば戦力になるのであれば、アザークラスの誰でも良かったはずだ。話によればヴィルナ君は1人で古城を1つ潰したらしいじゃないか。誇張ではなく文字通りにな。ミリア君など、セフィロトの魔法抜きにしても全属性特化の魔力特性と月光蝶ムーンライトバタフライ極彩色の幕布(オーロラカーテン)などの特殊魔法が使えるなら喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 しかし、話題に上っているのはシルカ君の魔蟲奏者のみ。ここに何か鍵がある気がする」


 アルメニィは少し考えてシルカに目を向けた。


「シルカ君に聞きたいんだが、魔蟲奏者の事を誰かに話したか?」


 聞かれたシルカは思い出すように虚空に視線を彷徨わせ、


「お母さんと兄さん、後は私付きの使用人(メイド)の3人です」


 シルヴィアとリュート、そしてシルカの使用人(メイド)のセミア。3人の様子を思い浮かべる限り、とても情報を漏らすとは思えない。

 そんな事を考えていると、ふと何か思い当たったかのようにシルカは「あ」と声を上げた。


「どうかしたの?」

「もしかしたら、もう1人いるかもしれない。確証はないけど」

「誰?」


 全員の視線が集まる中、シルカはその人の名を告げた。


「アリマーさん」

「アリマー?」

「サージリア家の第1夫人」


 ああ、そう言えば、とミリアは思い出した。

 以前にシルカ付きの使用人(メイド)セミアからサージリア家の家系の話を聞いた時に確かにその名前が上がっていた。確かシルカの母シルヴィアからも疑わしい者としてその名が上がっていた。


「何だか御家騒動の匂いがしてきたわ」

「ははは。まあ、貴族にはある意味定番とも言えるかもね」


 朗らかに笑うシグノアに対し、物凄く嫌そうな顔をするミリアだった。





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