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セフィロトの魔法使い  作者: 黒木オレオ
第3章 結婚狂想曲
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第45話 侯爵家の誇り


「いやぁ、ビックリしたぜ。合成魔獣(キメラ)と戦ってたら突然足元から鎧百足(アーマーセンチピード)が出てきていきなり俺の襟首咥えて駆け出すんだもんなぁ。何が何だか分かんねぇまま咥えられて街の外まで連れて行かれたと思ったらあの大爆発だろ?

 マジで訳分かんねぇって」


 爆風で鎧百足(アーマーセンチピード)ごと空まで吹っ飛んでいたのか、ミリア達のところに直接舞い降りてきたレイダーとレミナ、ナルミヤ、ヴィルナの4人。

 『街の中で生き残っている人達を街の外へ連れ出す事』

 魔蟲達は与えられた任務をちゃんと完遂してくれたようである。

 ちなみに咥えられていたのはレイダーだけで、女性陣はその胴体にしがみついていた模様。


「みんなだけ? ライエルさん達は?」

「分からない。途中ではぐれた」

「まあ、あの人達の事だから大丈夫じゃない?」


 ミリアの問いに首を振るレミナとお気楽に返すヴィルナ。まあ、確かに第3軍は見た目に反して精鋭部隊だ。魔獣程度にやられるようなヤワな軍隊ではないだろう。魔蟲達にも指示を出していたし大丈夫ではあるとは思うが、それでもやはり街1つ消し飛ばすあの真紅の魔星クリムゾンダークマターの大爆発だ。不安にはなる。

 が、そんなミリアの心配を余所に、ドドドドドと言う地響きと共に人を乗せた軍隊蟻(アーミーアント)の集団が駆け込んで来た。その先頭には勇ましく剣をかざすライエルの姿。超ハイテンションである。


「ハイヤー! 魔蟲の騎士ライエル見参!

 なんてな。いいなぁ、これ。足も速いし壁だろうが何だろうが平然と駆け上がる。馬よりもよっぽど有能だぞ。シルカちゃん、こいつら第3軍に貸してくれないか?」

「あ〜、多分無理だと思います。私が近くにいないと言う事聞かないと思いますし」


 今回のはミリアの魔法の威力にびびった魔蟲達がミリアの指示通りに行動しただけで、別にシルカ以外の言う事を聞くようになった訳ではない。例外として百足龍虫(ドラゴンセンチピード)があるが、百足龍虫(ドラゴンセンチピード)は長い時間を掛けて力を得た特A級の魔巨獣(ギガントモブ)だ。あそこまでの知性を得るにはもっと時間が必要だろう。


「そうかぁ、残念だなぁ」


 本気で残念そうである。

 そもそも、魔蟲とは一種のモンスターだ。そんな魔蟲に乗って駆ける騎士など人前に出せるはずがない。ただでさえ変人扱いされている第3軍が輪をかけておかしく見られるのが火を見るよりも明らかだ。

 と、その時、奥から1匹の軍隊蟻(アーミーアント)が出て来て、咥えていたものをヒョイと投げ落とした。それは気絶したレストリルだった。


「レストリルさん? 怪我はないみたいだけど、どうしたの、これ?」

軍隊蟻(アーミーアント)に咥えられたショックで気絶したみたいよ。情けないわね」


 やれやれ、と肩を竦めるライエルの副官マリエッタ。サラジアも同様のようで冷めた目で見つめている。2人とも見た目綺麗なお姉さんなのだが、そこはやはりこの第3軍の副官。考え方はライエルと同じようだ。


「やれやれ、仕方ないわね。軍隊蟻(アーミーアント)、起こしてあげて」


 自分で起こしてまた勘違いされるのが嫌なのか。シルカは咥えて来た軍隊蟻(アーミーアント)にレストリルを起こすように指示を出した。ツンツンと顎で(つつ)くと、「う〜ん」とまるで寝起きのような声を出して目を開く。


