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セフィロトの魔法使い  作者: 黒木オレオ
第2章 禁断の果実
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第21話 学園最高戦力



 エクリアとリーレ、およびアザークラスの面々もブライトンが魔獣化するのを見てすぐに舞台へと向かう。1人で戦うミリアを見捨ててはおけないし、それに今こそベルモールやデニスの指導を活かす時。全員がそう考えていた。

 そして、舞台袖に集まる上級生達と合流した。


「あの、何かあったのですか?」

「君は?」

「サラマンダークラス第2学年のエクリア・フレイヤードです!」

「ああ、少し前に編入して来た」


 納得したように頷いた。どうやらエクリアの名も結構知られているらしい。


「実はな、舞台に入れなくなっているらしいんだ。誰かが助命の結界を隔離の結界に描き変えたらしい」

「隔離の結界!?」


 隔離の結界は中に入る事も中から出る事もできなくする結界だ。監獄などで犯罪者を閉じ込める際に使われるもので、当然その結界は張った本人でしか解除できない。ある方法以外では。


「なんでそんなものが闘技場に?」

「そんなの俺に聞かれても分からんよ」

「じゃあ、ミリア達は」

「ああ。今も舞台の中だ」


 見れば、闘技場の舞台側から結界を叩いている女生徒達の姿が見える。その取り乱し様からあまり魔獣と戦った事がないのかもしれない。


「魔獣相手に泣き喚いても仕方ないわよね。覚悟を決めて死ぬまで戦わないと」


 そんな事を言うエクリアに対し、


「前々から思ってたけどさ」

「ん?」

「貴方達の認識って常識からかなりかけ離れてるからね。一応言っておくけど」

「そうかな?」


 ヴィルナの言葉にリーレと顔を見合わせるエクリア。


「普通、私達の世代で瘴気を放つような高位魔獣との戦闘経験豊富なんて有り得ないからね」


 半ば呆れたように言うヴィルナにアザークラスの人達が一様に同意する。それに対し、やはりお互いに首を傾げるだけのエクリアとリーレ。

 一体今までどんな生活を送って来たんだと戦慄するヴィルナ達だった。

 と、そんな中、


「そこを退きなさい。結界を破壊する!」


 人混みを掻き分けてアルメニィ学園長が現れた。生徒達は前を開けるように左右に分かれていく。


「そこの奥の2人も少し離れてなさい」


 言われた通り、結界の奥にいた2人も少し後退する。それを確認して、アルメニィは右手人差し指を突き出した。その指先には純白の魔力が輝いている。しばらく瞳を閉じてじっとしていたが、その目を開くと同時に指先を素早く動かし()()()とある紋様を刻んでいく。それはエクリアにもリーレにも見覚えのある紋様。ありとあらゆる魔力を無効化する『魔力霧散』の紋章術だった。

 アルメニィは描き上げると魔力を込めた指先でそれを前方に押し出した。すると空中に描いた紋章陣は押し出されるままに前方に飛翔し、そのまま結界の表面に貼り付いた。その瞬間、紋章陣は赤い光を放ち、貼り付いた結界も魔法陣ごと細かい魔力の粒子となって虚空に散る。


 その光景にエクリアもリーレも言葉を失っていた。

 まさか空中に紋章陣を描き、さらにそれを射出するとは。明らかに自分達の知識の外の技だった。


「よし、これで結界は無くなった。突入するぞ!」


 アルメニィの声にハッとしたエクリア達も舞台へと向かった。


 




    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






 舞台の真ん中では相変わらずミリアと魔獣ブライトンが対峙していた。だが、ほとんど変わった様子を見せない魔獣に対し、ミリアには明らかに疲労の色が見える。


「はぁ……はぁ……結界は無くなったみたいだけど、そろそろヤバいわね。体力的にも精神力的にも」


 そんなヤワな鍛え方はしてなかったはずなんだけどなぁ、とミリアはボヤく。


「ミリア!」「ミリアちゃん!」


 そこへエクリアとリーレが駆けつけた。その後ろにはヴィルナを始めとしたクラスメイト達の姿も。


「随分と消耗してるわね。ホント、珍しい光景だわ」


 軽口を叩くヴィルナにミリアは疲れた笑みを浮かべる。


「やっぱり、瘴気を防ぐ障壁を張りながら戦うのは楽じゃないわ。あ〜しんど」


 ミリアは疲労困憊とばかりに大きく息を吐いた。

 今までこの舞台は隔離の結界が張られていた。この結界は外部からの侵入を遮断すると同時に内部からの脱出も遮断する。それは中の人だけに限った事ではない。

 つまり、アルメニィによって隔離の結界が破壊されるまで逃げ場のないこの空間の中でブライトンから発せられる瘴気がどんどん広がり、やがて結界内に充満するほどになっていた。よってミリアもブライトンを牽制すると同時に自らの身を瘴気から守る必要も迫られていたのである。


「ミリアさん、とにかく私達は下がりましょう。あの人達の邪魔になります」

「あの人達?」


 ナルミヤに促され前方を見る。


 そこにはブライトンと戦うアルメニィと2人の制服姿の男女がいた。魔道士姿の男子生徒と魔道騎士学部の制服を着た女生徒。その2人は息のあったコンビネーションでブライトンを翻弄している。


