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セフィロトの魔法使い  作者: 黒木オレオ
第3章 結婚狂想曲
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第42話 カイトの戦い


「出てっちゃったわね」

「今の内に屋敷を調べちゃいましょうか」


 穴から外を覗くエクリアとミリア。とりあえず邪魔者はいなくなったので、さっさと自分達の目的を優先させようとする。が、そうは問屋が卸さなかった。


「まテェェェェェイ!」


 再び今度は外から壁をぶち抜いてバールザックが戻って来た。ミリアが露骨に舌打ち1つ。


「チッ、戻って来たのか」

「オマエタチ、もくてきハちかノけんきゅうしせつダナァ! アソコハちちうえカラだれモとおスナトいワレテルンダァァァ! かって二ちかヅクナ!」

「地下に研究施設? それって人工合成魔獣(バイオキメラ)の?」

「ダアッハッハッハッハ! ソウダトしッテテモだれガおしエルカアァァァ!」


 頼んでもいないのにベラベラと機密情報を喋るバールザック。こいつは隠す気があるのだろうか、と思うミリアだったが、今回は都合が良い。労せずして重要情報が手に入ったのだから。


「なるほど、どうやら目的は地下研究施設にあるみたいね」

「ナニィ!? ナンデソレヲしッテルンダ!」

「何でも何も……ねえ?」

「言わぬが花かな」

「ヌググググ、しラレタナラバしかたナイ。ぜんいんココデしンデモラウゾ!」


 言うと同時にバールザックは大きく身体を横に回転させる。そして丸太ほどの太さのある大きな尻尾で目の前を薙ぎ払った。ミリア達は身体強化を施した足でその尻尾攻撃を飛び越える。


「危ないわね! レディには優しくしろって親に教えられなかったの!?」

「エ? エット、ソレハ……」


 ある意味無茶苦茶なミリアの論法だがバールザックは本気で悩んでいるようだ。根は悪い人では無さそうではある。ちょっと知能がどうかとは思うが。


「よし、今の内に」

「ハッ! だめダトいッテルダロ!」


 こっそり抜けようとしたミリアに気付いたバールザックがその巨大な手を叩きつける。咄嗟にバックステップで回避するが、打ち付けられた手で砕かれた床の破片がミリアの頬を掠めた。そこからツーっと細く赤い血が流れる。


「ソウダ、ちちうえガいッテイタゾ!

 きキワケノナイおんなニハせっかんシテデモいウことヲきカセロッテ!」

「乙女の顔に傷を付けておいて開き直るなんて」

「うわぁ〜、最悪ね」

「最低です」

「男の風上にも置けないな」

「私、そう言う人とはちょっとねぇ」


 言いたい放題のミリア達にバールザックが激昂する。


「ガアァァァァ! ウルサイウルサイ!

 ぼくノヤルことハただシインダ! オまえたちハぼくノいウことヲきイテイレバイインダ!」


 まるで駄々っ子のように暴れ出す。あの巨体であれをやられたら酷く危ない。ミリア達は一旦間合いを離した。


「とまあ、バールザックで遊ぶのもこの辺にして」

「遊んでたんだ」


 シルカが呆れ顔だが、ここはあえて流して話を続ける。


「どうやらこの屋敷の地下に研究施設があるって事で間違いなさそうね」

「うん。あのバールザックの様子からしてその辺は間違いないと思う」

「そして、その入り口はバールザックの奥の通路にある、か」


 ミリア達の目がバールザックの奥へと向けられる。そこには瓦礫が積もってはいるが、奥へと続く通路の入り口が顔を覗かせている。


「あそこに行くにはやっぱりあの巨体が邪魔ね。とりあえず風の魔法で吹っ飛ばそうと思うんだけど」

「風の魔法なら私が手伝うわ」


 そうシルカが進み出た。ミリアが「お願い」と頷く。


「ぼくヲむしスルナアァァァ!」


 バールザックがドスドスと地面を踏み鳴らしながら突撃してくる。ミリアとシルカは素早く魔力を練り上げた。


「一緒に行くよ、シルカ!」

「いつでもどうぞ!」

「せーの!」


「「豪風の炸裂弾(インパルスバースト)!!」」


 2人の魔道士から放たれた魔法は共に絡み合い、巨大かつ強力無比な豪風の塊へと姿を変えバールザックを直撃した。流石にそれにはたまらずバールザックは後方へと吹っ飛ばされゴロゴロ転がって壁に衝突。砕かれた壁と崩落した天井の瓦礫に埋まった。