「うう……何で寝てたんだろう。あれ? そう言えば巨大な蟻が目の前にいて……そんな訳ないか。悪い夢でもみたかな。ハハハ」

「残念ながら夢じゃないわよ」


 声のした方向に振り返ると、そこにはその巨大な蟻軍隊蟻(アーミーアント)とにこやかに笑うシルカの姿が。


「う〜ん」


 バタッ

 またレストリルは意識を手放した。






「ま、街が……バウンズが無くなってる……」


 前髪からポタポタと水滴を垂らしながら、レストリルは呆然とそう呟いた。リーレが顔に水をぶっかけて強制的に再起動させたレストリルが、街の惨状を目にした第一声である。

 領主館を中心に発展した賑やかな街並み。バルディッシュ侯爵領の中心都市であるバウンズは王都にも引けを取らないくらいの街であるとレストリルは自負していた。それが今では見る影もなく、恐らくは領主館のあったであろう場所を中心に巨大なクレーターとなっていた。


「わ、私が気絶している間に何があったんですか!」

「どこのバカかは知らないけど、領主館の地下に真紅の魔星クリムゾンダークマターが仕掛けてあったのよ」

真紅の魔星クリムゾンダークマター? 何ですか、それは?」

「見ての通り、たった1つで街1つを消し飛ばす広域破壊兵器よ。恐らく、人工合成魔獣(バイオキメラ)の研究を指示していた何者かが証拠を消し去るために仕掛けてたんでしょうね」

「そ、そうだ、兄達は? 私の兄達はどうなったんですか!?」


 レストリルの問いにミリアは黙って首を横に振る。それを見たレストリルはガクッと膝を付いた。


「そ、そんな……」

「研究所への隠し通路にレーヴァンらしき遺体があったわ。バールザックはすでに人工合成魔獣(バイオキメラ)となって暴れてた。已む無くカイトが討ち果たしたわ」

「……」

「恐らくは、この合成魔獣(キメラ)騒ぎも含めて首謀者はレバンナ卿。これが反乱なのであれば、彼らの目的地はカイオロス王国の王都カルラダに違いないわ」


 バルディッシュ侯爵家で長男レーヴァンは戦死。次男バールザックは人工合成魔獣(バイオキメラ)と化してカイトに打ち倒された。となればこの一件を仕組んだのは当主のレバンナであると考えるのが一般的だ。それにレストリルの話から推測するに、レバンナも既に自らの身体を人工合成魔獣(バイオキメラ)に変えてしまっている。

 ライエルが先程までとは打って変わって真面目な顔でレストリルにこう問いかけた。


「レストリル殿。我々魔道騎士団(オリジンナイツ)第3軍はバルトジラン陛下とシグノア殿下の命を受けて貴方に力を貸している。それを踏まえて貴方に聞きたい。貴方はこれからどうするのかを」

「これから……」

「貴方も知っての通り、貴方の父レバンナ卿はカイオロス王家に反旗を翻した。恐らくはバルディッシュ侯爵家は取り潰しになるだろう。貴方の命も保証はできない。

 だから、我々としてはこのまま貴方がこの国から出ると言う選択をしても、それを阻んだりはしない。

 だが、貴方が侯爵家の責任を持って父のレバンナ卿を止めようと言うのであれば、我々もそれに協力しよう」


 ヴァナディール王国では貴族による反乱の場合、それを主導した貴族は連座で一族郎党全てが罪に問われる。多少の例外はあるが、後顧の憂いを断つにはそれが最善であると考えられたためだ。