「あの人達は? 見たところ上級生みたいだけど」


 今まで見て来た生徒達に比べて段違いに強く、おまけにあの魔道士の男子生徒は保有魔力がかなり高い。おそらくはミリアの解放率80%にも匹敵するかもしれない。そして、彼はその膨大な魔力を見事に制御している。現時点では確実にミリアよりも実力は上だ。

 そして共に戦う女子生徒。槍を自分の手足の延長線上にあるように使い、まさに舞うかの如く戦っている。ブライトンの爪による攻撃をまるで羽のようにふわりと回避し、繰り出す槍の一撃は雷光のように。確実にブライトンを追い詰めていく。


「あの2人、ここの生徒会の会長と副会長」

「生徒会の?」

「この学園の生徒達の頂点に立つ2人。『槍姫』ルグリア・マシューサイトと『魔道太子』シグノア・ヴァン・ヴァナディール」

「ヴァナディール?」


 聞き返すミリアにレミナは頷く。


「シグノア先輩は生徒会長でこの国の王太子」


 王太子。この魔道王国ヴァナディールの王族。

 それを知り、ミリアは目を輝かせる。


「あの人がこの国の王子様なのね」

「あら、ミリアも王子様と聞いてときめいちゃった?」


 ニヤリ笑いで冷やかすエクリアに対しミリアは、


「エクリアやリーレよりも魔力が高い同年代の人って初めて見たわ! 凄い! 勝負したい!」

「……」


 花より団子ならぬ、王子より魔法。やはりミリアはミリアだった。







 一方で魔獣のブライトンと戦う生徒会の会長副会長コンビはと言うと。


「ルグリア! そろそろ決めるよ!」

「はい、殿下!」

「だから学校では殿下は禁止だって」

「は、はい。えっと、シグノア……君」


 ナニコレ。ラブコメ?

 瘴気を撒き散らす魔獣の眼前でありながら何やら甘い空気が。ミリアは目を丸くした。

 そんなミリアに横からシルカが言葉を追加する。


「えっと、ルグリア先輩はシグノア先輩の幼馴染で許嫁らしいよ」

「そうなんだ。もしかしてあの2人が一緒に戦うといつもあんな感じ?」

「まあ、大体は」


 シルカは苦笑した。


「でも、実力は確かなんだよ。シグノア先輩もルグリア先輩も個人でも強いけど、2人揃うと向かう所敵なしって感じで」


 そんなシルカの話を聞きながら、ミリアは2人の戦いに目を戻す。

 確かに空気は甘いがその攻勢は全く甘くない。ルグリアの槍による攻撃とその隙を埋めるようにピンポイントでシグノアの魔法がブライトンを打つ。学園長のアルメニィはほとんどサポートしかしていない。


 やがてブライトンの動きがかなり鈍くなってくる。それを見て2人は勝負を決めに行った。


「風よ! 吹き行き嵐の塔となれ!」

「水よ! 纏いて貫く槍となれ!」


 思わずミリアは身を乗り出す。

 息ピッタリの完璧なタイミングで繰り出す2種類の属性攻撃。


「「吹き荒ぶ氷嵐の槍(ノーザンインパクト)!」」


 氷の魔力が込められた槍にシグノアの風魔法が上乗せされ、凍てつく大渦となってルグリアの槍を包み込む。そして繰り出された一撃はまさに氷嵐の槍。それは一直線に突き進みブライトンを直撃した。暴風は取り巻いていた瘴気の衣を跡形もなく吹き飛ばし、抉ぐる螺旋はブライトンの胴を削り取る。そして次の瞬間、たちまちその位置を中心として全身がビシッと音を立てて凍結した。後には白く輝く冷気と氷の彫像のようになったブライトンだけが残されていた。

 水と風の複合属性攻撃。これが、学園最強のコンビネーション。


「ヤバい、カッコイイ! 私もあんな風に活躍したい!」


 ミリアは目を輝かせてその光景を見つめていた。ただし、ミリアの見つめている先は王子ではなくあくまで繰り出された魔法攻撃だったが。


 勝利を確信する一同の前で、ブライトンの体からピシリと音がした。それはやがて全身を走る亀裂となり、そこから凄まじい量の瘴気が噴き出した。


「まだ終わってないの!?」

「いや」


 全員が見つめる前で、全身から猛烈な勢いで瘴気を噴射するブライトン。その体は時間と共にどんどん小さくなっていき、そして全ての瘴気が抜けた頃には、全身黒ずんではいるものの、元の人の姿まで戻っていた。そのままドサっと前のめりに倒れ伏した。


「……完全に瘴気は抜けているみたいだな」


 倒れたブライトンの様子を調べ、アルメニィは医務官を呼び寄せる。


「ブライトンを治療院へ。もしかしたら暴れるかもしれないからしっかり拘束しておいて」


 続けてアルメニィはミリアの元へ。


「ミリア君。お疲れのところ悪いけど、少し話を聞かせてもらえるかな。事の詳細を聞きたいんだ」




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