 その隙にミリア達が通路へと向かおうとするが、その瞬間瓦礫が吹き飛んだ。そこからのそりと立ち上がるバールザックの影が。


「だめダッテ……いッテルダロォ!」


 大きく開いた口。その前に魔力の輝きが宿り、やがてそれは燃え盛る炎へと姿を変えた。

 竜の吐息(ドラゴンブレス)の中でも特にメジャーな火炎のブレスだ。


「マズい、みんな飛び込め!」


 ミリアが通路に飛び込むのと火炎のブレスが通路の入り口に直撃するのがほぼ同時だった。転がり込んだミリアは身体を起こすと周囲を確認する。


「大丈夫!?」


 見るとミリアの近くにエクリアとリーレが倒れていた。2人ともかすり傷くらいはあるものの、それ以外の外傷はなさそうだ。


「カイトとシルカは!?」

「私達はこっち」


 それはさっきの火炎のブレスの衝撃で塞がった通路の入り口から聞こえて来た。


「分断されたけど、私もカイトも大丈夫よ」

「すぐに通路を開けるわ」

「いや、それよりもミリアさん達は先に進んでくれ。俺とシルカはバールザックの相手をする」

「え!? 大丈夫なの?」

「厳しい相手だけど何とかする。それに、このバールザックとは俺とシルカでケリをつけるべきだと思うんだ」


 この騒動の始まりはこのバールザックとシルカの結婚話から始まった。ならば、この戦いの決着もカイトとシルカの2人で着けるべき。それが2人の意思なのだろう。


「分かった、2人に任せるわ。とにかく、竜の咆哮には気をつけて。アレは恐怖心を掻き立てるわ。意思を強く持って跳ね返すのよ」

「咆哮か。分かった、気をつける」

「じゃあ、後でまた会いましょう!」


 そう言って(きびす)を返すと、そのままミリア達は振り返らずに奥へと向かった。

 広間に残った2人。迫って来るバールザックの巨体を見据える。その手には廊下に設置してあった大きな燭台を握っている。バールザックの巨体と相まって、まるで神官戦士の持つメイスのように見えた。


「さて。ああ言ったものの、どうやって戦うか。俺、まだドラゴンと戦った事ないんだよなぁ」

「大丈夫よ、カイト。心配しなくても、普通なら無いのが当然よ」

「でも、ミリアさん達、戦った経験がありそうだったぞ」

「ミリア達に一般常識を当てはめるのは間違ってる気がするわ」


 ズシン、とバールザックが踏み出すたびに地面を振動が伝う。

 ミリアの言う注意点の1つとして挙げられた竜の咆哮。先程、バールザックの雄叫びでカイトは心臓が握り締められるかのような圧迫感を感じた。恐らくあれが竜の咆哮なのだろう。接近戦では一瞬の身体の竦みが命取りになる。あの巨体相手だと尚更だろう。

 カイトとシルカの前まで来たバールザックは不適な笑みを浮かべている。


「グフフ……ぼくトたたカオウッテいウノカ?

 ざんねんダケド、いまノぼくハまえマデノぼくジャナイ。ぼくハつよクナッタンダ。ぼく二はむかウやつ。ぼくヲばか二スルやつヲつぶセルちからヲえタンダ!」


 バールザックは手に持った燭台を振り上げ、


「ぼくトしるかチャンノじゃまヲスルやつラモミンナつぶシテヤル!」


 唸りを上げてカイト目掛けて振り下ろされた。カイトは素早く横っ跳びでその場から跳び退いた。燭台は床を穿ち、衝撃で轟音と床の破片が周囲に撒き散らされる。


「このっ!」


 跳ね上がるように起き上がり、カイトはバールザックに向かって地を蹴る。横に薙ぎ払う燭台の一撃を下を潜るように回避し、そのままの勢いで右脇から左肩に向けて斬り上げた。


「!?」


 皮膚を斬りつけたはずなのに、まるで硬い金属の塊を叩いたような手応え。これがドラゴンの鱗、竜鱗の強度。純粋な竜族の鱗ではないとは言え、その硬さは馬鹿にならない。

 初めての手応えに驚愕するカイトだが、驚いている暇は与えられない。バールザックの背後から長い尻尾が鞭のように叩きつけられる。咄嗟だった事もあり、カイトは跳んで避けるしかなかった。しかしそれは最大の悪手。空中では方向は変えられない。真横からバールザックの巨大な手がカイトを叩き飛ばした。

 その威力は強力無比。カイトの身体は弾丸のように弾き飛ばされ、柱2本をぶち抜き壁に直撃。そのまま崩れる瓦礫と埃の中に消えた。


「カイト!」


 思わずシルカはカイトが飛ばされた方に目を向ける。その隙にバールザックはドスドスと小走りに駆け寄ると、その大きな手でシルカを掴み上げた。


「あっ!」

「グフフフフ、オまタセ。じゃまものハかたヅイタシ、ヤットふたりキリダネェ」

「は、離しなさいよ! 豪風の砲弾(インパルスボール)!」


 顔を近づけるバールザックに豪風の魔法を叩き込んだ。今のシルカの魔力ならば大型の魔獣でさえも吹っ飛ばせる威力。だが、このバールザックに与えた影響は少し退け反らせる事だけだった。


「なにカシタカナァ? デヘヘヘ、ソンナきノつよイトコロモみりょくてきダネェ」


 さらに顔を近づけて来るバールザックから何とか逃れようとシルカは顔を背ける。魔蟲達を呼ぶための紋章陣が描かれた羊皮紙は全て服の中。バールザックの大きな手で握られているこの状態では使えない。

 まさに絶体絶命。そんなお姫様のできる事は助けを呼ぶ事だけだった。


「カ、カイト! 助けて!」

「デヘヘヘ、しるかチャン。モウあきらメテぼくト――」


 そうバールザックが言いかけたその時、カイトが埋もれていた瓦礫の山が爆散するように飛び散った。

 その中からゆらりと起き上がる1つの影が。


「シルカを離せ」


 カイトはゆらりと剣を下げて歩み寄る。その全身には黄金色のオーラで包まれていた。




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