 それはカイオロス王国でも同じ。そうなるとレストリルもこの騒乱後に連座で首を刎ねられてもおかしくはない。ならば今の内に国外に逃げてしまうのも1つの選択だ。

 だが、レストリルは――


「確かに、命が惜しいのであればここで逃げるのが最善かもしれません。

 でも、私は末席とはいえバルディッシュ侯爵家に名を連ねる者です。父の暴挙を、見て見ぬ振りをする訳にはいかない!」

「貴方の未来には光はないかもしれませんよ?」

「それでもです」


 レストリルの目には迷いはない。そう判断したライエルは「分かりました」と頷いた。


「では、我々魔道騎士団(オリジンナイツ)第3軍。貴方と共に決戦へと赴きましょう」


 そう言い終わると、今度はミリアの方に目を向ける。


「ミリアさん達はどうする? 君達は軍属じゃないからな。ここでヴァナディールに帰っても誰も文句は言わないが」

「冗談! 私達も行きます。陛下からの依頼はまだ達成したとは言えませんので」


 言いつつ、バウンズの惨状に目を向ける。

 真紅の魔星クリムゾンダークマターで街ごと証拠を消されてしまった以上、これ以上の詳しい事はレバンナの口から聞き出すしかない。


「レバンナ卿が王都に向かってからかなり時間が経ってるわ。こうなったら手段を選んでられないわね」


 ミリアは決断する。


「シルカ、飛行部隊(ドラゴンフライ達)をお願い」


 シルカは頷き召喚陣を広げる。


「出ておいで、龍蜻蛉(ドラゴンフライ)達!」









 ミリア達を背に乗せ、天を滑空する20体もの龍蜻蛉(ドラゴンフライ)達。討伐ランクで言えばBクラスの龍蜻蛉(ドラゴンフライ)だが、20もの数で襲えば一流の冒険者や騎士団でも一溜まりもないだろう。そんな人が見れば恐慌を引き起こす事間違いなしの軍団なのだが、雲の上を飛行しているためかまだ人目には触れていない。


 少し高度を落として地上を見ると、村の残骸や戦場になったであろう痕跡がいくつか見られた。破壊された建物らしき廃墟や、戦った兵士のものらしき折れた槍や剣。鎧兜の残骸などが無造作に投げ捨てられている。


「戦闘になったように見えるが、兵士の死体が全く見えないな」


 ライエルがそう疑問を口にする。確かに、地面に煤けた跡なども見えるから、魔法攻撃を含めた戦闘行為があった事は間違いない。だが、その犠牲者のものらしき遺体が1つも転がっていないのだ。


「レストリルさんの話を聞いた時からもしかしたらと思ってたけど、どうやら間違いなさそうね」

「ミリアちゃん?」


 バルトジラン王との話の当事者でなかったリーレは首を傾げる。


「レバンナ卿もすでに人工合成魔獣(バイオキメラ)になってると考えられてるんだけど、レストリルさんに聞いた情報と今見てきた状況から融合された魔獣の種類が見えてきたかなって」

「種類、ですか」

「多分、レバンナ卿が融合した魔獣は不定形魔獣(スライム)系だと思う」

「スライム系か。これはまた厄介ね」


 リーレの反対側に座っていたエクリアが嫌そうに顔をしかめる。


 スライムは不定形魔獣の名の通り特定の形を持たず、流動する体を持つ魔獣の総称である。その流動する身体の特性上物理的な攻撃はほとんど効果がなく、魔法攻撃ですらあまり効果的ではない。

 弱点は身体のどこかにある核で、これを破壊すればスライムは形を保っていられなくなり崩壊する。

 小さいスライムならば脅威度はほとんどなく、子供でも踏み潰してしまえば倒せるくらい。だが、それが一定の大きさ以上になると一気に脅威度が跳ね上がる。身体の大きさに対して核の大きさが比例しないので倒すのがかなり難しくなるのだ。


「レバンナ卿と融合したスライム。できればマナスライムじゃない事を祈りたいけど……」


 そんな事を言うミリアだが、自分でも分かっている。



 こう言う時の自分の嫌な予感だけはよく当たると言う事を。






この作品のスライムは弱くありません。

どちらかと言うとファイナルファンタジーのプリン系が近いかも。

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